ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

護憲論の矛盾と北朝鮮の脅威1

2007-08-20 14:45:01 | 国際関係
●護憲・反戦・平和論の矛盾

 8月15日、NHKのテレビ番組「日本の、これから」において、約40人の市民の人たちと憲法第9条について語り合ったが、参加者の半数は護憲派で、9条を維持ないし固守する意見を述べた。中には軍備否定による平和追求の人や、攻められたら逃げると公言してはばからない人もいた。この半数の人たちには、普通の市民ももちろんいただろうが、「プロ市民」といわれる左翼の活動家もかなりいた模様である。
 私は近年、こういう思想の人たちと、直接顔を出して意見交換をする機会がなかったので、その人たちが相変わらず固着した思想・観念を述べるのを、久しぶりに聴いた。
 その人たちには、ここ30年ほどの間の世界とアジアの変化、つまり70年安保と共産主義の後退、米ソ冷戦の終焉、ソ連・東欧の共産政権の崩壊、共産中国の軍事大国化、北朝鮮の核開発・ミサイル開発、9・11・中東戦争とアメリカの戦略転換等といった変化は、ほとんど世界観、国家観の見直しをもたらさなかったようだ。

 私は番組の中で、次のような発言をした。
 「なぜ日本は、アメリカのアフガン侵攻やイラク戦争で、付き従わざるを得ないのか。わが国の憲法は、自力で国を守るだけのものを持てないようになっている。国民は、自らを守る技術も訓練も持っていない。いま他国に攻められたら、若者の7割は『逃げる』と答えている。そうなった時、女性や子供や高齢者を誰が守るのか」
 「私は、憲法を改正して、国防を充実させ、国民が自らを守る体制を整えて、初めてアメリカにNoも言える、政策に選択肢を持てるようになる、と思う」
 「アメリカ軍を矛(ほこ)とし、自衛隊を盾とする仕組みになっていることに問題がある。小林よしのりさんが北朝鮮の問題があるから、アフガンやイラクに出て行かざるを得ないと言った。北朝鮮がミサイルを撃てば、10分で東京に着弾する。そういう国際社会の厳しい現実をみていかねばならない」と。

 護憲・反戦・平和を唱える左翼系の市民運動の人たちは、自国が他国を侵攻することに反対するばかりで、自国を守るという観点から、憲法について考えない傾向がある。アメリカに国防を依存しているのは、現行憲法によるのだが、アメリカを追い出そうとしていながら、自主憲法を制定して自力で国を守る意思は持たない。また、積極的に日本を共産中国や北朝鮮のような国にしようという目標を持っているわけでもない。自分の思想の矛盾や精神的混乱に気づいていない人が多いように思う。
 こういう人たちの存在は、日本を無防備の方向に向かわせ、日本に敵意を持ち侵攻の意思をたぎらせている国々を利するだけだろう。

 私は、国防とは、国民が協力して、互いを守ることに基本があると思う。この相互防衛が、国民の共同性の根底をなすと思う。だから、国防を否定することは、共同体を否定することであり、個人主義・利己主義を助長することになる。現行憲法は、日本の軍事力に制約をかけることで、日本を国家として弱体化してきただけでなく、日本人の共同性を抑止することで、日本人を精神的に弱体化してきた。今日の国家・社会・企業・家庭等の様々な問題は、国防の規制による共同性の崩壊が、重大な原因になっていると思う。
 現行憲法は、その前文と第9条によって、日本人に国際社会の現実の厳しさを見させなくしている。特に中国と北朝鮮の脅威に対して、目隠しをさせている。

●北朝鮮の脅威は高まっている

 先の番組で焦点になったアメリカの問題は、複雑なので後日書くことにして、ここでは、北朝鮮の脅威について書く。
 昨19日の朝、旅行先の大阪のホテルで、「報道2001」を見た。フジテレビ系の報道番組で、名前がいつまでも「2001」というのが気になるが、内容は常に最新である。
 番組は、北朝鮮の元高官、林一男氏がインタビューに応じ、北朝鮮の核開発、ミサイル開発について証言した。
 林氏の証言の要点は、以下の通り。

