朴槿恵大統領の政権下、韓国は反日的な姿勢を強めてきた。その背景には、韓国社会のかつてない閉塞感があることを、拓殖大学総長の渡辺利夫氏が指摘している。渡辺氏は言う。「韓国の反日は社会に深く潜む病理的閉塞の表れなのである」と。
渡辺氏は、韓国は、鉄鋼や石油化学などの重要産業で、欧米や日本が生産開始から先発国の生産量に到達するまでに要した歴史的時間を「圧縮」する、急速な発展過程をたどった特有の後発国であるとし、韓国の発展を「圧縮型発展」と呼ぶ。圧縮型発展の結果、韓国は所得水準からみれば先進国であり、OECDの加盟国である。しかし、「先進国というにふさわしい内的成熟を経ないまま衰退化に向かい始めた奇妙な先進国」だと渡辺氏は述べている。
韓国は1970年代からNIES(新興工業経済地域)の一角として急速に発展した。だが、2010年代に入って衰退化への道に踏み込み、成長率3%台が恒常化している。また少子高齢化が他の先進国に例をみない速度で進んでいる。渡辺氏は、この衰退化の速度が先発国を「圧縮」している、と言う。この発展の過程も衰退の過程も「圧縮」されているという表現は、優れた表現だと思う。
具体的にはどういうことか。
・「合計特殊出生率」が1990年代から急降下し、2005年には1・08という最低水準に達し、同年の日本の1・26を下回った。
・総人口に占める65歳以上人口の比率が7%から14%へと「倍加」する時間が、日本は1970年から94年までの24年間で最速だったが、韓国は2000年から2018年までの18年間となることが確実視されている。
・少子高齢化の問題に対する政府の認識が甘かったために政策的対応が遅れた。
・旧来の財閥系企業主導の成長モデルが機能不全となって低成長となり、政策原資の確保に見通しが立っていない。
・韓国の財閥系企業は、事業所の海外移転によって国内雇用が萎縮し、新興国の景気低迷により事業収益が悪化、国内新規採用の減速は厳しい。
・15~24歳人口の就業率は経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国中最も低い水準にある。加えて若年層の失業率が最も高く、しかも就業した若者の34%が非正規労働者である。少子化はその不可避の帰結である。
・高齢者の相対的貧困率(所得分布における中央値の2分の1に達しない貧困層比率)はOECD諸国中で最も高く、現在もなお上昇中である。
・高齢者の10万人当たりの自殺者数は82人に及び、日本の18人を大きく上回る。
・社会保障費の対GDP(国内総生産)比は8%に満たず、OECD諸国中で最低のレベルにある。
・国民医療保険において本人負担は5割に近。
・国民年金制度の導入が遅れたために制度に加入できなかったり、加入年限が短かったりする高齢者が多い。基礎年金は、貧困高齢者を救済できるレベルをはるかに下回っている。
等々である。
こうした社会の動向が、韓国の社会にかつてない閉塞感を生んでいる。渡辺氏は言う。「長らくこの国を眺めてきた私も、韓国社会の閉塞感がこれほどまでに高まった時期を他に知らない。国民の政治的凝集力を強めて辛くも社会の崩落を免れるには、無謀と知りつつも反日運動というポピュリズムに努めるより他に選択肢はないのであろう」と。
韓国出身で日本に帰化した呉善花氏は、韓国の朴槿恵大統領への名誉毀損で、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長が在宅起訴された問題に関して、昨年10月次のように述べていた。
「韓国では『反日』に対しては右も左もない。朴政権が今、一番恐れているのは支持率の下落だ。国民から朴大統領は反日の手を緩めたと思われると非難される。非難されると大統領の支持率は下落し、支持率が下がれば側近は離れ、政権が危機に陥る可能性が出てくる。国のリーダーは、いくら反日的であっても、自らはそれを表に見せてはいけない。逃げ道がなくなるからだ。だが、朴大統領は自ら反日的な発言をするなど、これまで反日路線を続けてきた。それだけに、今さら反日をやめたと受け止められるような対応はできず、国内外の批判の間で、ジレンマに陥っている」と。
