ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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現代世界史36~中国と発展途上国の人権状況

2014-09-08 09:24:52 | 現代世界史
●中国と発展途上国の人権状況

 今日、世界の独立国は、約190カ国を数えるにいたっている。その大多数は、植民地から独立した有色人種の発展途上国である。その多くでは、白人種によって剥奪されていた統治権の回復はされたものの、人民の自由と権利はいまだよく発達していない。アジア、アフリカ、ラテンアメリカ等の多くの地域に、貧困、不衛生、飢餓、内戦、虐待、環境破壊等の問題が存在する。これらの問題の解決には、まず国家の集団としての権利が確保・拡大され、そのうえで個人の自由と権利が保障されるようになければならない。
 発展途上国における国家権力の強化は、しばしば独裁や腐敗を生み、またそれが固定化される。経済発展と国民形成はうまくいかず、混迷と混乱が続く。先進国側は人権の擁護のための関与の正当性を主張し、途上国側は人民の自決権を援用し、関与を内政干渉として非難する。
有色人種の国家の多くは、欧米・日本等の近代化の先進国より、人権状況が良くない。最初に、共産中国をその例として挙げねばならない。共産中国は、国連安保理の常任理事国だが、国民の権利を強く規制しており、特に少数民族に対しては激しい弾圧を行っている。中国は1950年(昭和25年)にチベット侵攻を開始し、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺以後最大のジェノサイド(民族大虐殺)を行ってきている。
 2008年(平成20年)4月、国連人権理事会で、欧米はチベットの人権問題を取り上げようとした。ところが、中国は内政干渉だと反発し、これにキューバ等の独裁国家が加勢し、議題として取り上げられることもなく、同理事会は会期を終えた。中国は、チベットだけでなく、新疆ウイグルでも、弾圧・虐殺を行い、人権問題が生じている。チベット人は仏教徒がだが、ウイグル人はイスラム教徒であり、唯物論的な共産主義による宗教への迫害ともなっている。中国では、共産党により、民主化運動家への弾圧、インターネットへの監視・規制、法輪功への弾圧、生体からの臓器取り出し等が行われている。2010年(平成22年)、民主化運動家・劉暁波にノーベル平和賞が贈られると、中国政府は激しく抗議し、劉を事実上の軟禁状態に置いている。国際的に中国の人権弾圧への非難が高まっているが、現在も人権の擁護・普及の世界的な中心であるはずの国連で、中国の人権問題は、議論らしい議論が行なわれない。
 世界の現状を物語る別の例として、北朝鮮への対応がある。北朝鮮では、金日成・金正日政権のもと、多くの日本人を含む外国人の拉致が行われた。国内では、農業政策の失敗のため、300万人が餓死したといわれている。2003年(平成15年)4月、国連人権委員会は、北朝鮮が多くの国民を強制収容所に送り込み、拷問をし、幼児を餓死させるなど、人権を蹂躙していると非難して、「組織的かつ広範囲で重大な人権違反を犯している」という決議をした。この決議は日本人拉致問題の全面的解決を要求した。とはいえ、この委員会には、国内で人権を蹂躙している多くの諸国が名を連ねていた。議長国が、カダフィを元首とする専制国家当時のリビアだったことは、皮肉なことだった。他の構成員にも人権問題を抱える途上国が多くあった。この委員会は、北朝鮮による人権侵害を糾弾する決議を採択したものの、中国におけるチベットでの弾圧、ロシアによるチェチェンの陵辱には目をつぶった。中国やロシアの人権問題について国連で議論らしい議論がされないのは、これらの国が安保理常任理事国だからである。こういう現状ゆえ、国連は「人権のとりで」としての存在意義が問われている。国連憲章、世界人権宣言、国際人権規約の思想と、国連の実態は乖離している。