・北朝鮮はミサイルに搭載可能な核兵器の小型化に成功している。
・核兵器を10個保有している。
・ミサイルはすべて移動式に移行済みである。
・日本のミサイル防衛システムMDに対抗して、多弾頭化(MIRV)を進めている。
・日本がターゲットであることは明白。
・いつでも発射できる。

 林氏は、北朝鮮は日本を核攻撃すると断言し、「日本、沖縄、沖縄、沖縄」と沖縄を三度繰り返した。沖縄の米軍基地を意味しているものだろう。また、昨年の核実験は失敗ではなく、核小型化の最終段階の実験を行ったもので、プルトニウム40gを使用した、とかなり具体的に述べた。

 この北朝鮮元高官の発言には、直接的または間接的な対日宣伝という可能性があるので、慎重に分析する必要はあるが、平成10年のテポドン発射以来、北朝鮮の脅威は確実に高まっている。護憲・反戦・平和を唱える左翼系の市民運動の人たちは、こうした北朝鮮元高官の発言を、どのように聴くのだろうか。
 この番組には、石破茂元防衛庁長官、防衛研究所の武貞秀士統括研究官、産経新聞の黒田勝弘ソウル支局長が参加していた。さすがにNHKの市民討論番組とは違い、防衛やコリア問題の専門家の意見は、傾聴に値する。林氏の証言の残りの内容と併せて、次回書くことにする。

靖国参拝とNHK出演の報告

2007-08-16 20:13:50 | 憲法
 昨日は、午前10時前より靖国神社に参拝し、英霊に対し、感謝と慰霊の祈りを捧げました。その後、夜はNHKスペシャル「日本の、これから~憲法第9条」に出演しました。その報告と御礼を書かせていただきます。

●靖国参拝

 小泉前総理は、当日早朝靖国神社に参拝したと伝えられましたが、安倍総理大臣は参拝せず、現職の閣僚で参拝したのは、高市早苗特命相のみとのこと。国のために尊い一命を捧げた方々に、感謝と慰霊のまことを尽くすべきところ、もし内閣支持率への影響や周辺諸国の批判を考慮して参拝しないという判断であれば、国政を担う政治家として、恥ずべきことと思います。

 10時30分からは、友人・知人とともに、第21回戦没者追悼中央国民集会に参加。この集会は、毎年、英霊にこたえる会と日本会議が共催し、靖国神社の参道特設テントで開かれるもの。猛暑のなか参集したのは、約2000名と発表されました。地方議員は多数参加していましたが、国会議員は有村治子参議院議員(自民党比例区)ただ一人と今年は低調でした。
 終了後、マイミクシイとその友人の人たちと昼食を摂りながら、懇談。それぞれの靖国参拝の動機を聴かせてもらいました。当夜のテレビ放送の主題である憲法第9条についての意見も伺いました。1時間ほどの時間は、あっという間に過ぎました。

●番組開始前

 しばし、仕事の後、夕刻渋谷のNHK放送センターへ。
 今回、NHKの番組に出演することになったのは、局の担当者に、細川をという推薦が多くあったと聴いています。それがなければ、このような機会はなかったでしょう。どうも有難うございました。
 サイトやブログでの出演の告知は、13日以降にといわれていましたので、そのようにしたのですが、50名以上の人たちから応援のコメントをいただきました。有難うございました。
 「応援します」「絶対見ます」というコメントを多く寄せていただきましたが、「死んでも見ます」というコメントには、噴き出しましたね。

 当日初めて知らされたゲストは、以下の人たち。

・漫画家 小林よしのり氏
・慶應義塾大学教授 小林節氏
・元経済同友会憲法問題調査会委員長 高坂節三氏
・一橋大学大学院教授 渡辺治氏
・東京外国語大学教授 伊勢崎賢治氏
・ジャーナリスト 斎藤貴男氏

 リハーサルは、なし。基本的なルールや心構えの説明があっただけで、筋書きめいた打ち合わせも、なし。マイクテストを兼ねて、主題と関係のない質問に軽く答える程度で、生放送本番となりました。

●本番中

 私は、午後7時30分から8時45分までの第1部で、討論開始の直後に指名されて発言。また午後10時から11時29分までの第2部で、討論の再開時。そして、最後に、ボードに意見を書いて示すまとめの時等と、要所要所で指名をされ、発言することができました。これらは何の打ち合わせもなく、その場で、進行役の三宅アナウンサーから指名されたものです。
 
