ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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ユダヤ145~ユダヤ教の二面性への対処

2017-12-31 10:47:16 | ユダヤ的価値観
ユダヤ教の二面性に対処する

 第五に為すべきことは、ユダヤ教の二面性を理解し、これに対処することである。ユダヤ教は民族宗教だが、その教えには民族的特殊性と人類的普遍性の両面がある。この点について、ユダヤ人の歴史家マックス・ディモントの著書『ユダヤ人の歴史~世界史の潮流の中で』で、ユダヤ思想には民族主義と普遍主義の二面性があり、その二面性がユダヤ民族の生き残りの方法となっていると説いている。
 私見によれば、ディモントは民族主義をよく定義していない。近代以前にネイションは存在しないので、近代以前から現代までを一貫する思想をいうのであれば、ナショナリズムではなくエスニシズムというべきである。また民族主義と普遍主義は、対概念にはならない。普遍の反対語は特殊である。そこで、私は、ディモントにおける民族主義と普遍主義という対比を、民族的特殊性と人類的普遍性に置き換えて理解する。
 ディモントの説くところでは、民族主義はユダヤ人の選民思想であり、神の言葉を伝える者としてのユダヤ人のアイデンティティを保持することが、ユダヤ民族の生存に必要であるとする主張である。また普遍主義は人類に普遍的なメッセージを世界に伝えることであって、そのために世界の数々の中心地にユダヤ人が存在することが必要だとする主張である、とディモントは述べる。
 ディモントによると、彼のいう民族主義を唱えた最初の預言者はホセアであり、普遍主義を説いた最初の預言者はアモスである。また、アモスの普遍主義思想を発展させてユダヤ教の普遍主義を構築したのが、預言者イザヤである。イザヤの普遍主義思想とは「人類は兄弟である」という言葉に象徴されている。「人類は兄弟である」と説く普遍主義は、ホセアの唱えたユダヤ人は選ばれた民であるとする民族主義とは正反対の思想である。
 ディモントによれば、民族主義のためには、イスラエルという国家が必要である。しかし、国家は滅ぶ可能性がある。そこで、ユダヤ教を存続させるためには、イスラエルの外にディアスポラのユダヤ人が存在することが必要である。そして、ディアスポラのユダヤ人は、単にユダヤ教を守るだけでなく、ユダヤ教が教える人類に普遍的な価値を広める責務がある、とディモントは述べている。
 私見を述べると、ユダヤ教史上最高のラビと言われる紀元後2世紀のラビ・アキバは、ユダヤ教を一言で言うと、「レビ記」19章18節の「あなた自身を愛するように隣人を愛しなさい」であると述べている。イエスもまた「汝の隣人を愛せよ」と教えたが、ユダヤ教における隣人とは、ユダヤの宗教的・民族的共同体の仲間である。仲間を愛する愛は、選民の間に限る条件付つきの愛である。人類への普遍的・無差別的な愛ではなく、特殊的・差別的な愛である。なぜなら彼らの隣人愛のもとは、神ヤーウェのユダヤ民族への愛であり、その神の愛は選民のみに限定されているからである。ユダヤ教徒の隣人愛が普遍的・無差別的な人類愛に高まるには、神ヤーウェによる選民という思想を脱却しなければならないだろう。
 馬淵睦夫は、著書『世界を操る支配者の正体』で、次のように言う。「ユダヤ教はあくまでユダヤ人のための民族宗教であって、世界宗教ではない。ユダヤ教の掟はユダヤ人のみを対象としたものだから、彼らは私たち異邦人をユダヤ教に改宗させようとしているのではなく、人類に普遍的であるとみなす思想、『人類は兄弟』のような平等思想や、共産主義、グローバリズムを世界に広めようとするのである。いわば、彼らが普遍的とみなす思想へ私たちを改宗させようと試みているのである」
 「グローバリズムは民族主義を否定すると言っても、ユダヤ人のみには民族主義が許されている。グローバリズムの下ではユダヤ人以外の民族主義は認められていないということは、グローバル社会において民族主義的なものはすべてユダヤ人が独占するのである」
 「グローバリズムはユダヤ普遍思想であって、その担い手であるディアスポラ・ユダヤ人はグローバリズムを世界に拡大させることによって、ユダヤ民族とイスラエル国家の安泰を図っているのだと言える」と。
 私見を述べると、馬淵が把握を試みているのは、ユダヤ民族という選民とこれを支持する非ユダヤ人が世界的な支配集団となり、他の諸民族・諸国民は脱ナショナリズム化させて、人類的普遍性の思想を持たせることである。ここには、ユダヤ人は自らの民族的特殊性の教えを堅持し、一方、他民族には人類的普遍性の思想を広めることで、イスラエルの安全とユダヤ民族の繁栄を確保できるという考え方がある。このように、ユダヤ人は、ユダヤ教にある民族的特殊性と人類的普遍性の二面性を発揮することで、民族の生き残りを図っていると理解される。
 こうしたユダヤ教の二面性を理解し、これに対処する必要がある。

