●上海株が暴落
6月から西のギリシャ、東の上海を震源地として、世界の経済は揺れ動いている。
ギリシャの財政危機については別に書くことにして、ここでは中国の上海株の暴落に焦点を当てる。ギリシャ経済はユーロ圏経済の約2%にすぎないが、中国経済は、世界の国内総生産(GDP)の16%程度を占める。中国経済の危機は、世界にとってギリシャよりもはるかに大きな問題である。
小平よる改革開放政策導入から約30年間、中国は2ケタの経済成長を続けた。2008年のリーマンショックに際しても、4兆元の大型景気刺激策でこれを乗り切った。だが、2013年後半から不動産バブルの崩壊が始まり、2014年2月あたりからそれが本格化した。不動産バブルの崩壊で銀行が持つ不良債権の急増が予想されるとともに、金融規模が中国のGDPの4割以上にも相当する「影の銀行(シャドーバンキング)」が破綻するのは時間の問題になっている。
こうした中で、中国共産党政府は、国際金融秩序に挑戦するアジア・インフラ銀行(AIIB)の設立を進めてきた。国内の治安を維持しつつ経済覇権を獲得するには、中国経済を成長させ続けなければならない。そこで、中国政府が力を入れたのが、金融緩和である。
中国人民銀行(中央銀行)は昨年11月以来、政策金利や預金準備率を相次ぎ引き下げた。これが株式市場への投資を呼び込んだ。11月の利下げとほぼ同時期に、中国政府は上海と香港の株式の相互取引による上海市場への外国人投資家の呼び込みを行った。香港市場を経由すれば外国人投資家が初めて中国政府の認可なしに上海株に投資できるようにした。AIIBと一体の企画として進めている新たなシルクロード経済圏を作る「一帯一路」構想で海外資金を呼び込んだ。株価が急騰すると、中国の個人投資家たちは不動産などに投資してきたカネを株に振り向けた。しかも、借金をしてまで株を買いまくった。上海証券取引所の本年1~4月の売買代金は米ニューヨーク市場を上回り、世界最大になった。本年の年初から6月12日にかけて約60%も上昇した。
ここで外国機関投資家が売りに出た。株価の急落で動揺した中国人の個人投資家も株式を売った。その結果、上海市場全体の値動きを示す上海総合指数は、年初来最高値だった6月12日の5178.19に対し、7月9日は3709.33とー29.4%急落した。4週間弱の間に株価が約3割も下落したのである。
株価が急落し出すと、中国当局は6月27日に追加利下げを行った。さらに7月4日には、中国大手証券会社21社に上場投資信託約2・4兆円分を購入させ、上海総合指数が4500に戻るまで保有株の売却を禁止した。上海や深センの株式市場では、自社株の下落を恐れる企業が相次いで証券取引所に自社株の売買停止を申請し、7月8日時点の売買停止銘柄は1400を超え、全体の半数を超えた。当局はさらに市場関係情報の統制、悪意ある空売りへの懲罰、新規株式公開の承認凍結、大量保有株主による株式売買の半年間停止など、株価下落を阻止するため、なりふり構わぬ市場介入を行った。自由主義国の常識では考えられない強権的な政策の連発である。
それでようやく下げ止まったかに見えたが、7月27日の上海株式市場は、総合指数の終値が前週末比8・48%安の3725・56に急落した。下落率は2007年2月27日以来、8年5カ月ぶりの大きさだった。ことし7月9日の3709・33以来の安値水準となった。年初来最高値だった6月12日の5178.19からは、-29.1%の下落である。
国際通貨基金(IMF)は、この前の週、株式市場への介入をこれ以上行わないよう中国当局に警告した。人民元の国際化をめざす中国当局は、IMFの警告を無視できない。そこで、習政権指導部はこの警告を受け入れ、新たな株価下支え策を打ち出さなかった。これに対し、習政権の株価下支え策が終焉に向かったとする見方が投資家に広がり、売りが売りを呼ぶ展開となったと見られる。
6月12日以降の上海株暴落に対し、官民合わせて株価下支え策として投入された資金は、総額で5兆元(約100兆円)を超えたと見られる。リーマン・ショック後の緊急経済対策として、中国当局が打ち出したのは、4兆元だった。それより1兆元も多い。だが、それでも効果は一時的である。毎週末に対策を出し続けなければ、市場は「売り一色」になるという状況である。
中国の株バブル崩壊による経済危機は、ギリシャの債務問題より、もっと深刻である。もはや習近平政権も手の打ちようがない状況になりつつある。
