ほそかわ・かずひこの BLOG

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マラソン14~中国の戦略の核は戦国時代の教え(続き)

2021-09-14 08:38:18 | 国際関係
●中国の戦略の核は戦国時代の教え(続き)

 中国の戦略の要素のうち、「勢」以外に注目すべきものの一つが、⑥ 「覇権国はその支配的な地位を維持するためなら、極端で無謀な行動さえ取りかねない」である。ピルズベリーは、多くの中国人は「アメリカを世界に君臨する覇権国だと見なし、覇権国であるなら、戦国時代のあらゆる覇者と同様に利己的で疑い深く、無慈悲なふるまいをするはずだと考えている」という。この考えは、現代のアメリカ人も古代のシナ人も同じように考えるはずだという見方である。
 ピルズベリーによると、『戦国策』は、頂点に支配者を持たない体制は一時的なものにすぎず、世界の自然な秩序は階層構造をなすと説いている。現代の世界は多極化が進んでいるが、中国の指導者たちは「本音のところでは、多極世界は、中国をトップとする新たな階層が築かれるまでの中間段階にすぎないと考えている」とピルズベリーは見ている。中国を頂点とする新たな階層秩序は、中国語で「大同」という。「大同」は『礼記』礼運篇にある語で、相互扶助の行きわたった理想的な社会状態を表わす。だが、これは中国共産党が得意とする粉飾であり、ピルズベリーは「大同」は「一極支配の時代」と訳すべきだろうと書いている。中国共産党が目指しているのは、中国を唯一の超大国とする一極支配の世界である。その世界を実現するための最大の敵は米国である。米国を倒さなければ、その世界は実現できない。「中国の指導者はアメリカを打倒すべき敵とみなしている」とピルズベリーは書いている。
 ピルズベリーは「20世紀初頭、中国の作家や知識人は、チャールズ・ダ―ウィンとトマス・ハクスリーの著作に魅了された。特にダ―ウィンの生存競争と適者生存という概念は、中国が西洋諸国に味あわされた屈辱に復讐する方法として共感を呼んだ」。「自然選択」が「排除」と訳され、「それがダ―ウィンの思想についての中国人の考え方を支配するようになった。つまり、生存競争で負けたほうは弱者と見なされるだけでなく、自然界であれ政治的世界であれ、『排除』される、と彼らは考えたのだ」「中国共産党の戦略的思考は、『容赦ない競争世界における生存競争』という概念に支配されるようになった」と書いている。
 確かに世界覇権の奪取を目指す中国共産党の思想には、人類社会における自然淘汰・生存競争を進化の原理とする社会ダーヴィニズムの影響があるのかも知れない。社会ダーヴィニズムは、ナチス・ドイツの思想に影響を与えたことで知られる。社会ダーヴィニズム的な闘争は、マルクスが説いた階級闘争とは別の闘争である。民族的集団が他の民族的集団と戦い、国家が他の国家と戦って、生存・繁栄しようとする闘争である。今日、中国共産党が進めている闘争は、「中華民族」という民族的集団が他の民族的集団と戦い、中華人民共和国という国家が他の国家と戦って、世界的な覇権を獲得しようとする闘争である。その思想には、シナの戦国時代の軍事思想と社会ダーヴィニズムの思想が合体しているのかも知れないと考える必要がある。
 中国の戦略の要素のうち、もう一つ注目すべきものとして、⑨「常に警戒し、他国に包囲されたり、騙されたりしないようにする」がある。ピルズベリーは「中国の指導者は、アメリカや西洋諸国が中国を『包囲』することを、偏執的に恐れている」と書いている。シナの戦国時代の軍事思想は、敵の連合を弱めて包囲されないようにすることと同時に、他国と連合して敵を包囲することを重視している。
 ピルズベリーは、2015年11月25日付のPRESIDENT Onlineの「『中国は2049年の覇権国家を目指す』は本当か?」と題したインタビュー記事で、次のように語っている。
 「毛沢東が1934~36年、国民党軍と交戦しながら延安に向かった、あの長征に抱えていったのが『資治通鑑』だ。しかも生涯を通じての愛読書にしている。これは、中国の戦国時代の兵法の指南書で、その核になるのは、相手の力を利用して、自分の勝利に結びつける戦法といっていい。戦国時代を統一した秦にしても、最初は『同盟を結びたい』と相手に持ちかけ、それ以外の国を1つずつ倒し、最後は同盟国も裏切って勝者になったのである。
 中国は、こうした先例をしっかりと現代の外交に生かしてきた。ソ連とアメリカを反目させることは、その好例といえよう。米ソに比べて国力が劣る中国は、自らの戦略を見直し、アメリカとソ連がデタント(緊張緩和)だったにもかかわらず、『ソ連はならず者国家なので一緒に戦おう』と近づいてきた。超大国2つを競い合わせながら、一方でアメリカから経済的、技術的援助を受けるという"漁夫の利"を狙った実にしたたかなやり方だ。
これはまさに『三国志演義』に描かれている赤壁の戦いの現代版にほかならない。
 魏、呉、蜀の三国が鼎立していた時代、強大な魏の侵攻を警戒した蜀の軍師である諸葛亮が、呉と組んで、魏の大軍を破った。この合戦で、戦いの舞台である長江を挟んで戦ったのは主に魏と呉の軍勢で、蜀はほとんど兵を失っていない。いうまでもなく、魏がソ連、呉がアメリカ、蜀が中国だが、こんなところからも、中国が古来の戦術を徹底して研究していることが分かる」
 中国が米ソに対して取った戦略を「赤壁の戦いの現代版」とピルズベリーは見破った。だが、長く「三国志」に親しんできたわが国で、彼のような見方をした国際政治学者、政治評論家、軍事学者、文明学者はいなかったのではないか。日中国交回復によって、中国は日本をも巧みに利用した。日本人もまたアメリカ人と同じく、シナ人の狡猾な知恵に騙され、彼らの戦略を見抜くことが出来なかったのである。

 次回に続く。

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