ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

米欧はロシアのウクライナ侵攻を抑止できるか

2021-12-10 11:20:46 | 国際関係
 ウクライナ情勢について、11月28日に「プーチンはウクライナに侵攻するか」を書いた。
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/a846a7cf3ad71929af91f724de6fa9a6
 その後の展開について書く。
 アントニー・ブリンケン米国務長官は、12月1日ロシアがウクライナに対して重大な攻撃的行動を計画しているという証拠に深い懸念を抱いているとした上で、万が一侵攻した場合には「影響の大きい」経済制裁を科すと表明した。
 長官は、米国はあらゆる事態に備える必要があると述べるとともに、北大西洋条約機構(NATO)の同盟内にはロシアがウクライナに侵攻した場合に強力な措置を講じるという「非常に大きな連帯感」があり、「ロシアが外交を拒否してウクライナに侵攻した場合、われわれは行動を起こす準備ができている」とも語った。
 また同長官は、ロシアの計画には大規模な軍事行動だけでなく、ウクライナを内部から不安定化する工作も含まれているとの見方を示した。ウクライナのクリミア半島に隣接する地域をドンバス地方という。この地方はドネツク州とルハンスク州の一部があり、ともにロシア系の住民が半数以上を占める。親ロシアの分離独立派が独立運動を起こし、人民共和国を称してウクライナと内戦状態にある。このことに関係する発言と見られる。ゼレンスキー大統領が12月1日にクーデターを行う計画があると言った件は、未遂に終わったのか、ガセネタだったのか、ブリンケン長官は直接触れていない。
 NATOでは、11月30日に外相理事会を開き、ウクライナ問題を協議した。ストルテンベルグ事務総長は、「ウクライナを侵略すれば代償は大きい。ロシアにとって政治的、経済的に深刻な結果を招く」と警告し、パートナー国のウクライナへの政治的・実践的支援を維持していく方針を明確にした。とはいえ、NATO軍が直接動く同盟関係にはない。NATOは、ある加盟国への攻撃を加盟国全体への攻撃とみなして全加盟国で反撃する集団安全保障体制の軍事同盟である。加盟国ではないウクライナに対して、アメリカを含むNATO加盟国には条約上の義務はない。
 12月4日、米紙ワシントン・ポストは、米情報機関が作成した報告書の内容などとして、ロシアが来年早々にも大規模なウクライナ侵攻を計画していると報じた。ロシア軍は ウクライナ国境地帯の4カ所に集結しており、新たに戦車などが配備されたとのことである。米当局者は「ロシアは早ければ2022年初めのウクライナへの軍事攻撃を計画している」「計画には推計17万5000人の兵士から成る大隊100隊による広域行動が含まれる」と見ていると時事通信の記事が伝えた。
 ロシア部隊は、ウクライナ東部の国境付近だけではなく、北部から背後のモルドバにも配備され、南部のセバストポルには海軍艦隊が展開しており、戦車部隊、奇襲部隊などもそれぞれが配置に就いていると伝えられる。ロシアはウクライナ侵攻で多正面作戦を計画していると見られる。多くの方面から圧力をかけて、ウクライナ軍を各所に張り付けて置いて、ドンバス地方を制圧するつもりか。さらに東部の独立だけでなく首都キエフまで制圧する構えとも見られる。NATOに加盟しないような親露傀儡政権を樹立するつもりか。
 バイデン米大統領とプーチン露大統領が、12月7日オンライン形式で会談した。言葉ばかりは勇ましいが弱腰のバイデンが獰猛狡猾なプーチンを抑えられるか注目された。
 ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官によると、ロシアがウクライナに侵攻した場合、バイデンは米政府として、①欧州諸国とともに強力な経済制裁を発動、②ウクライナに兵器などを追加供与、③NATO加盟国のうち(ロシア国境に近い)東部方面の国々の防衛態勢を強化――といった措置を講じて対抗するとプーチンに伝えたとのことである。
 これに対し、露大統領府の発表によると、プーチンは、「NATOがウクライナ領の征服に向けた危険な試みを行っており、我々の国境付近で軍事的な潜在能力を高めている」などと主張。「NATOの東方不拡大に加え、ロシア周辺に攻撃的兵器を配備しないことについて、信頼に足る法的拘束力のある保証が必要だ」と強調したとのことである。
 議論は平行線をたどったが、今後は両国の専門チームが引き続き協議することで合意したと報じられている。
 会談後、バイデンは、記者から今後の軍事行動の可能性について質問を受けると、アメリカの道義的・法的義務は、30カ国で構成されるNATOに加盟していないウクライナには及ばないとし、「アメリカが一方的に武力行使をして、ロシアがウクライナを侵略するのに立ち向かうという考えは、現時点ではない」と述べた。
 方策の中心となる経済制裁について、米国はどのような手段を検討しているのか詳細を明らかにしていない。サリヴァン補佐官は、ロシアとドイツを結ぶ新たな天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」について、アメリカとその同盟国にとって、目標達成のためにとても有用だとした。同パイプラインは、これまで天然ガスの経由地として利益を得ていたウクライナなどを迂回するものだが、まだ運用は始まっていない。その他に、ロシアの銀行がルーブルを外貨へ両替することの制限や、国際銀行間通信協会(SWIFT)のグローバル金融システムからロシアを切り離す措置などが検討されているとBBCは報じている。
 ただ、経済制裁は相当厳しい内容を科したとしても、イランや北朝鮮の例がそうであるように、政策の転換や政権の交代を引き起こすのは簡単ではない。
 仮にプーチンがクリミアに続いてウクライナへの軍事行動を起こした場合、米軍もNATO軍は動かず、やすやすと実行支配に成功する可能性が高く、その後に経済制裁を加えても、簡単に音を上げて原状復帰するとは考えにくい。
 ウクライナは極めて危険な状態にある。その危険は自国の置かれた安全保障環境の厳しさを忘れて、安易に軍縮を進めた空想的平和主義が招いたものである。日本はウクライナの失敗に学んで、自国防衛を怠ってはならない。
 
 以下、随時掲載。

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