ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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カント18~世界史のとらえ方

2013-09-09 08:49:59 | 人間観
●世界史のとらえ方

 先に歴史を導く自然という点から、カントにおける歴史観について述べた。カントの場合は、哲学的な歴史観または歴史哲学であり、実証史学の歴史観とは異なる。カントは、『世界公民的見地における一般史の構想』では、「人類の歴史を全体として考察すると、自然がその隠微な計画を遂行する過程と見なすことができる」と書き、『人類の歴史の憶測的起源』では、自然が人類をアダムとイブという起源から文化の完成、永遠の平和へと導いているという考えを述べた。『判断力批判』では、自然の一切は人間の文化のために存在するとし、文化は道徳の準備であり、自然の究極目的は道徳的な人間を出現させることだとした。そして、『永遠平和論』では、歴史を導く自然が、人類に配慮したり、強制したりして、人類に永遠平和を保証すると説いている。このようにカントの歴史観は、あくまでキリスト教の信仰に基づくものである。また西洋中心の歴史観である。カントの思考は、彼が生きた時代と彼が所属する文明に制約されている。
 実存哲学者カール・ヤスパースは、カントに「哲学すること」を学んだ哲学者の一人である。ヤスパースは、カントの誤謬や限界を指摘しており、歴史における神的な自然の導きというカントの考えにも同意していない。第2次世界大戦後に刊行された『歴史の起源と目標』で、ヤスパースは、「われわれは人類の歴史の起源と目標を知らない」と書いた。これは、カントのキリスト教的・西洋中心的な歴史観に異論を呈したものである。そして、ヤスパースは、真に世界的な世界史を描こうと試みた。
 ヤスパースによれば、歴史の起源も目標も知らない人類は、世界史に「基軸」となる時点を設定しなければ、自らの立つ地点を見定めることもできない。欧米人のキリスト教信仰は、「人類の信仰」ではない。「世界史の基軸」は、あらゆる民族にとって「歴史的自己意識の共通の枠」となるようなものでなければならない。世界史の基軸は紀元前ほぼ500年頃にあり、その時代に「今日まで私たちがそれとともに生きている人間というものが生じた」。この時代は、老子・孔子・釈迦・エリヤ・プラトン等が輩出し、人類の「精神化」が起こった。それによって、人間は「精神的に全面的に開かれた本来的人間」となった。その後、科学と技術の発達によって世界は大きく変容した。現代は、科学と技術に支配され、大衆化とニヒリズムが進行する時代である。そのために、人類は大きな問題に直面している。来るべき新しい未来の第二の基軸時代は、まだ見えないまま、遠くにある。今日、人類は、地球全体をおおう第二の基軸時代に向かう途上にあり、模索と課題の中で、日夜、呻吟している、とヤスパースは述べた。
 呻吟するヤスパースは、カントの永遠平和論を批判的に継承し、世界の将来を考察する。ヤスパースは、現代を「地球的な最終秩序への移行」の段階と考える。世界秩序が征服・支配による世界帝国として成立するか、「相互理解と契約によって成り立つ諸国家の統合による世界政治」の形で成立するかが重大な問題だとヤスパースは言う。後者の形の「世界秩序」であれば、暴力による統一ではなく、「相互の成熟した理解のうちから協議によって成立する秩序」が地上に出現する。そして、協議・多数決・少数者尊重・修正変更の果てしない過程のなかで、万人の共同権利が保障された「世界秩序」が追求されていくと説いた。そして、平和的な「世界秩序」の形成は、諸国民・諸民族・諸個人が「信仰と愛」をもって、対話と相互理解を重ねることによってのみ可能だと考えた。
 カントの永遠平和論は、真の国際平和を実現できていない今日において、無視することのできない古典である。カントの永遠平和論を何らかの仕方で継承し発展させようとする者は、カントの永遠平和論が、キリスト教の信仰に基づくものであり、また単に人間が道徳的な努力によって目指す目標ではなく、意志を持ち、人類の歴史に関与する自然の導きを前提としたものだったことに留意する必要がある。人類は未だ共通の内在的超越者を導き手と仰いで、国際的に永遠平和を堅実化する段階には至っていない。自然に関する問題は重要だが、われわれは、何より自分自身について、人間自身について知らねばならない。私は諸国民・諸民族・諸個人の「対話と相互理解」を進めるためには、まず人間とは何かを問い直し、自己認識を改め、心霊論的人間観を確立することが必要だと考える。本稿はそのような観点から、カント哲学と心霊論的人間観について書いているものである。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「ヤスパースの『新基軸時代』と日本の役割」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion11b.htm
・拙稿「人類史に対する文明学の見方」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09a.htm

■追記

本項を含む拙稿「カントの哲学と心霊論的人間観」は、下記に掲示しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion11c.htm

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