 直前の説明で、発言は一回30秒程度に、とディレクターから要望がありました。テレビの討論の場合、2分もコメントを述べていると、チャンネルを替えられちゃうらしいです。
 第1部は、75分間。有識者6人と約40人の市民。これだけの人数が意見を述べるのですから、発言の機会のない人もいました。私は冒頭に指名されて発言したきり、第1部終了となりました。

 途中1時間15分、別のニュース番組。この間、一般の出演者は、食事を取りながら休憩。スタジオで席が近い人や、移動中に声をかけた人たちと自然、食卓をともにして懇談となりました。
 私が懇談した人たちとは、当てられるのを待っているのでは、言いたいことが言えない。もっと積極的に発言していきましょう、ということで一致し、気合を入れ直しました。
 第1部は、「戦争放棄を定めた憲法第9条についてどう考えるか」がテーマ。その後半は、アメリカとの関係をめぐって意見が分かれました。第2部は、「世界との関わりの中で憲法第9条をどう考えるか」がテーマ。第1部の後半の議論を受けて、アメリカ問題からスタート。ここで、二度目の指名を受けたので、私は持論を発言。それが、活発な議論の引き金になったような気がします。(実はまだ録画を見ていないので、勝手な印象)

 第2部は、89分。VTRもそう多くない。討論中心ということでしたので、私自身指名を待たずに、何度か発言しました。不規則発言すれすれのようなところで、一気に発する。言うべきことを言う。さまざまな反論が返ってきましたが、私と考えの近い人たちがこれに応酬し、活発なやり取りになりました。同時に数人が意見を述べ、錯綜した場面もあったりし、NHKの番組では珍しいほど白熱した議論となったのではないでしょうか。
 多様な意見がありましたが、私は、このように、国民が真剣に国や世界のことを考えて議論することが大切だと思います。

 終結部は、あらかじめ配られたボードに、「憲法第9条を考える時に、何を大切にしたいか」を簡潔に書いて、示すという趣向。
 私は「日本人の精神」と書きました。幸い指名を受けたので、「自分の国のありようを自分たちの意思で決め、自分の国を自分たちで守り、そのうえで国際社会において責任ある役割を果すために、日本人の精神を大切にしたい」という趣旨の発言をしました。
 この時指名を受けたのは、40人ほどのうち2名だけでしたから、幸運だったと思います。応援してくださった皆さんの思いが、幸運の流れを呼んでくれたのかもしれません。有難うございました。

●番組終了後

 番組が終ると、ゲストの人たちは、まとまって退席されたので、まったく会話する時間はありませんでした。討論中の個々のご発言には、質問したい点や、反論を述べたい点があったのですが、それはかないませんでした。
 既に深夜。他の市民参加者の人たちとも、さらなる意見交換をする時間もなく、急ぎ帰路に着きました。

 番組を見た方々が、私の日記に多数感想を書いてくださいました。メッセージも贈ってくださいました。真剣に日本を思っている人がたくさんいることが伝わってきます。
 今回、番組に出演するに当たり、私は発言のチャンスがあれば、日本を愛し、国を憂える人たちの思いを代弁するような意見を述べたいと思いました。自身の未熟さに加え、時間の制約もあり、どこまで実行できたかわかりませんが、応援・視聴してくださった皆さんに、心から感謝申し上げます。
 
 次は、皆さんに機会が訪れるかも知れませんよ。
 ともに研鑽して参りましょう。
 日本のため、世界のため、みんなのために。

15日は靖国神社に参拝しよう

2007-08-14 11:20:17 | 靖国問題
 8月15日は、終戦記念日。
 私は、この日東京にいるときは、できるだけ靖国神社に参拝することにしている。今年もその予定。
 午前10時前に参拝した後、10時半から行なわれる中央国民集会に参加する。集会は、大村益次郎銅像前に設けられる特設テントで行なわれる。私は10時15分くらいから、特設テント右手に設けられる受付テントの近くにいる予定。
 もしこの時間にそのあたりに参集している人がいらしたら、お会いしましょう。

