ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

中国潜水艦の行動目的~志方俊之氏

2013-06-16 08:38:46 | 国際関係
 先月の5月は、中国の潜水艦が南西諸島のわが国の接続水域を潜航したまま通過するという事案が3度発生した。直接的な行動目的としては、日米韓3カ国が九州西方の東シナ海で行う合同演習を監視し情報を収集すること。また米軍の潜水艦探知能力を調査することが考えられる。だが、さらに大きな目的のもとに行動していると見たほうが良い。
 防衛問題の専門家・志方俊之氏は、この度の中国潜水艦の接続水域潜航通過の頻発について、「急膨張する中国海軍の活動が、沖縄から台湾、フィリピンを経てボルネオに至る中国の対米防衛ラインの第1列島線から溢(あふ)れ出したという、純軍事的側面から捉えられよう」と述べている。
 中国の地図を90度回転させ、大陸側を下にして太平洋側を上に見ると、日本列島、沖縄、南西諸島、台湾ですっぽり蓋をされたような状態になっている。軍事的に、これを第1列島線という。中国が太平洋に出ようとする場合、ロシアの存在もあるので、津軽海峡や北方領土の付近からは軍艦を進めることができない。沖縄本島と宮古島の間から出るしかない。そこに中国にとっての尖閣諸島、南西諸島、そして沖縄の軍事的な重要性がある。逆に、日本や米国にとっては、中国が太平洋に覇権を拡大するのを防ぐためにも、尖閣諸島、南西諸島、沖縄は、重要な地域である。
 中国は、第1列島線の内側でアクセス(接近)拒否の能力を確保しようとしてきた。さらに第1列島線を越えて第2列島線との間における、エリア(領域)拒否の能力を広げようとしている。尖閣諸島周辺を含む日本近海での中国海軍の動きがそれを示している。平成22年(2010)8月米国防総省は、中国の軍事動向に関する年次報告書で、中国軍は沖縄から台湾を結ぶ第1列島線を越え、「小笠原諸島と米領グアムを結ぶ第2列島線を越えた海域まで、作戦行動を拡大する恐れがある」と予測している。
 志方氏は、先の引用で急膨張する中国海軍の活動が第1列島線から「溢れ出した」と言う。氏によると、中国の軍事力増強は国内総生産(GDP)の伸びの約3倍のペースで進んでおり、特に海軍力の増強は著しい。後発の海軍力は、非対称性を持つ潜水艦戦力の増強から着手する。サイバー戦による新しい軍事技術の入手も可能であり、「追う側」に有利である。「中国海軍が、小笠原諸島→グアム・サイパン→パプアニューギニアという第2列島線に出てくるのは、予想よりも早いと考えなければならない」と志方氏は予測する。
 こうした状況において、わが国は、安全保障のために何を為すべきか。志方氏は、言う。「わが国は『防衛計画の大綱』を大幅に見直し、時代を先取りした防衛態勢を築く必要がある。なすべきことは多い。喫緊の課題は南西諸島の島嶼防衛力の強化だ。情報収集衛星の強化、海上保安庁の強化、潜水艦戦力の増強、サイバー戦能力の強化、陸上自衛隊への海兵隊能力付与なども計画より前倒ししなければならない。政府レベルでは、日本版NSC(国家安全保障会議)を設け、潜水艦の領海侵入時に『海上警備行動』を素早く発令できる態勢を整え、官邸の指揮チームの訓練を重ねておくことなどである」と。
 急がねばならない。油断や怠慢、優柔不断は、日本の運命を自ら危うくする。拙稿「『フランス敗れたり』に学ぶ~中国から日本を守るために」に書いたように、ナチスに蹂躙されたフランスの失敗を繰り返してはならない。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08l.htm
 以下は、志方氏の記事。

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●産経新聞 平成25年6月4日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130604/chn13060403520000-n1.htm
【正論】
帝京大学教授・志方俊之 中国軍の第2列島線進出が迫る
2013.6.4 03:52

 5月は立て続けに3度、中国潜水艦が南西諸島のわが国の接続水域を潜航したまま通過する「看過できない事案」が発生した。尖閣諸島周辺では、中国公船によるわが国の領海の侵犯は常態化し、尖閣近海では中国海軍艦艇が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制レーダーを照射して、中国が警察活動だけでなく軍事的活動にまで踏み切りそうな様相も呈している。

