新年初の掲示は、エマヌエル・トッドに関するシリーズの続きから。
●家族構造から見た中国論
トッドは、「帝国以後」や「文明の接近」でイスラムを多く論じる。それは、ハンチントンへの反論となっている。しかし、イスラム諸国は、世界の脅威となるだけの軍事力を持っていない。それに比べ、中国は核大国であり、ICBMはアメリカ本土を射程に入れている。さらに猛烈な勢いで軍拡を進め、平成元年(1989年)以後、中国の軍事費は、毎年二桁以上、増加している。トッドは、中国の存在を過小評価している。21世紀の世界の動向を予測する際、まず論ずべきは、イスラム諸国よりも中国である。
トッドの中国理解は、家族構造の分析に基づく。トッドは、シナは外婚制共同体家族が主たる地域だとする。南部には、直系家族が分布する。外婚制共同体家族は、権威と平等を価値とする。それが、ロシアと同じく、シナに共産主義が浸透した条件である。シナが主に外婚制共同体家族に変わったのは、秦によるシナの統一以後である。秦の軍事的優位は、父系共同体家族であることを一因としていた。これに比し、秦の東方の六国は、儒教経典に書かれた直系家族だった。儒教は、秦以降、外婚制共同体家族の平等の価値観によって、兄弟の序列を重視しなくなった。さらにその権威の価値観を反映したのが、法家思想である。
こうした中国理解をもって、トッドは、平成17年(2004年)に来日した際、日本と中国の関係について、次のように語った。「日本の選択」所収の討論においてである。
「家族構造の点で見ると、核家族で自由で平等である家族関係というものがフランスの中心です。ドイツの場合は権威的で不平等ですから、違ったベースを人類学的持っているわけです。しかし、和解が可能でした。だからその点でいけば、中国と日本は全く家族形態が伝統的に違うけれども、それぞれの多様性、違いを維持しながら、相互に補完し合うような関係をつくっていくことは、独仏の場合にそうであったように、不可能ではないだろうと思います」と。また、トッドは「日中の接近が起こり、さらにヨーロッパと日本の健全な経済がさらに接近した場合、これは新しい世界経済のエンジンになっていくでしょう」と述べている。
●今は中国より欧州と提携を、とトッドは勧める
ただし、トッドは、平成17年時点の中国については、次のように語っている。「中国は大きなポテンシャル、潜在的な可能性を持っています。しかし、まだまだ開発途上国です。経済バランスでは、アメリカ向けの輸出に依存しています。(略)まだ中国は主要なアクターにはなりきってはいないと私は思います。もちろん北朝鮮の問題に対しては、中国が持っている切り札は大きい。しかし金融の面、通貨の面、あるいは経済の面でまだ大きなアクターにはなっていない」と。
討論に参加した榊原英資夫氏と小倉和夫氏は、日本にとって中長期的に中国との関係が重要であることを主張した。これに対し、トッドは「今日の議論を通して、びっくりしたのは、日本の方々がいかに中国を重視しているかということです」と感想を語った。トッドは、中国は大きな潜在的可能性を持っているが、まだ開発途上国であり、国際社会で主要なアクターになりきっていないという見方である。そして、中国より、ヨーロッパとの連携を日本に求める。
「短期的には、やはり日本とヨーロッパのユーロ圏。これが世界の経済だけでなくて世界の情勢を考えていく上で重要です」とトッドは語り、アメリカ、ヨーロッパ、日本という三極において、「ヨーロッパと日本の間の協調関係、協議が欠落している」「緊急の世界的な課題を解くためには、日欧の協議は非常に必要だということを結論として述べたいと思います」と討論の最後を締めくくっている。
次回に続く。
●家族構造から見た中国論
トッドは、「帝国以後」や「文明の接近」でイスラムを多く論じる。それは、ハンチントンへの反論となっている。しかし、イスラム諸国は、世界の脅威となるだけの軍事力を持っていない。それに比べ、中国は核大国であり、ICBMはアメリカ本土を射程に入れている。さらに猛烈な勢いで軍拡を進め、平成元年(1989年)以後、中国の軍事費は、毎年二桁以上、増加している。トッドは、中国の存在を過小評価している。21世紀の世界の動向を予測する際、まず論ずべきは、イスラム諸国よりも中国である。
トッドの中国理解は、家族構造の分析に基づく。トッドは、シナは外婚制共同体家族が主たる地域だとする。南部には、直系家族が分布する。外婚制共同体家族は、権威と平等を価値とする。それが、ロシアと同じく、シナに共産主義が浸透した条件である。シナが主に外婚制共同体家族に変わったのは、秦によるシナの統一以後である。秦の軍事的優位は、父系共同体家族であることを一因としていた。これに比し、秦の東方の六国は、儒教経典に書かれた直系家族だった。儒教は、秦以降、外婚制共同体家族の平等の価値観によって、兄弟の序列を重視しなくなった。さらにその権威の価値観を反映したのが、法家思想である。
こうした中国理解をもって、トッドは、平成17年(2004年)に来日した際、日本と中国の関係について、次のように語った。「日本の選択」所収の討論においてである。
「家族構造の点で見ると、核家族で自由で平等である家族関係というものがフランスの中心です。ドイツの場合は権威的で不平等ですから、違ったベースを人類学的持っているわけです。しかし、和解が可能でした。だからその点でいけば、中国と日本は全く家族形態が伝統的に違うけれども、それぞれの多様性、違いを維持しながら、相互に補完し合うような関係をつくっていくことは、独仏の場合にそうであったように、不可能ではないだろうと思います」と。また、トッドは「日中の接近が起こり、さらにヨーロッパと日本の健全な経済がさらに接近した場合、これは新しい世界経済のエンジンになっていくでしょう」と述べている。
●今は中国より欧州と提携を、とトッドは勧める
ただし、トッドは、平成17年時点の中国については、次のように語っている。「中国は大きなポテンシャル、潜在的な可能性を持っています。しかし、まだまだ開発途上国です。経済バランスでは、アメリカ向けの輸出に依存しています。(略)まだ中国は主要なアクターにはなりきってはいないと私は思います。もちろん北朝鮮の問題に対しては、中国が持っている切り札は大きい。しかし金融の面、通貨の面、あるいは経済の面でまだ大きなアクターにはなっていない」と。
討論に参加した榊原英資夫氏と小倉和夫氏は、日本にとって中長期的に中国との関係が重要であることを主張した。これに対し、トッドは「今日の議論を通して、びっくりしたのは、日本の方々がいかに中国を重視しているかということです」と感想を語った。トッドは、中国は大きな潜在的可能性を持っているが、まだ開発途上国であり、国際社会で主要なアクターになりきっていないという見方である。そして、中国より、ヨーロッパとの連携を日本に求める。
「短期的には、やはり日本とヨーロッパのユーロ圏。これが世界の経済だけでなくて世界の情勢を考えていく上で重要です」とトッドは語り、アメリカ、ヨーロッパ、日本という三極において、「ヨーロッパと日本の間の協調関係、協議が欠落している」「緊急の世界的な課題を解くためには、日欧の協議は非常に必要だということを結論として述べたいと思います」と討論の最後を締めくくっている。
次回に続く。