●国家的な権力
国家的な権力は、その国家の内部または他の国家との関係において、国家の維持・繁栄を実現するために、領域と人民を統治する権力である。国家権力は家族的権力、社会的権力をそのうちに含む。国家権力は政治的権力がもっとも発達したものである。そして、他の国家権力と相互関係にあり、相互作用を行う。
国家は、政治的な集団である。ウェーバーのいう政治団体の一つであり、政治団体の下位概念である。ウェーバーは、国家は政治団体として、「秩序の保証のために暴力行為を使用する(少なくとも併用する)」という事実のほかに、「或る地域に対する行政スタッフ及び秩序の支配を要求し、これを暴力行為によって保証する」という特徴を持つとする。この「或る地域」とは、国家の領土であり、領海・領空を含めた広い概念で言えば、領域である。
萱野氏によれば、政治団体は「秩序と支配を保証するために」「暴力」を手段として用いる。その政治団体のあるものが、「合法的な暴力行使の独占を実効的に要求する」ようになるとき、「国家が成立」する。言い換えれば、政治的権力を持つ集団が、合法的な実力行使の独占を実効的に要求するようになるとき、国家が成立するというわけである。
近代西欧の国家は、国王またはその政府が一定の領域内で実力を独占し、実力の行使を合法化し、他の政治団体の実力行使を非合法化した。西欧の絶対主義国家を典型とする専制的な君主国家では、統治権者は国王である。近代国家が形成される過程で、初期には国王が個人として王権を主張した。国王個人の権利が国家の権利と一致していた。その権利は、国王が神から授かったものと主張され、絶対的・専制的な性格を持っていた。国王は、領域における主権すなわち最高統治権を持つに至った。これに対し、貴族や新興階級が国王から権利を守るために抵抗し、王権を制限するとともに、自分たちの権利を確保し拡大してきた。国民が広く政治に参加するようになった国家、すなわち国民国家においては、国家の統治機関である政府が、集団としての国家の権利を行使する。
デモクラシー(民衆参政制度)が発達した君主制または共和制の国家では、統治権者は国民・人民・議会等に存するとされる。その場合、実際に統治権を行使するのは、政府である。国家の統治機関である政府は、自ら権利を行使する主体であると同時に、国民に権利を保障する主体でもある。政府は国内の諸集団や諸個人との間で、互いに権利の主体―対象として関わり合う。また、他国の政府との間でも、互いに権利の主体―対象として関わり合う。こうした国家における統治権を力の観念でとらえたものが、国家的な権力である。
人権の思想は、国家権力からの自由を確保し、伝統的な権利を維持しようとする運動の中で発生した。最初は先祖伝来の古くからの権利という観念から、普遍的・生得的な権利という観念が発生した。国王が王権を神に授けられたものとする王権神授説を説くのに対し、人民の自由と権利は神から与えられたものとする天賦人権論で対抗した。政府に対して人民の権利を守り、獲得し、拡大する動きは、国家権力に対して人民の権力を獲得しようとするものとなった。
ここで国家権力から権利を守るため権力の介入を規制する思想・運動が現れた。それが、リベラリズム(自由主義)である。またさらに権利を獲得・拡大するため、民衆が政治参加を求める思想・運動が現れた。それが、デモクラシーである。これらリベラリズムとデモクラシーという全く別のものが、結合したところにリベラル・デモクラシーが成立した。リベラル・デモクラシーは、自由権の確保と参政権の拡大が結合したものである。そして国家権力に対抗しつつ、集団及び個人の権利を確保・拡大してきた思想・運動である。
リベラリズム、デモクラシーとしばしば結びつきながら、近代西欧社会に登場したものに、ナショナリズムがある。ナショナリズムは、文化的単位と政治的な単位の一致をめざす思想・運動である。文化的な集団が政治的な集団でもあろうとし、政治的または国家的な権力を獲得し拡大しようとするものである。ナショナリズムは、他民族の支配に抵抗し、独立や解放を目指す集団の動きである。そこにおいて形成される権力は、人民の力の合成であり、新たな共同体の力である。独立や解放は統治権の奪取であり、自己決定権の獲得である。人民の力の結集で政治的または国家的な権力を獲得する。その獲得された権力のもとに、集団の権利が拡大され、成員個人に権利が付与され、また拡大される。ナショナリズムもまた権力との関係で人権の意識を発達させてきた。
国家については次章で改めて論じる。ここでは、近代西欧国家における人権と権力の関係に触れるにとどめたい。
●権力の諸形態と政治の関係
ここで権力の諸形態と政治の関係について、まとめておきたい。権力は権利の相互作用を力の観念でとらえたものである。権力は、社会の様々な集団で発生し、機能する。家族をはじめ氏族・部族・組合・団体・社団等の集団で、それぞれの権力が発生し、機能する。
権力の最小規模は、集団の最小規模である家族における権力、すなわち家族的な権力である。権力は、家族的な権力を基礎とする。家族的権力が発達して社会的権力となる。社会的権力の一部は政治的権力となる。権力の最大規模は、集団の最大規模である国家における権力、すなわち国家的な権力である。政治的な権力が発達したものが国家的な権力となる。
