ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権184~キリスト教の合理化と「呪術の追放」

2015-08-06 08:50:12 | 人権
●キリスト教の合理化と「呪術の追放」

 理神論は、プロテスタンティズムによる宗教の合理化の思想的な展開である。マックス・ウエーバーによると、プロテスタントはカソリックのサクラメント(秘蹟)を否定し、「呪術」として追放した。そして、プロテスタンティズムの倫理が、「資本主義の精神」を生み、近代資本主義が発生・発達した。その過程で近代人のエートスが形成された。「呪術の追放」によって、宗教の合理化が行なわれた。このことを出発点として、合理性が社会の全般において追求・実現されるようになった。すなわち、文化や社会や政治や経済の諸領域を貫いて、価値観の合理化が人間生活の全般にわたって進行したというのが、ウェーバーの近代化についての分析である。
 啓蒙思想家たちの多くは、科学的合理主義によってキリスト教の合理化を進めた。ユダヤ=キリスト教は、啓示宗教である。神(ヤーウェ)が人間に教えや奇跡をもって真理を示すことを信じ、アブラハムが契約を結んだ神の言葉を記した啓典を持つ。西方キリスト教は、ユダヤ民族の神話的思考と歴史、イエスの奇跡伝承等をもとに構築された教義体系を持つ。その教義には、天動説に典型的なように、近代科学によって獲得された知識と相容れないものがある。そこで、啓蒙思想家は、キリスト教から科学と相容れない部分を除いたり、科学的合理的な思考で解釈し直したりして、キリスト教を科学と対立する宗教から科学と両立する宗教へと改革しようとした。
 啓蒙主義の高揚によって、近代西洋文明では、アニミズム的・シャーマニズム的な世界観が徹底的に駆逐された。その結果について、20世紀の深層心理学者ユングは、「太古以来、自然は常に霊に満ちたものと考えられてきた。いまはじめてわれわれは神々も霊もない自然のなかに生きているのである」と書いた。呪術の原理である「共感の法則」は否定された。それによって、自然は霊的存在に満ちた世界ではなく、単なる質料、霊魂のない物質の広がりとみなされるようになった。人間と自然との根源的な連続感は失われ、自然は人間が征服・支配すべき対象となった。自然は、科学技術と産業経営によって、欲望の充足のために利用すべき生産手段にすぎなくなった。近代西洋人は、人間理性への自信を強め、自信のあまり、人間の知力でできないことは何もないかのような錯覚を生じ、人間が神に成り代わったかのような傲慢に陥った。これは、ウェーバーの「世界の呪術からの解放」つまり「呪術の追放」が行き着いた結果である。近代化の問題については、拙稿「“心の近代化”と新しい精神文化の興隆~ウェーバー・ユング・トランスパーソナルの先へ」に私見を書いているので、ご参照願いたい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09b.htm

●近代西洋文明の深層流

 啓蒙思想は、上記のように科学的合理主義に基づく思想だが、ここで見逃してはならないのは、啓蒙思想とフリーメイソンの関係である。奇妙なことに啓蒙主義とフリーメイソンの思想は深く融合しており、切っても切れない関係にある。しかし、ほとんどの学術的な歴史書や思想史には、フリーメイソンは登場しない。その一方、フリーメイソンは今日、陰謀論者がどうとでも使える格好の題材となっている。荒唐無稽な説も多く、それがカムフラージュになって、実態が見えにくくなっている。だが、18世紀の欧米に限っては、フリーメイソンに触れずして、歴史も思想も語れない。
 キリスト教化された西欧では、自然崇拝・祖先崇拝が失われ、さらに宗教改革・魔女狩り等を通じて、「呪術の追放」がされた。しかし、ルネサンスにおいて古代ギリシャ=ローマ文明の遺産を摂取する過程で、グノーシス主義、新プラトン主義、錬金術といった思想が知られるようになった。それらの非キリスト教思想は、知識人の間で密かに受け継がれた。心理学的には、無意識の領域に係る思想である。
 キリスト教を中心とした文化を表層流とすると、こうした思想は深層流となって潜伏した。実は近代西欧科学を生み出した科学者の多くは、深層流から知識と発想を汲み上げていた。例えば、ケプラーが惑星の運動法則を発見したのは、新プラトン主義の世界観を抱いていたからであり、ニュートンは物理学の一般法則を追及する一方、錬金術の実験に熱を上げていた。
 深層流に流れ込んだ思想は、近代西欧科学が発達するにつれ、科学的合理主義以前のものとして、科学思想から、ほとんど排除されていった。その一方、政治思想・社会思想においては、重要な役割をした。その顕著な例外が、啓蒙思想と結びついたフリーメイソンの活動である。
 ロックの項目の最後に、フリーメイソン及びそのロックとの関係について書いた。先に挙げた啓蒙思想家の中では、モンテスキュー、ヴォルテール、ダランベール、フランクリン、レッシング等がメイソンに加入している。ここでは、啓蒙思想とフリーメイソンの関係を指摘するだけとし、アメリカ独立革命とフランス市民革命の思想を書く際に、独立革命・市民革命にいかに深くフリーメイソンが関わっていたか書くことにする。

 次回に続く。