携帯メール:hosokawa.6022@softbank.ne.jp

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第21回戦没者追悼中央国民集会

日 時:平成19年8月15日(火)
    午前10時30分~12時30分
場 所:靖国神社 参道特設テント(大村益次郎銅像前)
午前10時頃、受付開始予定。
主な提言者:
堀江正夫氏(英霊にこたえる会)
三好達氏(日本会議会長)
古屋圭司氏(衆議院議員、価値観外交を推進する議員の会会長)
東中野修道氏(亜細亜大学教授)
薛格芳氏(日本李登輝友の会・青年部副部長)
主 催 英霊にこたえる会、日本会議
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8・15NHKテレビに出演

2007-08-13 08:45:10 | 憲法
 15日に放送されるNHKのテレビ番組「日本の、これから」に出演してほしいという依頼があり、出演させていただくことになりました。
 以下、お知らせします。

番組名:NHKスペシャル「日本の、これから」
番組の内容:識者・政治家のほか、問題に関係・関心のある市民40人程を招いて、本音で討論しあうという討論番組。隔月放送。
今回の主題:憲法第9条 
日 時:8月15日(水)終戦記念日の夜、総合テレビで生放送
    19:15~20:45(第1部)
    22:00~23:44(第2部)
http://www.nhk.or.jp/korekara/

詳細:
細川への依頼は、市民40人程の人のうちの一人として出てほしいというもの。
私を是非にと推薦した人たちがいるのだそうで、局の担当者が私のサイトやブログを見て、出演を依頼してきました。
肩書きは「団体職員 細川(53歳)」となる予定です。
発言のチャンスがあれば、日本を愛し、国を憂える人々の思いを代弁できるような意見を述べたいと思っています。

 よろしければ、当日放送をご覧ください。
 また今後ともよろしくお願いします。

関連掲示
・拙稿「国防を考えるなら憲法改正は必須」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08d.htm
・拙稿「日本再建のための新憲法~ほそかわ私案」第4章安全保障
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08h.htm

8・15「日本の、これから」

2007-08-11 21:52:32 | 憲法
NHKスペシャル「日本の、これから」は、「朝まで生テレビ」のNHK版のような番組。識者・政治家のほか、問題に関係・関心のある市民40人程を招いて、本音で討論しあうという大型討論番組で、隔月放送されている。
次回は、8月15日の夜、「憲法第9条」をテーマとして生放送される。
時間は、第1部が19:15~20:45。第2部が22:00~23:44。正味2時間44分である。

安倍内閣は、憲法改正を政策に挙げ、参議院選挙は本来憲法改正を問う選挙となるはずだった。それが、年金や政治とカネの問題に焦点が移ってしまった。その問題も大事だが、国家の根幹をなす憲法の問題は、もっともっと重要だ。
今回のNHKの番組は、「憲法第9条」を真っ向から取り上げる。番組案内に付せられたアンケートには、突っ込んだ設問が並んでいる。
http://www.nhk.or.jp/korekara/

私もこのアンケートに回答した。当日、どのような議論がされるか、放送を楽しみにしている。実は、楽しみにしているのは、もう一つ特別の理由がある。そのことは、13日に述べたい。

戦後賠償問題は、決着済み3

2007-08-09 09:40:40 | 歴史
●個人賠償の請求には根拠がない

 先述したように講和条約によって、わが国も連合国も、政府及び国民ともに賠償請求権を放棄した。ところが、個人賠償の問題は解決していないという主張がある。その根拠として、しばしば講和条約の第26条が挙げられる。そして、同条により、日本は、アメリカの民間人、戦時捕虜、その他連合国の数百万の人々に賠償の義務を負い続けているという意見がなされる。
 しかし、繰り返しになるが、講和条約は、戦後賠償問題は国家間の条約によって決定され、これに署名した国は政府が一括処理することとしている。第26条も、この考え方を前提としている。
 同条の全文は、以下のとおり。