家族的権力は、家族の内部または他の家族との関係において、家族の維持・繁栄を実現するために、家族員を保護・指導し、財産を管理・運用する権力である。
社会的権力は、ある社会的な集団の内部または他の社会的な集団との関係において、その集団の維持・繁栄を実現するために、集団の成員を統括し、また財産を運営する権力である。
社会的な権力のうちには、氏族的・部族的な権力と組合・団体・社団的な権力がある。またこれらの諸権力は、政治的な権力に発展する場合がある。集団は、対外的に集団としての権利を確保・獲得・行使するために、実力を組織し、一定の領域を統治するようになることがある。この時、その集団は、政治的な集団と化す。政治とは、集団における秩序の形成と解体をめぐる相互的・協同的な行為である。とりわけ権力の獲得と行使に係る現象をいう。
家族は、秩序と支配を守るために、親が子、夫が妻、兄が弟等に暴力を振るったり、家族員が一定の領域を他の家族員に対して排他的に占有したりしても、政治的な集団とはいえない。家族の関係は親子・夫婦・祖孫等の私的な関係であって、それを超えた公的な関係ではないからである。政治は、集団において公共性のある事柄について意思を決定し、その実現を図る行為である。それゆえ、政治的な集団と言い得るのは、複数の家族の集団である氏族からである。
氏族・部族・組合・団体・社団等の集団のうち、物理的実力を組織し、一定の領域を統治するものを、政治的な集団という。政治的な集団は、政治的な権力を得ようとする集団または政治的権力を持つ集団である。
政治的な集団の持つ社会的権力は、同時に政治的権力となる。政治的権力は、政治的な行為によって形成される社会的な権力とも言える。政治的権力は、もともと協同的に行使されるものであるが、社会的な権力が闘争的に行使される集団においては、政治的権力は闘争的に行使されるものとなる。
政治的な権力が国家に係るものとなったものを、国家的な権力という。国家的権力は、その国家の内部または他の国家との関係において、国家の維持・繁栄を実現するために、領域と人民を統治する権力である。国家権力は政治的権力がもっとも発達したものである。そして、他の国家権力と相互関係にあり、相互作用を行う。国家権力は、その中に社会的な権力を含み、社会的な権力は、その中に家族的な権力を含む。国家的権力は家族的権力、社会的権力を基礎とし、それに支えらえている。またこれを規制したり、保護したりもするという構造となっている。
次回に続く。
国家的な権力は、その国家の内部または他の国家との関係において、国家の維持・繁栄を実現するために、領域と人民を統治する権力である。国家権力は家族的権力、社会的権力をそのうちに含む。国家権力は政治的権力がもっとも発達したものである。そして、他の国家権力と相互関係にあり、相互作用を行う。
国家は、政治的な集団である。ウェーバーのいう政治団体の一つであり、政治団体の下位概念である。ウェーバーは、国家は政治団体として、「秩序の保証のために暴力行為を使用する(少なくとも併用する)」という事実のほかに、「或る地域に対する行政スタッフ及び秩序の支配を要求し、これを暴力行為によって保証する」という特徴を持つとする。この「或る地域」とは、国家の領土であり、領海・領空を含めた広い概念で言えば、領域である。
萱野氏によれば、政治団体は「秩序と支配を保証するために」「暴力」を手段として用いる。その政治団体のあるものが、「合法的な暴力行使の独占を実効的に要求する」ようになるとき、「国家が成立」する。言い換えれば、政治的権力を持つ集団が、合法的な実力行使の独占を実効的に要求するようになるとき、国家が成立するというわけである。
近代西欧の国家は、国王またはその政府が一定の領域内で実力を独占し、実力の行使を合法化し、他の政治団体の実力行使を非合法化した。西欧の絶対主義国家を典型とする専制的な君主国家では、統治権者は国王である。近代国家が形成される過程で、初期には国王が個人として王権を主張した。国王個人の権利が国家の権利と一致していた。その権利は、国王が神から授かったものと主張され、絶対的・専制的な性格を持っていた。国王は、領域における主権すなわち最高統治権を持つに至った。これに対し、貴族や新興階級が国王から権利を守るために抵抗し、王権を制限するとともに、自分たちの権利を確保し拡大してきた。国民が広く政治に参加するようになった国家、すなわち国民国家においては、国家の統治機関である政府が、集団としての国家の権利を行使する。
デモクラシー(民衆参政制度)が発達した君主制または共和制の国家では、統治権者は国民・人民・議会等に存するとされる。その場合、実際に統治権を行使するのは、政府である。国家の統治機関である政府は、自ら権利を行使する主体であると同時に、国民に権利を保障する主体でもある。政府は国内の諸集団や諸個人との間で、互いに権利の主体―対象として関わり合う。また、他国の政府との間でも、互いに権利の主体―対象として関わり合う。こうした国家における統治権を力の観念でとらえたものが、国家的な権力である。