朴大統領は、このジレンマの中で、反日繋がりの中国への傾斜を深めている。2013年度の韓国の輸出相手国は中国26.1%、アメリカ11.1%、日本6.2%、同じく輸入国は中国16.1%、日本11.6%、アメリカ8.1%だった。既に韓国は人民元建て貿易決済が急速に普及し、「元経済圏」と化しつつある。中国による2050年の東アジアの予想地図では、朝鮮半島は「朝鮮省」と記されている。「省」ということは「四川省」「山東省」等と同じく、中国の一部である。韓国は北朝鮮ともども、中国の一部になっているという予想である。
近代の朝鮮は、ロシアの勢力圏に入るか、シナの勢力圏に入るか、日本の勢力圏に入るかの選択を迫られた。日本にとっても、朝鮮がロシアやシナの支配下に組み込まれれば、直接これらの大国と領域を接することになり、安全保障上、重大な問題を生じる。そこで、日清戦争、日露戦争は朝鮮半島を巡る戦いとなり、これらの勝者となった日本は韓国を併合した。韓国は日本の統治下でめざましい経済成長をした。それが戦後の韓国の発展の基礎となっている。だが、現在の韓国は、日本の統治時代を全否定し、激しい反日活動を行っている。既に急速な衰退化の過程に入ってしまった韓国が、このまま反日を続けていけば、中国に呑み込まれることは避けられない。その道は、シナの共産党支配による民族滅亡の道だろう。チベットや新疆ウイグルと運命を共にしたくなかったら、これまでの反日を改め、戦前の日本統治時代を再評価し、自由・民主主義・人権・法の支配等の価値を共にする日本や米国との連携に立ち戻るしかないと知ることである。
以下は、渡辺氏の記事の全文。
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●産経新聞 平成27年5月27日
2015.5.27 05:08更新
【正論】
韓国衰退化の病理としての反日 拓殖大学総長・渡辺利夫
韓国は、鉄鋼や石油化学などの重要産業で、欧米や日本が生産開始から先発国の生産量に到達するまでに要した歴史的時間を「圧縮」する、急速な発展過程をたどった特有の後発国である。私はこれに「圧縮型発展」と名づけたことがある。圧縮型発展の結果、韓国の1人当たり所得水準は、各国の国内物価水準で調整された為替レートで測れば日本とさして変わらないレベルにまで達している。
≪就業期待が持てない若者たち≫
しかし、この韓国も2010年代に入って衰退化への道に踏み込み、成長率3%台の恒常化を余儀なくされている。しかも、その衰退化の速度が先発国を「圧縮」しているのである。少子高齢化問題解決の緊急性を最も強く抱えもつ国が日本だといわれて久しい。しかし、韓国の少子高齢化は日本をさらに「圧縮」しており、政策対応の暇(いとま)もないままに社会は閉塞(へいそく)状況に追いこまれつつある。
1人の女性が生涯を通じて産む子供の数が「合計特殊出生率」である。この比率が2・1近傍を維持して一国の人口数は長期的に安定する。韓国の同比率は1990年代に入るや急降下し、2005年には1・08という最低水準に達し、同年の日本の1・26を下回った。高齢化の進行も加速度的である。総人口に占める65歳以上人口の比率が7%を超えれば「高齢化社会」、14%を超えれば「高齢社会」と称される。高齢人口比率が7%から14%へと「倍加」する時間をみると、最速の日本は1970年から94年までの24年間であったが、韓国は2000年から2018年までの18年間となることが確実視されている。
韓国は他の先進国に例をみない速度で少子高齢化が進んでいるにもかかわらず、この問題に対する政府の認識が甘かったために政策的対応が遅れてしまった。加えて旧来の財閥系企業主導の成長モデルが機能不全となって低成長となり、政策原資の確保に見通しが立っていない。
何よりも一国の将来を担う若者に就業への期待を持たせることができていない。学歴偏重社会の伝統はなお根強く、大学進学率は71%の高さにあって教育費支出はすでに厳しい家計負債を一段と深刻化させる要因となっている。苛烈な受験競争に打ち勝って大学に入っても財閥系企業に就業の場を見いだすことは難しい。
≪劣悪な高齢者の生活保障≫
韓国の財閥系企業は、中国など新興国を舞台にグローバルな事業展開を推進してきた。しかし、事業所の海外移転によって国内雇用が萎縮し、新興国の景気低迷により事業収益が悪化、国内新規採用の減速は厳しい。高学歴化を反映して韓国の15~24歳人口の就業率は経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国中最も低い水準にある。加えて若年層の失業率が最も高く、しかも就業した若者の34%が非正規労働者である。少子化はその不可避の帰結なのである。