 「日本国は、一九四二年一月一日の連合国宣言に署名し若しくは加入しており且つ日本国に対して戦争状態にある国又は以前に第二十三条に列記する国の領域の一部をなしていた国で、この条約の署名国でないものと、この条約に定めるところと同一の又は実質的に同一の条件で二国間の平和条約を締結する用意を有すべきものとする。但し、この日本国の義務は、この条約の効力発生の後三年で満了する。日本国が、いずれかの国との間で、この条約で定めるところよりも大きな利益をその国に与える平和処理又は戦争請求権処理を行ったときは、これと同一の利益は、この条約の当事国にも及ぼされなければならない。」

 本条は、【二国間の平和条約】に関する規定である。講和条約に署名していない国と、日本が今後、平和条約を結ぶ場合について、定めている。その対象となるのは、中国(中華人民共和国と中華民国台湾)、ソ連、韓国などだった。しかし、わが国は、これらの諸国とも、その後、個別に条約・協定を結び、戦後処理を誠実に実行してきた。その際、サンフランシスコ講和条約の規定を踏まえて、すべての取り決めを実行した。
 第26条の最後の文章は、個人賠償を求める根拠としてしばしば用いられるが、この文章も国家間の取り決めに関するものであることは、明らかである。自国の政府の取り決めを無視して、個人が他国政府に賠償を求める根拠には、なりえない。この条文をもって、アメリカなど講和条約に署名した国の国民が、第26条を個人賠償請求の根拠とすることは、できない。同様に、中国や韓国等の国民が、個人賠償を請求することも、出来ない。

●ドイツとは、全く事情が違う

 第26条を個人賠償請求の根拠に挙げる主張には、ドイツと日本の事情の違いを無視した議論が見られる。
 わが国は、サンフランシスコ講和条約を結んで、戦後賠償を行った。わが国は、占領下で主権を制限されていたとはいえ、独立主権国家として正統な政府が存在していた。だから可能となった処理方法である。わが国は、政府が降伏の諸条件を提示したポツダム宣言を受諾して、条件付き降伏をした。
 これに対し、ドイツは、ナチス政権が崩壊して国際法上有効な政府を失っていた。ドイツは、国家を代表する政府が消滅していたため、連合国に無条件降伏した。その点がわが国と全く事情が異なる。戦後、分断国家となったドイツは、日本のように賠償問題を規定した講和条約を結んでいない。西ドイツは、アデナウアー政権時代に、「連邦補償法」を制定し、これが補償の基礎となった。同法はもともとドイツ国民のなかのナチス犠牲者を主たる対象とした国内法である。それを国外の犠牲者にも援用する手法で補償に当たったものである。
 それゆえ、サンフランシスコ講和条約という国際法に基づいて賠償問題を処理した日本と、ドイツでは事情が異なる。ドイツは個人補償を重点にしているのに対し、日本は国家間賠償を進めてきたのも、根本的にこのことによる。

 わが国の政府も企業・団体も、相手がアメリカ人であろうと、中国人・韓国人であろうと、一個人による賠償請求に応える必要はない。サンフランシスコ講和条約第26条は、これを覆す余地を含んでいない。日中共同声明・日韓基本条約等にも、そういう内容は一切ない。
 戦後賠償問題は、決着済みである。アメリカで訴訟を起こされたり、メディアや人権運動家等が原則を崩すような動きをしても、この原則を踏まえ、この原則を貫くことが大切だと思う。

関連掲示
・拙稿「日本は無条件降伏などしていない」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08i.htm

戦後賠償問題は、決着済み2

2007-08-08 10:10:22 | 歴史
●連合国は、政府も国民も請求権を放棄した

 国家間の戦後賠償は解決していても、個人に対する補償は別問題だという主張がある。アメリカでは、これから個人補償請求運動が再燃するだろう。しかし、個人の問題も含めて戦後賠償問題は、政府間で解決済みである。
 国家は、自主的な判断に基づいて何らかの行為をした場合、それが国際法に違反する行為であれば、国際法上の責任を負う。これを国家責任という。戦争をした国同士が戦後、講和条約を結ぶのは、この国家責任という考え方に基く。
 サンフランシスコ講和条約は、第14条(b) に、以下のように定めている。

 「この条約に別段の定がある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとつた行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する」

 これは、【賠償、在外財産】についての規定である。「連合国及びその国民の他の請求権」とあるように、請求権を放棄する主体は、「連合国」の他に「その国民」も含まれている。国民個人による請求権も含めて、連合国側は放棄したわけである。

