ほそかわ・かずひこの BLOG

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アベノミクスは中国対峙の原点に戻れ~田村秀男氏

2014-10-09 08:52:30 | 経済
 デフレ脱却がまだ十分進んでいない中での消費増税は、景気に悪影響を与えている。4~6月の実質GDPは、年率換算で前期比ー6.8%となった。1か月半ほど前になるが、産経新聞編集委員の田村秀男氏は、8月24日の記事で、日本は中国に対してオウンゴールを演じており、アベノミクスは中国と対峙する原点に戻れ、と主張している。
 田村氏は「本来、安倍晋三首相はアベノミクスによって『強い日本』を取り戻し、膨張する中国と対峙する戦略を原点に据えていたはずだ」という。ところが、「4~6月期の国内総生産(GDP)第1次速報値が示すように、消費税率引き上げ後、GDPの6割を占める家計消費は戦後最大級の落ち込みだった。日中のGDPを比較すると、「『萎縮する日本、膨張する中国』というトレンドは、アベノミクス開始後むしろ強くなっている」。世界銀行の統計によると、2013年の日本は4.9兆ドル、前年比で17%減だが、対する中国は9.2兆ドル、同12%増と、日本との差をさらに広げた。「今年は前半のGDP速報値から推計すると、日本が前年比0.2%減、中国9%増である」と田村氏は指摘する。
 「このまま、アベノミクスが綻んでくると、日本国民の将来が危うくなるばかりではない。アジア全域が人民元の海になってしまう」と田村氏は警告を発する。2013年、中国の対外貿易での人民元による決済額は、初めて日本の円による決済額を上回った。「今年は人民元決済に加速がかかり、年前半の実績値から推計すると、円建て決済の倍近くに膨れあがる勢いだ」「東アジア圏で円は人民元によって駆逐されつつある」と日中の現状を比較する。
 中国は米国のドル支配に挑戦し、米中通貨戦争が繰り広げられている。その一環として、中国は「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」を主導して、アジア各国のインフラ建設を支援しようとしている。また、BRICSの共同出資による発展途上国向けの新開発銀行を通じて、人民元建てによる投融資を一挙に拡大しようとしている。
 それゆえ、田村氏はいう。「時間はほとんどない。安倍政権は来年10月からの消費税再増税など自滅策導入を論じている場合か。原点に立ち返って練り直すべきだ」と。
 私は、田村氏がさらなる消費増税に反対し、アベノミクスの構想を練り直すことには同感だが、アベノミクスは「膨張する中国と対峙する戦略」を原点に据えていたという見方については、異論がある。アベノミクスの目的は、あくまでわが国がデフレを脱却し、再び経済成長路線を進むことである。従来の誤った財政金融政策を廃棄し、「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」の「三本の矢」を実行して、わが国の潜在的な成長力を発揮することを目指すものである。この政策の実行によって、GDPが増加すれば、結果として中国の覇権主義への経済面での対策ともなるということだろう。
 田村氏は本年2月23日の記事で、アベノミクスの三本の矢を統合する「大胆なデザイン」が必要だとし、次のように提言した。「日銀が創出する資金のうち100兆円を国土強靱化のための基金とし、インフラ整備に投入すればよい。強靱化目的の建設国債を発行し、民間金融機関経由で日銀が買い上げれば、いわゆる『日銀による赤字国債引き受け』にならずに、財源はただちに確保できる」と。
 わが国の経済は、このままでは下手をすると、物価は上昇するが需要は減少するスタグフレーションに陥りかねない。消費増税という失策の結果を踏まえて、アベノミクスの構想練り直しは、中国対策として練り直すのではなく、あくまでわが国の経済政策として練り直せばよいのである。
 以下は、記事の全文。

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●産経新聞 平成26年8月24日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140824/fnc14082409340002-n1.htm
【日曜経済講座】
オウンゴールのアベノミクス 膨張中国に対峙する原点に戻れ
2014.8.24 09:34