次回に続く。
6月から西のギリシャ、東の上海を震源地として、世界の経済は揺れ動いている。
ギリシャの財政危機については別に書くことにして、ここでは中国の上海株の暴落に焦点を当てる。ギリシャ経済はユーロ圏経済の約2%にすぎないが、中国経済は、世界の国内総生産(GDP)の16%程度を占める。中国経済の危機は、世界にとってギリシャよりもはるかに大きな問題である。
小平よる改革開放政策導入から約30年間、中国は2ケタの経済成長を続けた。2008年のリーマンショックに際しても、4兆元の大型景気刺激策でこれを乗り切った。だが、2013年後半から不動産バブルの崩壊が始まり、2014年2月あたりからそれが本格化した。不動産バブルの崩壊で銀行が持つ不良債権の急増が予想されるとともに、金融規模が中国のGDPの4割以上にも相当する「影の銀行(シャドーバンキング)」が破綻するのは時間の問題になっている。
こうした中で、中国共産党政府は、国際金融秩序に挑戦するアジア・インフラ銀行(AIIB)の設立を進めてきた。国内の治安を維持しつつ経済覇権を獲得するには、中国経済を成長させ続けなければならない。そこで、中国政府が力を入れたのが、金融緩和である。
中国人民銀行(中央銀行)は昨年11月以来、政策金利や預金準備率を相次ぎ引き下げた。これが株式市場への投資を呼び込んだ。11月の利下げとほぼ同時期に、中国政府は上海と香港の株式の相互取引による上海市場への外国人投資家の呼び込みを行った。香港市場を経由すれば外国人投資家が初めて中国政府の認可なしに上海株に投資できるようにした。AIIBと一体の企画として進めている新たなシルクロード経済圏を作る「一帯一路」構想で海外資金を呼び込んだ。株価が急騰すると、中国の個人投資家たちは不動産などに投資してきたカネを株に振り向けた。しかも、借金をしてまで株を買いまくった。上海証券取引所の本年1~4月の売買代金は米ニューヨーク市場を上回り、世界最大になった。本年の年初から6月12日にかけて約60%も上昇した。
ここで外国機関投資家が売りに出た。株価の急落で動揺した中国人の個人投資家も株式を売った。その結果、上海市場全体の値動きを示す上海総合指数は、年初来最高値だった6月12日の5178.19に対し、7月9日は3709.33とー29.4%急落した。4週間弱の間に株価が約3割も下落したのである。
株価が急落し出すと、中国当局は6月27日に追加利下げを行った。さらに7月4日には、中国大手証券会社21社に上場投資信託約2・4兆円分を購入させ、上海総合指数が4500に戻るまで保有株の売却を禁止した。上海や深センの株式市場では、自社株の下落を恐れる企業が相次いで証券取引所に自社株の売買停止を申請し、7月8日時点の売買停止銘柄は1400を超え、全体の半数を超えた。当局はさらに市場関係情報の統制、悪意ある空売りへの懲罰、新規株式公開の承認凍結、大量保有株主による株式売買の半年間停止など、株価下落を阻止するため、なりふり構わぬ市場介入を行った。自由主義国の常識では考えられない強権的な政策の連発である。
それでようやく下げ止まったかに見えたが、7月27日の上海株式市場は、総合指数の終値が前週末比8・48%安の3725・56に急落した。下落率は2007年2月27日以来、8年5カ月ぶりの大きさだった。ことし7月9日の3709・33以来の安値水準となった。年初来最高値だった6月12日の5178.19からは、-29.1%の下落である。
国際通貨基金(IMF)は、この前の週、株式市場への介入をこれ以上行わないよう中国当局に警告した。人民元の国際化をめざす中国当局は、IMFの警告を無視できない。そこで、習政権指導部はこの警告を受け入れ、新たな株価下支え策を打ち出さなかった。これに対し、習政権の株価下支え策が終焉に向かったとする見方が投資家に広がり、売りが売りを呼ぶ展開となったと見られる。
6月12日以降の上海株暴落に対し、官民合わせて株価下支え策として投入された資金は、総額で5兆元(約100兆円)を超えたと見られる。リーマン・ショック後の緊急経済対策として、中国当局が打ち出したのは、4兆元だった。それより1兆元も多い。だが、それでも効果は一時的である。毎週末に対策を出し続けなければ、市場は「売り一色」になるという状況である。
中国の株バブル崩壊による経済危機は、ギリシャの債務問題より、もっと深刻である。もはや習近平政権も手の打ちようがない状況になりつつある。
次回に続く。