ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

集団自決の記述に政治的決着

2007-12-27 21:43:02 | 教育
 高校日本史教科書の沖縄戦の集団自決の記述について、結論が出た。軍による集団自決の「強制」「強要」という表現は認めないが、軍の「関与」があったとし、や「強制的状況」という表現は認めるというものだ。政府は、今春の検定意見への反発に政治的な譲歩をする一方、軍命令を含む「強制」は認めないとの当初の検定意見は変えないという玉虫色の決着をしたといえるだろう。新たな歴史的事実が発見されたわけではないから、政府の対応は、今後の教科書検定に大きな禍根を残すものとなったと思う。 

 このほど文部科学大臣の諮問機関である教科用図書検定調査審議会(検定審)は、教科書会社から提出されていた訂正申請を承認する見解をまとめ、渡海文部科学相に報告した。報告を受けた、文科省は訂正申請を承認した。
 評価できる点は、日本軍の命令を集団自決の直接原因とする記述や、軍による「強制」と決め付ける表現は認めず、検定意見の撤回にも応じなかったことである。その点はよいが、検定審の報告は、教科書の記述方針を示す「基本的とらえ方」において、「集団自決が起こった要因にも様々なものがある。手榴弾の配布など軍の関与は主要なものととらえることができる」「住民に対する直接的な軍の命令で行なわれたことを示す根拠は現時点では確認できていないが、住民から見れば自決せざるを得ないような状況に追い込まれたとも考えられる」と趣旨を述べており、この点には問題があると私は思う。
 軍による強制は存在しないが、「関与」はあったとし、しかもそれが集団自決の主要な要因と見なしているわけだが、学者・研究者の間には、諸説ある。「関与」という表現は、「強制」と言う以上に、茫漠としている。手榴弾は、当時の我が国では一般に自決には用いられなかったという証言もある。「自決せざるを得ないような状況に追い込まれたとも考えられる」というところも、「考えられる」とは、考察であって立証ではない。史実の表現としては、客観性を欠く。

 今回の行政の姿勢変化に対し、教科書会社7社のうち6社が訂正申請をした。訂正申請において、三省堂と実教出版の2社は、「強制」という文言を用い、清水書院は「強要」という文言を用いていた。検定審の報告は、「強制」「強要」という表現は不適切としつつも、軍の「関与」は認めるものだった。
 それを受け、最終記述では、7社中6社は、「集団自決」に「追い込まれた」、1社は「追いやられた」という表現となった。また、「関与」の文言を用いたのは2社で、三省堂は「日本軍の関与によって集団的自決に追いこまれた人もいる(略)」、清水書院は「日本軍の関与のもと、配布された手榴弾などを用いた集団自決に追い込まれた人々もいた」とした。三省堂は「強制」を、清水書院は「強要」を、「関与」に替えたものである。実教出版は「強制」の替わりに「強制的」という文言を用い、「強制的な状況のもとで、住民は、集団自害と殺しあいに追いこまれた」とした。

 「命令」の証拠がなければ「強制」。「強制」とまで言えなければ「関与」。しかも、「状況」という客観的とも主観的とも取れるような表現。こうした事柄を、高校生用の教科書に詳細記述して教える必要があるのか、私は疑問を感じる。
 今回の政府の対応は、今後、慰安婦問題、在日朝鮮人問題、問題等に関しても、一部の国民が検定に反発すれば、そのたびに教科書の記述が書き改められ、教育の中立性が失われるおそれがある。政治的譲歩は、今後の教科書検定に大きな禍根を残すものとなったと思う。
 以下は報道のクリップ。

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●読売新聞 平成19年12月27日付

http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=371911&media_id=20
「沖縄」教科書 “政治的訂正”の愚を繰り返すな (読売新聞 - 12月27日 02:14)

 検定意見を正面から否定するような記述訂正は認められなかった。とは言え、きわめて疑問の多い“政治的訂正”であることに変わりはない。
 来年度から使用される高校日本史教科書の沖縄戦・集団自決の記述について、教科用図書検定調査審議会は、教科書会社6社から提出されていた訂正申請を承認する見解をまとめ、渡海文部科学相に報告した。これを受け、文科省は訂正申請を承認した。
 例えば、今春の検定で「集団自決に追い込まれた人々もいた」とされていた記述は、「日本軍の関与のもと、配布された手榴弾(しゅりゅうだん)などを用いた集団自決に追い込まれた人々もいた」と訂正された。捕虜になるよりは自決せよとの教育や宣伝があったことも背景として付記された。
 最初の訂正申請では「日本軍の強制によって集団自決に追い込まれた人々もいた」とされていたが、審議会の意向を受け、申請内容が修正された。
 今回、9人の専門家から意見聴取した審議会は、集団自決が日本軍の命令で行われたことは「確認できていない」、集団自決の要因には「様々なものがある」などとする見解をまとめている。
 集団自決の際の軍命令の有無が裁判で争われていることなどを踏まえて、軍の「関与」はあったが「強制」は明らかでないとした、今春の検定意見の趣旨から逸脱するものではない。
 しかし、日本軍が「自決しなさい」と言って住民に手榴弾を手渡したとの記述も訂正申請で認められた。これについては、その根拠となった住民の証言の信頼性を疑問視する研究者もいる。
 今回の検定意見の撤回を求める沖縄県議会の意見書が採択されたことを追加記載して、認められた教科書もあった。
 検定済み教科書に対するこのような訂正申請がなし崩し的に認められていくのであれば、内外の政治的思惑によって、教科書検定制度そのものが揺らいでいくことにもなりかねない。
 政府が異例の訂正申請を認める発端となったのは、9月29日に沖縄県宜野湾市で開かれた検定意見の撤回を求める県民大会だった。
 「参加者11万人」という主催者発表の数字が伝えられたが、その後、俯瞰(ふかん)写真に写っている参加者を数えた東京の大手警備会社は、1万8000~2万人と指摘している。
 実数を5倍以上も上回っていた主催者発表の数字に、政府が驚いたことで始まった“訂正劇”だった。
 政府は、教科書検定に対する政治介入の愚を二度と繰り返してはならない。

●産経新聞 平成19年12月27日付

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/071227/stt0712271417003-n1.htm
自民党歴史教育議連、教科書“再検定”を批判
2007.12.27 14:32

 沖縄戦集団自決をめぐる高校日本史教科書検定問題で、自民党有志の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(会長・中山成彬元文部科学相)は27日、党本部で「沖縄問題小委員会」(萩生田光一委員長)を開いた。
 小委員会では、自決への軍の強制性を示す記述を認めた教科書検定審議会(会長=杉山武彦・一橋大学長)の審議結果に対し「史実の新たな発見がないのに、政治介入で教科書の歴史記述を書き換えるような危険なことがあっていいのか」などと批判の声があがった。
 議連は、1月に渡海紀三郎文科相を招き直接、検定審の審議結果について説明を受ける方針だ。
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