ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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巨大地震に備え、地方分散を~藤井聡氏

2012-10-10 09:39:03 | 地震
 私は10月7日から9日にかけて、巨大地震に関する文章を日記に掲載した。首都直下地震はこのままでは国家存亡に関わるものとなる。南海トラフ地震は、死者最大32万3千人と予想される。巨大地震で製油所の8割が機能不全となり、わが国は極めて深刻な事態に陥るなどと書いた。
 そこで今、わが国がなすべき重要な課題が、国土の強靭化である。国土強靭化については、私の日記・サイト等でもしばしば紹介してきたが、京都大学大学院教授の藤井聡氏が提唱する考え方である。藤井氏はちょうどタイミングよく、産経新聞平成24年10月8日号に、その思想と具体的な方針を書いている。

 藤井氏によると、強靭化とは「巨大災害でも、何とか致命傷を避けて被災を最小化したうえで、迅速に回復することを見通しつつ、限られた財源の中で最善を尽くそうとする」ことである。
 国土強靭化については、財政が厳しい今、強靱化対策など無理だなどという意見があるが、財源が乏しい中で超巨大地震対策を図ろうというのが強靱化である。十分な財源があるのなら、強靱化ではなく災害を完全に防ぐ防災を志せば良い。だが、それは現実的には不可能である。だからこそ、従来の防災とは異なる対策が求められている。その一つが「想定被災地からの事前疎開」、つまり「地方分散」という考え方だと藤井氏は言う。
 首都直下地震・南海トラフ地震は、日本経済に「壊滅的な打撃」を与えるものとなる。そこで、首都圏と太平洋ベルトという「想定被災地に過度に集中した都市機能を、日本海側や北海道、中国、四国、九州といった地方部へ分散(つまり、事前疎開)させること」が急務である。
 藤井氏によると、「地方分散化」は、第一に、「災害の一次被害がその分、減少する」。第二に、「仮に、太平洋側の諸都市が破壊されたとしても」「地方都市が温存されて、日本全体が致命傷を負うことは避けられる」。第三に、「災害を無傷か軽傷で生き延びた地方都市は、被災地救援を行うことも可能になる」。これらの効果によって、巨大な自然災害が発生しても、「致命傷を避け、被害を最小化し、迅速に回復できる」。こうした国土強靱化によって、「日本は亡国の危機を免れ得る」と藤井氏は説明する。
 たとえば、上越・九州・北陸での「新幹線を中心にした交通インフラへの投資は、10年、20年という歳月を経て、沿線諸都市の飛躍的な発展を促してきた」。「こうした次世代投資を国家プロジェクトとして展開していくと同時に、地方分散化へと誘導する税制優遇策などの各種ソフト施策を展開していくことこそが、過度な一極集中を是正し、都市機能を分散させて、国土を抜本的に強靱化させる、最も効果的かつ現実的なシナリオなのである」と藤井氏は主張している。
 全政治家、全国民が今、傾聴すべき提案だと思う。
 なお、本稿では藤井氏は国土強靭化の経済効果について言及していないが、藤井氏は「富国強靭」というスローガンを掲げている。国土強靭化はデフレ脱却のための主要政策となり得るものである。巨大地震への備えという有意義な公共事業を展開する大規模な財政出動及びそれと連携した金融政策を数年間にわたって計画的に実行すれば、雇用の創出、所得の増加、GDPの増加、インフラの整備、地方の振興等を実現できる。日本再建のための経済社会政策の一本の柱とすべきものが、国土強靭化である。

 以下は藤井氏の記事。

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●産経新聞 平成24年10月8日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121008/lcl12100803130000-n1.htm
【正論】
京都大学大学院教授・藤井聡 巨大地震に備え「地方分散」せよ
2012.10.8 03:12 [正論]

 南海トラフ地震や首都直下地震への対策が必要であるとの認識は国民的に共有されつつあるように思う。それとともに、その対策である「国土強靱(きょうじん)化」の重要性も徐々に認識され始めているようだ。例えば、この度の自民党総裁選でも、国土強靱化は重要な論点の一つとして報道されている。