 各地の発展途上国に目を向けると、バルカン半島のボスニアにおけるムスリムへの虐殺・虐待・強姦等は、民族浄化といわれるほど、苛烈なものである。アフリカ北東部の南スーダンのダルフール地方における紛争は、多くの難民を生み出している。その他、イラク、エチオピアのソマリ州、コンゴのギブ地方、ジンバブエ、ソマリア、パキスタンの北西部、シリア等、近年その国の国民の権利が著しく侵害されている国は、少なくない。問題の原因には、宗教的対立、少数民族の独立運動、相対的強国による併合、為政者の独裁・専横、資源確保を図る先進国の関与等がある。専制国家、独裁国家においては、特権的な支配集団を除く多数の国民が権利を制限され、多民族国家・多宗教国家においては、少数民族や少数集団が権利を制限されている例が多い。
 人権問題の対処としては、国連がその国の政権に対して非難決議をしたり、国際社会が経済的等の手段によって制裁を加えたりして、政治体制の変化を促すことがある。また安保理の決議によって、国連平和維持活動(PKO)の組織や国連平和維持軍(PKF)が活動し、治安と秩序の回復を図る。だが、安保理は、常任理事国の意見が一致しなければ、国連としての組織的な行動は取らない。その場合、特定の国家やそれに連携する国家群のみで行動を起こすことがある。その戦争が侵攻戦争なのか人道支援なのか、今のところ客観的な基準は存在しない。立場・利害が異なると、軍事行動に対する評価は大きく異なる。軍事行動の目的も、主は人権の擁護より、石油・天然ガス等の資源の確保にあることが多い。
 もう一点、今日の世界の人権状況を示すものとして、難民の問題を挙げたい。難民については、個別的人権条約の一つとして、1951年(昭和26年)に難民条約が締約された。難民条約は、第1条A(2)にて難民を定義している。難民の要件は、迫害の恐怖、国籍国の外にあること、国籍国の保護の喪失の3つとされた。こうした難民を狭義の難民または条約難民という。迫害を受ける理由は、人種、宗教、国籍、特定の社会集団または政治的意見の5つとされる。それゆえ、戦争や内乱、自然災害によって国を追われる人々は、難民ではない。また、国籍国の外にあることが要件ゆえ、国内にとどまっている者も同様である。国籍国の外にあっても、国籍国の保護を受けている者も同様である。
 難民条約が定める狭義の難民に対し、外国軍隊の侵攻や内戦、食糧危機等により生じた国内避難民、人道上の難民等を、広義の難民という。国内避難民とは、武力紛争や内乱、自然災害、大規模な人権侵害等によって、難民と同じく移動を強いられているが、国境を越えていないので難民とは分類されない人々である。国内避難民は、国籍国の保護を期待できないという点に関しては、難民と共通した境遇にある。
 わが国の外務省によると、2009年(平成21年)末の時点で、世界における難民及び国内避難民は、4,300万人を超えるといわれる。日本の人口の3分の1である。それだけの人々にとって、母なる地球は安住の地となっていないのである。
 国連は、世界の人権状況を改善する中心的な国際機関だが、そこに自らの思想を浸透させて利用しようとする勢力が存在する。そうした勢力が関わっているものの一例が、戦前の日本軍の慰安婦問題である。1996年(平成8年)に国連人権委員会(現人権理事会)に出されたクマラスワミ報告書は、慰安婦を「性奴隷」と定義し、その人数を「20万人」と記述した。この報告書は、虚偽の証言であることが明白な吉田清治の著作を基にしたものだった。慰安婦を強制連行したという吉田の作り話を32年間にわたって事実として報道してきた朝日新聞は、2014年(平成26年)8月、吉田証言に関する記事の取り消しを行うことを発表した。だが、その発表を受けたクマラスワミ女史は、報告書の修正は行わないと述べている。事実の調査・報告よりも、思想の浸透が目的となっているからだろう。
 慰安婦問題以外にも、さまざまな国連機関が、日本の責任を追及する報告書や勧告を相次いで出してきた。この背景には国連を利用し、自らの主張を通そうとする左派・リベラル系団体の活発な動きがある。彼らは、NGO(非政府団体)という公認の団体を通じて、国連諸機関に働きかけて、自国の政府への批判や他国の政府への攻撃を行い、党派的・民族的な利益を実現しようとしている。市民運動の名目で、国際的な左翼や反日勢力が活動している。人権は一見普遍的な価値であり、国連機関は一見政治的に中立な機関であるので、国連機関から人権問題として指摘されると、抗弁がしにくい。それゆえに、国際的な左翼や反日勢力の巧妙な活動には十分な注意が必要である。

 次回に続く。

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