朴槿恵大統領は、選挙戦に際して「65歳以上のすべての高齢者に月額20万ウォンの基礎老齢年金を支給する」と公約して当選した。1世帯の月額平均所得が452万ウォンの社会において20万ウォン程度のバラマキが選挙民の支持の要因となること自体が、韓国の高齢者の生活保障がいかに劣悪な状況下にあるかを物語る。にもかかわらず、この基礎年金制度を公約通りに実施するだけの財政的余力は乏しく、下位所得者のみへの限定支給という修正を余儀なくされている。
≪かつてない社会の閉塞感≫
韓国の高齢者の相対的貧困率(所得分布における中央値の2分の1に達しない貧困層比率)はOECD諸国中で最も高く、現在もなお上昇中である。高齢者の10万人当たりの自殺者数は82人に及び、日本の18人を大きく上回る。家産の継承者たる長男が同居する両親を扶養するという伝統的な男子単系制社会の家族維持機能は、もはや不全化の過程にある。
韓国の社会保障費の対GDP(国内総生産)比は8%に満たず、OECD諸国中で最低のレベルにある。国民医療保険において本人負担は5割に近く、国民年金においては、年金制度の導入が遅れたために制度に加入できなかったり、加入年限が短かったりする高齢者が多い。彼らの年金不足に対応するものが基礎年金であるが、貧困高齢者を救済できるレベルをはるかに下回っている。
韓国は所得水準からみれば先進国であり、現にOECD加盟国である。しかし、先進国というにふさわしい内的成熟を経ないまま衰退化に向かい始めた奇妙な先進国なのである。長らくこの国を眺めてきた私も、韓国社会の閉塞感がこれほどまでに高まった時期を他に知らない。国民の政治的凝集力を強めて辛くも社会の崩落を免れるには、無謀と知りつつも反日運動というポピュリズムに努めるより他に選択肢はないのであろう。
「明治日本の産業革命遺産」の登録に対するいかにも度量を欠いた韓国政府の反対などには、日本人はもう嫌悪感しかない。韓国の反日は社会に深く潜む病理的閉塞の表れなのである。(わたなべ としお)
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渡辺氏は、韓国は、鉄鋼や石油化学などの重要産業で、欧米や日本が生産開始から先発国の生産量に到達するまでに要した歴史的時間を「圧縮」する、急速な発展過程をたどった特有の後発国であるとし、韓国の発展を「圧縮型発展」と呼ぶ。圧縮型発展の結果、韓国は所得水準からみれば先進国であり、OECDの加盟国である。しかし、「先進国というにふさわしい内的成熟を経ないまま衰退化に向かい始めた奇妙な先進国」だと渡辺氏は述べている。
韓国は1970年代からNIES(新興工業経済地域)の一角として急速に発展した。だが、2010年代に入って衰退化への道に踏み込み、成長率3%台が恒常化している。また少子高齢化が他の先進国に例をみない速度で進んでいる。渡辺氏は、この衰退化の速度が先発国を「圧縮」している、と言う。この発展の過程も衰退の過程も「圧縮」されているという表現は、優れた表現だと思う。
具体的にはどういうことか。
・「合計特殊出生率」が1990年代から急降下し、2005年には1・08という最低水準に達し、同年の日本の1・26を下回った。
・総人口に占める65歳以上人口の比率が7%から14%へと「倍加」する時間が、日本は1970年から94年までの24年間で最速だったが、韓国は2000年から2018年までの18年間となることが確実視されている。
・少子高齢化の問題に対する政府の認識が甘かったために政策的対応が遅れた。
・旧来の財閥系企業主導の成長モデルが機能不全となって低成長となり、政策原資の確保に見通しが立っていない。
・韓国の財閥系企業は、事業所の海外移転によって国内雇用が萎縮し、新興国の景気低迷により事業収益が悪化、国内新規採用の減速は厳しい。
・15~24歳人口の就業率は経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国中最も低い水準にある。加えて若年層の失業率が最も高く、しかも就業した若者の34%が非正規労働者である。少子化はその不可避の帰結である。