 そもそも条約とは、国家間の取り決めである。だから、請求権の主体として個人が表われるのは、例外的である。先に引いた講和条約第14条(b)が「連合国及びその国民」といって、政府だけでなく国民にも言及しているのは、国民個人も含むことを明示したものと理解しなければならない。連合国の各国政府は、国家が蒙った損害と国民の受けた損害をひっくるめて、わが国に請求権を主張し、そのうえでそれを一括して放棄したのである。

 ここで注意したいのは、連合国は、請求権を放棄したといっても、放棄に見合うだけのものを得られるので、権利を放棄したのである。講和条約は、そういう取り決めをしている。

●わが国及び国民も、在外資産や賠償請求権を放棄した

 その一方、わが国は、わが国の在外資産をすべて放棄している。放棄したのは、個人の資産を含む。それを定めたのが、第14条(a)である。条文が長大で詳細ゆえ、引用は省く。また、わが国が蒙った損害に対する賠償請求権についても、わが国の政府及び国民が一括して放棄している。これは、第19条(a)【戦争請求権の放棄】に明記している。

 「日本国は、戦争から生じ、または戦争状態が存在したためにとられた行動から生じた連合国及びその国民に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄し、且つ、この条約の効力発生の前に日本国領域におけるいずれかの連合国の軍隊又は当局の存在、職務遂行又は行動から生じたすべての請求権を放棄する。」

 上記の規定に同意せずにわが国に賠償を請求した国とは、わが国は個別の平和条約を締結した。このように、政府間で約束を決め、日本はそれを実行した。そえによって日本国としての戦後賠償問題はすべて決着しているのである。

 戦争による損害は、戦勝国と敗戦国では、敗戦国がこうむった損害のほうが当然はるかに大きい。わが国は、アメリカによって本土を攻撃され、主要都市は焦土と化した。資産の損失は莫大である。家・財産を失った国民は、数知れない。これに対し、アメリカは本土攻撃を受けていない。だから、双方が請求権を放棄したのは一見平等のようであるが、実際には敗戦国に不利な内容となっている。それは、戦争に負けた側が甘受するしかない。

●米兵元捕虜も、日本人被爆者も、相手国への賠償請求権は消滅

 講和条約によって、連合国もわが国も、ともども政府・民間の請求権を放棄した。だから、アメリカ人元捕虜が在米日本企業に対して損害賠償を請求する権利は、存在しない。彼らが訴訟を起こすなら、こちらも対抗して広島・長崎に投下された原爆による損害請求をしようという主張があるが、これも講和条約に根拠を持たないといわざるを得ない。
 わが国の政府及び国民が放棄した請求権には、原爆で蒙った損害についての賠償請求権利も含む。そう考えなければならない。それも含めて、わが国は一切の請求権を放棄したのである。
 ちなみに原爆投下に対して損害賠償請求訴訟をした裁判に、下田事件がある。その裁判において、原告側は、講和条約第19条でアメリカ政府への請求権は消滅したことを前提として、日本政府に国家賠償請求をした。原爆判決と呼ばれる東京地裁の判決は、請求を棄却した。

 講和条約は、国家間の戦争状態を法的に終結させるものであって、そこで各国が合意した取り決めを、後になって覆そうとすれば、収拾がつかなくなる。個人の権利というものは、国民の権利を超えるものではない。国民個人の権利は、政府が締結した条約の内容に限定されると考えるべきものと思う。

 次回に続く。

戦後賠償問題は、決着済み1

2007-08-06 13:13:56 | 歴史
 米下院で慰安婦問題に関する対日非難決議の採択を実現したマイク・ホンダ議員は、今度は中国系反日団体とともに、米兵捕虜の補償問題に取り組むという。
 しかし、戦後賠償問題は決着済みである。このことについて、私見を述べたい。

●ホンダ議員・中国系反日団体には反論を

ホンダ氏は、中国系・韓国系の住民の多いカリフォルニア州選出の下院議員である。ホンダ氏を支援して下院に送り込んだのは、「世界抗日史実維護連合会」(以下、抗日連合会)等のアジア系の団体である。彼らは、ホンダ議員に多額の資金を提供していると伝えられる。

