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秋葉街道似多栗毛12  三倉川

(挿絵/娘、三倉川を越して来る)

三倉川、夕立雨にて少し水出て

     秋葉へは まだ三里ある 三倉川 奥の院まで 見ゆるおかしさ


   *    *    *    *    *    *    *

秋葉街道似多栗毛の解読を続ける。上記の挿絵と歌は本文より少し後に載せられている。本来の位置へ戻して紹介する。

かれこれする内に、俄かに夕立降りて来たり。雷はげしく雨は細引のように降りて止まず。二人は川中にて水を案じ、急ぎ合羽を出し、仕度して立ち、川端へ行けば、水はまん/\として濁り、深さ知れず。どこを越すべき所も見えず、困り果てしに、折節、下を見れば、十五、六の娘、越して来るを見るに、何やらどうか見えそうになる。喜太八を見て、笑いながら、隠して川を越して来る。喜太八は鳩の豆畑へ降りたような顔で、のぞいて見て居る。娘は川下の堤へ上り行く。
※ 鳩の豆畑へ降りたような顔 - 「鳩が豆鉄砲」ではなくて、よだれを垂らさんばかりの顔といったところか。

喜太八「弥二さん、あの娘の越すを見ねい。あせいぞえ、越さねいか」と、尻をまくり、入りしに、事の外、ここは深くして、二人ながら漸々と向うへ上る。とんだ目に逢うたわいと着物をしぼる。空も晴れ、雨も止みければ、莨を呑み、しばらく休みながら、

 北八 娘子が まえゆ着に はまり込み 深く濡れたる 夕立の水
※ まえゆ着(ゆぎ)- 「まえ行きに」と読めるが、それでは面白くない。「ゆ着」を「入浴の際に身にまとう湯浴み着」の意味でとらえた方が面白いか。

それより、川を避け、山を廻り、色々として、漸々一ノ瀬へ出る。ここは茶屋とて休み、先ず川を上った祝いに酒を呑み酔いたるまゝに、

     登りて また渡り行く いろは川 川と山とに 秋葉街道

いろ/\と戯れながら、ここを出る。坂を登るに、北八、大きに酔いが出て、寝たり起きたりし、漸く坂中の茶屋に至り、折よく、からしり馬来たり。
※ からしり馬(軽尻馬)- 江戸時代、宿駅で旅人を乗せるのに使われた駄馬。

馬子「なんと旦那、帰りだ。乗って御出んか」と云う。弥次「(北八に)乗らねいか、それでは行けめい」
喜太八「どこまで乗せる」馬子「宿までゆかずに」
※ ゆかず - (方言)行きましょう。
北八「いくらで行く」馬子「弐百さ」
北八「酒手もよこすか」馬子「どうでもようござります」と、馬に乗りて行く。
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