・高齢者の相対的貧困率(所得分布における中央値の2分の1に達しない貧困層比率)はOECD諸国中で最も高く、現在もなお上昇中である。
・高齢者の10万人当たりの自殺者数は82人に及び、日本の18人を大きく上回る。
・社会保障費の対GDP(国内総生産)比は8%に満たず、OECD諸国中で最低のレベルにある。
・国民医療保険において本人負担は5割に近。
・国民年金制度の導入が遅れたために制度に加入できなかったり、加入年限が短かったりする高齢者が多い。基礎年金は、貧困高齢者を救済できるレベルをはるかに下回っている。
等々である。
こうした社会の動向が、韓国の社会にかつてない閉塞感を生んでいる。渡辺氏は言う。「長らくこの国を眺めてきた私も、韓国社会の閉塞感がこれほどまでに高まった時期を他に知らない。国民の政治的凝集力を強めて辛くも社会の崩落を免れるには、無謀と知りつつも反日運動というポピュリズムに努めるより他に選択肢はないのであろう」と。
韓国出身で日本に帰化した呉善花氏は、韓国の朴槿恵大統領への名誉毀損で、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長が在宅起訴された問題に関して、昨年10月次のように述べていた。
「韓国では『反日』に対しては右も左もない。朴政権が今、一番恐れているのは支持率の下落だ。国民から朴大統領は反日の手を緩めたと思われると非難される。非難されると大統領の支持率は下落し、支持率が下がれば側近は離れ、政権が危機に陥る可能性が出てくる。国のリーダーは、いくら反日的であっても、自らはそれを表に見せてはいけない。逃げ道がなくなるからだ。だが、朴大統領は自ら反日的な発言をするなど、これまで反日路線を続けてきた。それだけに、今さら反日をやめたと受け止められるような対応はできず、国内外の批判の間で、ジレンマに陥っている」と。
朴大統領は、このジレンマの中で、反日繋がりの中国への傾斜を深めている。2013年度の韓国の輸出相手国は中国26.1%、アメリカ11.1%、日本6.2%、同じく輸入国は中国16.1%、日本11.6%、アメリカ8.1%だった。既に韓国は人民元建て貿易決済が急速に普及し、「元経済圏」と化しつつある。中国による2050年の東アジアの予想地図では、朝鮮半島は「朝鮮省」と記されている。「省」ということは「四川省」「山東省」等と同じく、中国の一部である。韓国は北朝鮮ともども、中国の一部になっているという予想である。
近代の朝鮮は、ロシアの勢力圏に入るか、シナの勢力圏に入るか、日本の勢力圏に入るかの選択を迫られた。日本にとっても、朝鮮がロシアやシナの支配下に組み込まれれば、直接これらの大国と領域を接することになり、安全保障上、重大な問題を生じる。そこで、日清戦争、日露戦争は朝鮮半島を巡る戦いとなり、これらの勝者となった日本は韓国を併合した。韓国は日本の統治下でめざましい経済成長をした。それが戦後の韓国の発展の基礎となっている。だが、現在の韓国は、日本の統治時代を全否定し、激しい反日活動を行っている。既に急速な衰退化の過程に入ってしまった韓国が、このまま反日を続けていけば、中国に呑み込まれることは避けられない。その道は、シナの共産党支配による民族滅亡の道だろう。チベットや新疆ウイグルと運命を共にしたくなかったら、これまでの反日を改め、戦前の日本統治時代を再評価し、自由・民主主義・人権・法の支配等の価値を共にする日本や米国との連携に立ち戻るしかないと知ることである。
以下は、渡辺氏の記事の全文。
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●産経新聞 平成27年5月27日
2015.5.27 05:08更新
【正論】
韓国衰退化の病理としての反日 拓殖大学総長・渡辺利夫
韓国は、鉄鋼や石油化学などの重要産業で、欧米や日本が生産開始から先発国の生産量に到達するまでに要した歴史的時間を「圧縮」する、急速な発展過程をたどった特有の後発国である。私はこれに「圧縮型発展」と名づけたことがある。圧縮型発展の結果、韓国の1人当たり所得水準は、各国の国内物価水準で調整された為替レートで測れば日本とさして変わらないレベルにまで達している。
≪就業期待が持てない若者たち≫