 カリフォルニア州では、第二次世界大戦中に日本軍の捕虜となって労働を強制されたという人たちが、日本企業を相手取って補償を求める裁判を多く起こしている。原告は1000人以上になり、三井物産、三菱商事、新日鉄、川崎重工などが被告となっている。これは、カリフォルニア州ではトム・ヘイデン法が制定されたためである。同法は、第二次世界大戦中のナチス・ドイツ及びその同盟国による奴隷・強制労働の損害賠償請求の時効を2010年まで延長するという内容の特例州法である。同法に基いて起こった訴訟の請求金額は、総額100兆円にものぼるという。
 ホンダ議員と抗日連合会等は、反日感情を持つ米国人をけしかけて日本政府に補償を求めさせ、これによって日米間に摩擦を起こし、米中関係を共産中国に有利な方向に導こうとしているのだろう。

 日本人は、心性が善良で、民族的に「すまなかった」「悪いことをした」という感情に流れやすい。しかし、戦争は国家と国家の間の行為であり、戦後の賠償も国家間の取り決めに基いて厳密に行なわれる。事実に基いた議論が必要である。ホンダ氏や中国系反日団体の動きには、明確な反論をしていく必要がある。

●日本は戦後、講和条約に基いて賠償を実行した

 わが国は、戦後賠償としてどれだけのことを実行してきたのか。まずこうした基本的な事実を踏まえなければならない。
 日本の戦後賠償問題は、サンフランシスコ講和条約に基づいて処理された。同条約は、昭和26年(1951)9月に調印された。わが国は、この条約に基いて、真摯に賠償を実行した。

 わが国が戦後処理で外国に支払った金と物は、総額1兆362億5711万円にのぼるとされる。日本という国が支払ったということは、日本の国民が支払ったのである。国家と国民は一体である。すべて国民の税金と財産で支払ったのである。
 実行した内容は、賠償および無償経済協力(準賠償)、賠償とは法的性格を異にするが戦後処理的性格を有する贈与・借款その他の請求権処理、軍需工場など日本国内の資本設備をかつて日本が支配した国に移転・譲渡する中間賠償、戦前、日本政府や企業・個人が海外に持っていた在外資産の所在国への引き渡しの4種からなる。
 わが国は、これらの内容を誠実に実行した。

 サンフランシスコ講和条約は、第14条に「日本国軍隊によって占領され、日本国によって損害を与えられた連合国」が、日本と二国間協定を結ぶことで賠償が受けられる旨を定めた。
「日本に占領され損害を与えられた連合国」とは、フィリピン、ベトナム、ラオス、カンボジア、インドネシア、オーストラリア、オランダ、イギリス、アメリカの9カ国を指す。このうちラオス、カンボジア、豪、蘭、英、米は、賠償請求権を放棄または行使しなかったが、ラオス、カンボジアとは、経済・技術協力協定を結び賠償に代わる準賠償を行った。

●共産中国・台湾・ソ連とも決着している

 中華人民共和国と中華民国台湾は、ともに講和会議に招かれていない。旧ソ連とは、講和条約を結んでいない。これらの国々とは、別途交渉を行なった。
 台湾とは、昭和27年(1952)4月に日華平和条約を結んだ。台湾は同条約で、「日本国民に対する寛厚と善意の表徴として」賠償請求権を放棄した。わが国の政府は、昭和47年(1972)年9月に行なわれた「日中国交正常化」で、同条約は「終了」したとしている。この時、わが国は、共産中国と日中共同声明を出した。共同声明は、「中華人民共和国政府は中日両国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」ことを確認している。
 後になって、共産中国政府が、戦後賠償問題が解決していないかのようにいうのは、間違っている。また、この政府の姿勢を受けて、在外中国人が日本に個人補償を求めるのも、根拠のないものである。
 なお、わが国は旧ソ連とは、昭和31年(1956)年10月に日ソ共同宣言を出した。旧ソ連は、これにより、日本に対する一切の賠償請求権を放棄している。