人権の思想は、国家権力からの自由を確保し、伝統的な権利を維持しようとする運動の中で発生した。最初は先祖伝来の古くからの権利という観念から、普遍的・生得的な権利という観念が発生した。国王が王権を神に授けられたものとする王権神授説を説くのに対し、人民の自由と権利は神から与えられたものとする天賦人権論で対抗した。政府に対して人民の権利を守り、獲得し、拡大する動きは、国家権力に対して人民の権力を獲得しようとするものとなった。
ここで国家権力から権利を守るため権力の介入を規制する思想・運動が現れた。それが、リベラリズム(自由主義)である。またさらに権利を獲得・拡大するため、民衆が政治参加を求める思想・運動が現れた。それが、デモクラシーである。これらリベラリズムとデモクラシーという全く別のものが、結合したところにリベラル・デモクラシーが成立した。リベラル・デモクラシーは、自由権の確保と参政権の拡大が結合したものである。そして国家権力に対抗しつつ、集団及び個人の権利を確保・拡大してきた思想・運動である。
リベラリズム、デモクラシーとしばしば結びつきながら、近代西欧社会に登場したものに、ナショナリズムがある。ナショナリズムは、文化的単位と政治的な単位の一致をめざす思想・運動である。文化的な集団が政治的な集団でもあろうとし、政治的または国家的な権力を獲得し拡大しようとするものである。ナショナリズムは、他民族の支配に抵抗し、独立や解放を目指す集団の動きである。そこにおいて形成される権力は、人民の力の合成であり、新たな共同体の力である。独立や解放は統治権の奪取であり、自己決定権の獲得である。人民の力の結集で政治的または国家的な権力を獲得する。その獲得された権力のもとに、集団の権利が拡大され、成員個人に権利が付与され、また拡大される。ナショナリズムもまた権力との関係で人権の意識を発達させてきた。
国家については次章で改めて論じる。ここでは、近代西欧国家における人権と権力の関係に触れるにとどめたい。
●権力の諸形態と政治の関係
ここで権力の諸形態と政治の関係について、まとめておきたい。権力は権利の相互作用を力の観念でとらえたものである。権力は、社会の様々な集団で発生し、機能する。家族をはじめ氏族・部族・組合・団体・社団等の集団で、それぞれの権力が発生し、機能する。
権力の最小規模は、集団の最小規模である家族における権力、すなわち家族的な権力である。権力は、家族的な権力を基礎とする。家族的権力が発達して社会的権力となる。社会的権力の一部は政治的権力となる。権力の最大規模は、集団の最大規模である国家における権力、すなわち国家的な権力である。政治的な権力が発達したものが国家的な権力となる。
家族的権力は、家族の内部または他の家族との関係において、家族の維持・繁栄を実現するために、家族員を保護・指導し、財産を管理・運用する権力である。
社会的権力は、ある社会的な集団の内部または他の社会的な集団との関係において、その集団の維持・繁栄を実現するために、集団の成員を統括し、また財産を運営する権力である。
社会的な権力のうちには、氏族的・部族的な権力と組合・団体・社団的な権力がある。またこれらの諸権力は、政治的な権力に発展する場合がある。集団は、対外的に集団としての権利を確保・獲得・行使するために、実力を組織し、一定の領域を統治するようになることがある。この時、その集団は、政治的な集団と化す。政治とは、集団における秩序の形成と解体をめぐる相互的・協同的な行為である。とりわけ権力の獲得と行使に係る現象をいう。
家族は、秩序と支配を守るために、親が子、夫が妻、兄が弟等に暴力を振るったり、家族員が一定の領域を他の家族員に対して排他的に占有したりしても、政治的な集団とはいえない。家族の関係は親子・夫婦・祖孫等の私的な関係であって、それを超えた公的な関係ではないからである。政治は、集団において公共性のある事柄について意思を決定し、その実現を図る行為である。それゆえ、政治的な集団と言い得るのは、複数の家族の集団である氏族からである。
氏族・部族・組合・団体・社団等の集団のうち、物理的実力を組織し、一定の領域を統治するものを、政治的な集団という。政治的な集団は、政治的な権力を得ようとする集団または政治的権力を持つ集団である。
政治的な集団の持つ社会的権力は、同時に政治的権力となる。政治的権力は、政治的な行為によって形成される社会的な権力とも言える。政治的権力は、もともと協同的に行使されるものであるが、社会的な権力が闘争的に行使される集団においては、政治的権力は闘争的に行使されるものとなる。
政治的な権力が国家に係るものとなったものを、国家的な権力という。国家的権力は、その国家の内部または他の国家との関係において、国家の維持・繁栄を実現するために、領域と人民を統治する権力である。国家権力は政治的権力がもっとも発達したものである。そして、他の国家権力と相互関係にあり、相互作用を行う。国家権力は、その中に社会的な権力を含み、社会的な権力は、その中に家族的な権力を含む。国家的権力は家族的権力、社会的権力を基礎とし、それに支えらえている。またこれを規制したり、保護したりもするという構造となっている。
次回に続く。
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