潜水艦出現は海軍膨張示す
 潜水艦の接続水域潜航通過の頻発は、尖閣をめぐる対峙(たいじ)に直接関係するというより、急膨張する中国海軍の活動が、沖縄から台湾、フィリピンを経てボルネオに至る中国の対米防衛ラインの第1列島線から溢(あふ)れ出したという、純軍事的側面から捉えられよう。
 中国艦艇が南西諸島付近の第1列島線を通過し太平洋に出る水道としては、大隅海峡、奄美大島北側、沖縄本島・宮古島間、与那国島・台湾間の4本がある。
 潜水艦の行動は、軍事上の機密保持のため、探知した側が全てを公表するわけではない。中国潜水艦については、浮上通過を含めて過去4回報道されている。
 明級潜水艦の大隅海峡浮上通過(2003年11月)、漢級潜水艦による石垣島・多良間島間の領海侵犯(04年11月)、キロ級潜水艦2隻が洋上艦艇とともに沖縄本島・宮古島間の公海を浮上通過した事案(10年4月)、そして今回の元級潜水艦の4回である。
 潜水艦が他国領海を通過する場合は、国連海洋法条約第20条に基づき、旗を掲げ浮上して航行しなければならない。接続水域は公海に属し、95条で他国の管轄権から免除されるから、今回の接続水域通過は条約違反ではない。
 だが、領海に接していて約22キロの近さに迫る水域を、潜没通過させた背景に何があるのか。
 中国国防省は、中国艦艇が有する公海での自由航行の権利を問題視することで、日本側は中国の軍事的脅威を煽(あお)って緊張状態を作り出していると批判する。海自の潜水艦が逆に、中国沿岸の島嶼(とうしょ)の接続水域を潜航通過したら中国政府はどう論評するだろうか。

軍事的必要性から潜航を命令
 中国政府が習近平国家主席の初訪米を前に、人民解放軍に、日本の接続水域での潜水艦潜航通過を直接「命じた」、あるいは「認めた」とは考え難い。軍が単に軍事的必要性から、潜水艦隊に命じたとみるのが妥当であろう。
 日米韓3カ国が九州西方の東シナ海で、米原子力空母ニミッツも展開した合同演習を監視し情報を収集するという軍事目的のため、さらに探知されるのを承知の上で存在感を示し日本の出方を探るための意図的な行動だろう。
 中国軍は当然、米軍の潜水艦探知能力も知りたいと考えている。沖縄周辺海域で訓練中の米空母キティホークを監視していた宋級潜水艦が、米軍により浮上を余儀なくされたと思われる事案(06年10月)もそうした事例だ。
 米国は冷戦期、ソ連潜水艦の動きを探知すべく、アリューシャン列島に沿って音響式監視システム(SOSUS)を設置していた。今も南西諸島沿いに進化したシステムを展開していると考えられ、中国も東シナ海で同様のシステムを使っているとみていい。
 海自の潜水艦探知能力は、冷戦時代に身に付け、国際的にもかなり高度なものである。探知装置だけでなく、P3C対潜哨戒機から音響探知機(ソナー)を落とし、潜水艦から反射されてくる音波を収録して、潜水艦の航跡と同時に各艦固有の「音紋」を解析できるシステムを構築している。

防衛計画大綱の大幅見直しを
 データを長期間、蓄積すれば、潜水艦を特定できるだけでなく、艦長個人特有の操艦癖まで予測できる。これらは全国4カ所に設けられた「対潜水艦作戦センター」(ASWOC)で運用される。4基体制で運用されるわが国の情報収集衛星は、周辺国の潜水艦基地の状況を常に監視している。冷戦時代の遺産といっていい。
 中国の軍事力増強は国内総生産(GDP)の伸びの約3倍のペースで進む。その軍事力、特に海軍力の増強は著しい。後発の海軍力は、非対称性を持つ潜水艦戦力の増強から着手するものだ。サイバー戦による新しい軍事技術の入手も可能だから、「追う側」に有利な時代が続く。中国海軍が、小笠原諸島→グアム・サイパン→パプアニューギニアという第2列島線に出てくるのは、予想よりも早いと考えなければならない。
 わが国は「防衛計画の大綱」を大幅に見直し、時代を先取りした防衛態勢を築く必要がある。なすべきことは多い。喫緊の課題は南西諸島の島嶼防衛力の強化だ。情報収集衛星の強化、海上保安庁の強化、潜水艦戦力の増強、サイバー戦能力の強化、陸上自衛隊への海兵隊能力付与なども計画より前倒ししなければならない。
 政府レベルでは、日本版NSC(国家安全保障会議)を設け、潜水艦の領海侵入時に「海上警備行動」を素早く発令できる態勢を整え、官邸の指揮チームの訓練を重ねておくことなどである。(しかた としゆき)
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関連掲示
・拙稿「尖閣の守りに自衛隊を~志方俊之氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/05258baa4eeb4ff6764f2276e6e1caba
・拙稿「尖閣:警官2人、銃2丁で国境守れるか~志方俊之氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/128bdd5d8c32a4265ab05d433c139bfe

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