 わが国は、講和条約や個々の国との取り決めに基いて誠実に賠償を行っており、戦後賠償問題は、決着済みである。今日なお未解決なのは、国交のない北朝鮮だけである。北朝鮮とは、日本人拉致の問題が存在しており、拉致問題の解決が先決問題であって、安易に戦後処理交渉を行ってはならない。ロシアとの領土問題は、性格が異なるので、ここでは触れない。

 次回に続く。

ホンダ議員ら次は米兵捕虜補償

2007-08-05 15:46:59 | 歴史
 米下院での慰安婦問題に関する対日非難決議について、一部には、法的拘束力はなく、あまり重要視する必要はないという意見がある。その見方は、中国共産党を司令塔とした中国系組織のわが国に対する国際的な反日運動の展開について、よく認識していないためではないかと思う。
 慰安婦問題をアメリカで取り上げ、議会で決議を採択する動きは、単なる道義的・人道的な活動ではない。あらゆる手段を使って、日本を貶め、日本を弱体化させようとする反日運動の一環であり、とりわけ日米両国民の間に亀裂を入れ、日米の離間を図ろうとする共産中国の対日・対米外交の一環と見るべきものである。
 
 以下の記事は、慰安婦決議採択後、続いてマイク・ホンダ議員と中国系国際反日組織が行おうとしている活動を伝えるものだ。

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●産経新聞 平成19年8月5日付

次は米兵捕虜補償 中国系反日組織 ホンダ議員と会談

【ワシントン=山本秀也】米下院で慰安婦問題をめぐる対日非難決議を採択したマイク・ホンダ議員(民主党)が、先月30日の決議採択後、「世界抗日戦争史実維護連合会」(GA)など、米国、カナダの中国系反日組織の主なメンバーと会談していたことが分かった。
 組織側は、第二次世界大戦中の米兵捕虜に対する補償問題を新たな対日活動の目標として取り上げる方針を示したほか、カナダ国会での慰安婦決議案採択も急ぐ構えだ。
 ホンダ氏は決議採択後の記者会見で、採択実現に向けた同連合会の支援に「感謝」を表明していたが、決議後の連携維持を示す会談はこれまで確認されていなかった。
 米国で発行されている中国語紙「世界日報」によると、会談は国会内のホンダ議員の事務所で行われ、同連合会世界総会(サンフランシスコ)の張昭富氏らのほか、カナダで連帯活動を進めるジョセフ・ウォン(王裕佳)氏が参加した。
 出席者はホンダ氏への謝意を伝え、決議採択を「大戦の史実を示す活動にとり重要な一里塚だ」と評価。ワシントンで活動する蔡徳樑氏は、米兵捕虜に対する補償問題を筆頭に、各地の組織と連携して「日本の戦争犯罪」に関する案件に取り組む考えを示した。
 さきの大戦中の日本企業による米兵捕虜の強制労働は、過去にも元捕虜による米国内での対日訴訟やこれを支援する法案が米下院に上程されているが、「サンフランシスコ講和条約で解決済み」とする日米両政府の了解や、連邦最高裁の棄却判断(2003年)で沈静化していた。
 一方、カナダの中国系組織は棚上げ状態にある同様の決議案の採択を促す署名活動を展開、同国会での採択を目指す。
 「日本は戦後のドイツにならい戦争犯罪を反省すべきだ」と訴えており、米下院での決議を弾みにした活動を展開する構えだ。
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 在米中国系団体が米兵捕虜の補償問題に取り組むのは、決してアメリカ人元捕虜のためではない。道義・人道のためでもない。
 強大化する共産中国が、日本とアメリカの間に摩擦を起こして、同盟の解消を促し、東アジアでの覇権の確立を進めるために利用しているものと私は思う。
 米下院での慰安婦問題に関する対日非難決議は、こうした長期的な目標に向けたマイルストーンに過ぎない。国際的な反日運動は決議を弾みとし、これに勢いを得て、さらに増大しようとしている。わが国内でも、これに呼応した運動が活発化するだろう。

 私たちは、慰安婦問題の背後構造をとらえ、政府に対し、早急に慰安婦問題の再調査と誤った談話の修正を求め、日本人の誇りと日本国の国益をかけて、しっかりとした外交をするよう求めていきたいと思う。

関連掲示
・拙稿「中国の日本併合を防ぐには」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12a.htm