しかし、この韓国も2010年代に入って衰退化への道に踏み込み、成長率3%台の恒常化を余儀なくされている。しかも、その衰退化の速度が先発国を「圧縮」しているのである。少子高齢化問題解決の緊急性を最も強く抱えもつ国が日本だといわれて久しい。しかし、韓国の少子高齢化は日本をさらに「圧縮」しており、政策対応の暇(いとま)もないままに社会は閉塞(へいそく)状況に追いこまれつつある。
1人の女性が生涯を通じて産む子供の数が「合計特殊出生率」である。この比率が2・1近傍を維持して一国の人口数は長期的に安定する。韓国の同比率は1990年代に入るや急降下し、2005年には1・08という最低水準に達し、同年の日本の1・26を下回った。高齢化の進行も加速度的である。総人口に占める65歳以上人口の比率が7%を超えれば「高齢化社会」、14%を超えれば「高齢社会」と称される。高齢人口比率が7%から14%へと「倍加」する時間をみると、最速の日本は1970年から94年までの24年間であったが、韓国は2000年から2018年までの18年間となることが確実視されている。
韓国は他の先進国に例をみない速度で少子高齢化が進んでいるにもかかわらず、この問題に対する政府の認識が甘かったために政策的対応が遅れてしまった。加えて旧来の財閥系企業主導の成長モデルが機能不全となって低成長となり、政策原資の確保に見通しが立っていない。
何よりも一国の将来を担う若者に就業への期待を持たせることができていない。学歴偏重社会の伝統はなお根強く、大学進学率は71%の高さにあって教育費支出はすでに厳しい家計負債を一段と深刻化させる要因となっている。苛烈な受験競争に打ち勝って大学に入っても財閥系企業に就業の場を見いだすことは難しい。
≪劣悪な高齢者の生活保障≫
韓国の財閥系企業は、中国など新興国を舞台にグローバルな事業展開を推進してきた。しかし、事業所の海外移転によって国内雇用が萎縮し、新興国の景気低迷により事業収益が悪化、国内新規採用の減速は厳しい。高学歴化を反映して韓国の15~24歳人口の就業率は経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国中最も低い水準にある。加えて若年層の失業率が最も高く、しかも就業した若者の34%が非正規労働者である。少子化はその不可避の帰結なのである。
朴槿恵大統領は、選挙戦に際して「65歳以上のすべての高齢者に月額20万ウォンの基礎老齢年金を支給する」と公約して当選した。1世帯の月額平均所得が452万ウォンの社会において20万ウォン程度のバラマキが選挙民の支持の要因となること自体が、韓国の高齢者の生活保障がいかに劣悪な状況下にあるかを物語る。にもかかわらず、この基礎年金制度を公約通りに実施するだけの財政的余力は乏しく、下位所得者のみへの限定支給という修正を余儀なくされている。
≪かつてない社会の閉塞感≫
韓国の高齢者の相対的貧困率(所得分布における中央値の2分の1に達しない貧困層比率)はOECD諸国中で最も高く、現在もなお上昇中である。高齢者の10万人当たりの自殺者数は82人に及び、日本の18人を大きく上回る。家産の継承者たる長男が同居する両親を扶養するという伝統的な男子単系制社会の家族維持機能は、もはや不全化の過程にある。
韓国の社会保障費の対GDP(国内総生産)比は8%に満たず、OECD諸国中で最低のレベルにある。国民医療保険において本人負担は5割に近く、国民年金においては、年金制度の導入が遅れたために制度に加入できなかったり、加入年限が短かったりする高齢者が多い。彼らの年金不足に対応するものが基礎年金であるが、貧困高齢者を救済できるレベルをはるかに下回っている。
韓国は所得水準からみれば先進国であり、現にOECD加盟国である。しかし、先進国というにふさわしい内的成熟を経ないまま衰退化に向かい始めた奇妙な先進国なのである。長らくこの国を眺めてきた私も、韓国社会の閉塞感がこれほどまでに高まった時期を他に知らない。国民の政治的凝集力を強めて辛くも社会の崩落を免れるには、無謀と知りつつも反日運動というポピュリズムに努めるより他に選択肢はないのであろう。
「明治日本の産業革命遺産」の登録に対するいかにも度量を欠いた韓国政府の反対などには、日本人はもう嫌悪感しかない。韓国の反日は社会に深く潜む病理的閉塞の表れなのである。(わたなべ としお)
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