≪防災とは違う考え方が必要≫
 しかし、「強靱化」の考え方や具体的方針は、一般には十分に理解されていると言い難い。大手メディアでは「財政が厳しい今、強靱化対策なんて無理だ」などと伝えられることもしばしばである。が、それは完全な誤解だ。
 そもそも、財源が乏しい中で超巨大地震対策を図ろうというのが「強靱化」である。「強靱」とは強くしなやかな様を言う。巨大災害でも、何とか致命傷を避けて被災を最小化したうえで、迅速に回復することを見通しつつ、限られた財源の中で最善を尽くそうとするのが「強靱化」なのだ。
 十分な財源があるのなら、「強靱化」ではなく災害を完全に防ぐ「防災」を志せば良い。が、それは現実的には不可能だ。例えば、首都圏の十分な耐震補強には1000兆円が必要だともいわれている。その財源の確保は今の日本の国力からいって不可能だ。さらにいえば、科学的に危惧される「富士山大噴火」には、効果的対策が見当たらないのが実情だ。
 だからこそ、従来の「防災」とは異なる対策が求められているのであり、その一つとして現実味を帯びてくるのが、想定被災地からの事前疎開、つまり「地方分散」という考え方なのである。
 我が国の人口や都市機能の3割は、首都圏に集中している。そして、そこを直撃するのが首都直下地震だ。南海トラフ地震が襲いかかるのも、大阪、名古屋の両都市圏をはじめ全土の4割もの都市機能が集中する、(首都圏を除く)太平洋ベルトの諸都市だ。迫り来る巨大地震は、日本経済に壊滅的打撃を与え得るのである。

≪地方主要都市の「温存」を≫
 こうした国土の構造上の脆弱性を克服して、国土構造そのものを「強靱化」していくためには、想定被災地に過度に集中した都市機能を、日本海側や北海道、中国、四国、九州といった地方部へ分散(つまり、事前疎開)させることが急務となるのである。そして、「地方分散化」は、様々な意味で日本の強靱化に貢献する。
 第一に、分散化することによって、災害の一次被害がその分、減少する。第二に、仮に、太平洋側の諸都市が「破壊」されたとしても、分散化していれば、地方都市が「温存」されて、日本全体が致命傷を負うことは避けられる。第三に、災害を無傷か軽傷で生き延びた地方都市は、被災地「救援」を行うことも可能になる。
 地方分散がうまくいけば、巨大な自然災害が発生しても、「致命傷を避け、被害を最小化し、迅速に回復できる」のであり、国土全体が強くしなやかなものとなる。これこそ、想定被災地における直接対策を上回る重大な意味を持つ「国土そのものの強靱化」なのであり、これによって、日本は「亡国」の危機を免れ得る。今や、単に防災や減災にとどまらない「国土強靱化」という言葉が、国会などでも盛んに使われだしているのも、そのためだといえる。
 むろん、ここまで一極集中が進んだ今日の日本で、時計の針を巻き戻すような地方分散化は必ずしも容易ではないだろう。しかし、例えば、全国知事会が目下、主張している「日本海軸」や「第二太平洋軸」(四国新幹線)といったインフラ投資を軸とした地域の経済成長策が地方分散化をもたらすことは間違いないだろう。

≪新幹線などへの投資で誘導≫
 近年の国土の歴史的な変遷を見ても、それは一目瞭然だ。
 例を挙げると、かつて北陸の中心都市だった「加賀百万石」の金沢を抜き去って、新潟市が日本海側唯一の政令指定市になった背景に、「上越新幹線」の開業があったことは確実だ。最近でいえば、九州新幹線開業に伴う熊本市の政令指定市化が記憶に新しい。さらには、出遅れたその金沢でも、北陸新幹線計画が決定された結果、現在、駅前の投資が大きく進展していることはよく知られている。新幹線を中心にした交通インフラへの投資は、10年、20年という歳月を経て、沿線諸都市の飛躍的な発展を促してきたのである。
 こうした次世代投資を国家プロジェクトとして展開していくと同時に、地方分散化へと誘導する税制優遇策などの各種ソフト施策を展開していくことこそが、過度な一極集中を是正し、都市機能を分散させて、国土を抜本的に「強靱化」させる、最も効果的かつ現実的なシナリオなのである。
 こうした強靱化の基本的な思想と方針を十全に理解した政権が「近いうち」に我が国に誕生することを、是非とも祈念したい。万が一にもその願いが叶(かな)わないのなら、日本国家が「近い将来」に、安寧ある繁栄を続けられない状態に陥ってしまうことは、残念ながら避け難いのである。(ふじい さとし)
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関連掲示
・拙稿「首都直下地震は国家存亡に関わる」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/961ed5d5f0dfbb3c7563dfe69ec94391
・拙稿「南海トラフ地震、死者最大32万3千人を避けるには」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/75a75af9949b910e1c909d3db5535b3e
・拙稿「巨大地震で製油所8割が機能不全に」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/a684b9031262ec389c2d6cde55d815e0
・拙稿「東日本大震災からの日本復興構想」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13l.htm
第2章 藤井聡氏の提言
・拙稿「富国強靭を国家の大方針に~藤井聡氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/94960fedf33db0f3716984e21b28fd7d

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