 4~6月期の国内総生産(GDP)第1次速報値が示すように、消費税率引き上げ後、GDPの6割を占める家計消費は戦後最大級の落ち込みだった。景気はこのままL字形で停滞局面に入る恐れは十分ある。
 気になるのは外部の目である。英フィナンシャル・タイムズは8月14日付社説で「アベノミクスに試練」と取り上げた。アベノミクスが頓挫することは、「20年デフレ」が「30年デフレ」となるばかりではない。国際社会で日本は中国に対する負け犬として扱われてしまう。
 中国は不動産バブルの崩壊や共産党内の権力闘争激化で自滅するとか、南シナ海などでの露骨な覇権主義で中国はアジア、さらに世界的に孤立しつつあるという見方もあるが、希望的観測に過ぎやしないか。その前に、日本は肝心の経済で「オウンゴール」を演じてしまっている。
 国家の経済力の国際評価基準であるドル建てで日中のGDP(名目)を比較してみればよい。「萎縮する日本、膨張する中国」というトレンドは、アベノミクス開始後むしろ強くなっている。
 世界銀行統計によると、2013年の日本は4.9兆ドル、前年比で17%減、対する中国は9.2兆ドル、同12%増と、日本との差をさらに広げている。今年は前半のGDP速報値から推計すると、日本が前年比0.2%減、中国9%増である。
「バブル崩壊」は発達した金融市場を持つ国で起きる。不動産価格が急落を続ける結果、金融機関の不良債権が膨れ上がって信用不安が起り、金融の流れが急激に萎縮して国内経済が大不況に陥る。中国の場合、共産党の支配下にある中国人民銀行が4兆ドルもの外貨資産を担保に人民元資金を発行し、金融機関に資金を流す。あるいは、緊急事態には党指令で、問題金融機関にドルを資本注入できる。日本のバブル崩壊期の「飛ばし」が国家的規模で行われる可能性が高いし、これまででも、飛ばされた巨額の不良債権は経済膨張のプロセスの中で、もみ消されてきた。
 習近平党総書記・国家主席による「ハエもトラもたたきつぶす」という党官僚・幹部の汚職摘発は権力闘争に違いないが、習氏は非共産党員の新中間層の支持を得て政治基盤を強化しているのが実情だ。
 中国の対外貿易総額はアジア向けを中心に膨らみ続け、13年は日本の2・7倍にも達した。



 グラフを見よう。13年、中国の対外貿易での人民元による決済額は日本のそれの円による決済額を初めて上回った。人民元は7080億ドルで前年比57%増、円は16%減である。今年は人民元決済に加速がかかり、年前半の実績値から推計すると、円建て決済の倍近くに膨れあがる勢いだ。日中とも自国通貨建て貿易は東アジアが主であり、東アジア圏で円は人民元によって駆逐されつつある。
自国通貨で何でも買えるのは覇権国の特権である。米国はドルさえ発行すれば石油を存分に買える。中国はその米国を強く意識して人民元の国際化を進めている。人民元によるビジネス取引を増やしている国や地域は、人民元を手元に持たなければ払えず、中国との貿易にますますのめり込むようになるので、政治的立場に影響する。中国の海洋進出を東南アジア諸国連合(ASEAN)各国が警戒しても、その足元では経済の対中依存が高まっており、結束して毅然(きぜん)として中国に対峙(たいじ)できるとはかぎらない。
 習氏は米国に対抗して積極的な通貨攻勢をかけている。一つは、日米主導のアジア開発銀行に対抗する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」で、中国主導でアジア各国のインフラ建設を支援するという。もう一つは、BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)共同出資による発展途上国向けの新開発銀行で、本部を上海に置く。新興国・途上国の外貨準備合計の約5割のシェアを持つ中国はそれを見せ金にして、人民元建てによる投融資を一挙に拡大して、ドルに挑戦する構えだ、と聞く。
 本来、安倍晋三首相はアベノミクスによって「強い日本」を取り戻し、膨張する中国と対峙する戦略を原点に据えていたはずだ。このまま、アベノミクスが綻(ほころ)んでくると、日本国民の将来が危うくなるばかりではない。アジア全域が人民元の海になってしまう。時間はほとんどない。安倍政権は来年10月からの消費税再増税など自滅策導入を論じている場合か。原点に立ち返って練り直すべきだ。
(編集委員・田村秀男)
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関連掲示
・拙稿「アベノミクスが再び力強さを発揮するには~田村秀男氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/406ef1ccec34b9815767e04b19409c8c