●アメリカ=イスラエル連合に方向転換を促す

 第6に為すべきことは、アメリカ=イスラエル連合に方向転換を促すことである。まずこの連合の宗教的基盤について書くと、ディモントが注目するホセアの民族的特殊性の教えは、シナイ契約によって選民思想を樹立したモーゼに淵源する。一言で言えば、ユダヤ民族は神に選ばれた民であり、神と契約を結んでいる唯一の民族であるという思想である。一方、イザヤの人類的普遍性の教えは、イエスによってユダヤ民族の枠を超えて、諸民族に広める教えへと発展した。一言で言えば、「汝の隣人を愛せよ」という思想である。
 民族的特殊性を核心とするユダヤ教は民族宗教のままだが、人類的普遍性を説くキリスト教は世界宗教となった。キリスト教は、エスニックなユダヤ教と対立する。また、ローマ帝国、ゲルマン社会等の諸民族に固有の宗教を捨てさせ、脱エスニシズムの教えを広布した。だが、16世紀に至って、ヨーロッパで逆流が起った。ヨーロッパに深く浸透したカトリック教会が腐敗を極め、これに抗議するプロテスタンティズムが現れたことにより、キリスト教の一部が再ユダヤ教化したのである。その結果、ユダヤ民族は元来のエスニックなユダヤ教を堅持し、そのユダヤ民族を再ユダヤ教化したキリスト教徒が取り囲むという関係が生まれた。さらに、20世紀後半に至り、人類的普遍性の教えを信奉するキリスト教徒の社会が、宗教的・民族的特殊性を持つユダヤ教徒の社会を守る同盟関係が作られた。それが、アメリカ=イスラエル連合である。アメリカ=イスラエル連合は、ユダヤ教の民族的特殊性と人類的普遍性という二面性が、キリスト教を介して、国家間の関係に発展したものである。
 かつては、ユダヤ人のすべてがディアスポラだった。しかし、今はイスラエルに所属・居住するユダヤ人が、国民国家を形成している。彼らは、イスラエルという本国を防衛し、その拡張を図っている。一方、ユダヤ人の一部はディアスポラであり続け、本国外から本国の維持・発展に寄与している。主に米国に居住するユダヤ人がこの役割を担っている。ユダヤ人が多数、世界的な覇権国家アメリカに居住して、ロビー活動を行うことで、アメリカの政治・外交をイスラエルの国益にかなうものへと誘導している。それによって、アメリカのナショナリズムを、イスラエルのナショナリズムに寄与するものに変形させている。それゆえ、ユダヤ人は、もはや単なるディアスポラではない。元ディアスポラであり、現在は半分がディアスポラであることを利用して、本国の安全と民族の繁栄を追求するという高度な本国連携型のナショナリズムを展開している。
 今日、アメリカ=イスラエル連合は、国際社会でグローバリズムを推進するエンジンとなっている。またアメリカ=ユダヤ文化を普及することによって、ユダヤ的価値観を世界に普及しつつある。その活動は、ユダヤ民族のナショナリズムを強化し、他民族の脱ナショナリズムを促進するものともなっている。それゆえ、ユダヤ的価値観の超克のためには、非ユダヤ民族におけるナショナリズムを保持するだけでなく、アメリカ=イスラエル連合を世界の諸国民・諸民族の共存共栄に寄与するものに方向転換することが重要な課題となる。
 グローバリズムは、アメリカ=イスラエル連合を要として、ユダヤ=キリスト教による人類の教化を進め、ユダヤ教徒という選民とその支持者である非ユダヤ人が世界を統治する体制の樹立を目指す思想・運動となっている。グローバリズムを通じて世界に浸透しつつあるユダヤ的価値観を超克するためには、その核心にあるユダヤ教の在り方が問われねばならない。

 次回に続く。

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