産経新聞編集委員の田村秀男氏は、昨年25年8月25日の産経の記事で、「安倍晋三首相が消費税率の引き上げについて問うべき相手は、外部ではなく政府内部にいる。虚報を流し続ける官僚たちである」と指摘した。デマとは、「消費税率10%でも財政再建できない」「増税で税収が増え、デフレにならない」「増税しないと国債が暴落する」という3点に尽きるとし、内閣府による「中長期の経済財政に関する試算」を挙げて、これら3点のデマである理由を述べた。詳しくは、下記の拙稿をご参照願いたい。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/84cbfbaf56504e1173764dd7426539dc
私は、上記拙稿で「安倍首相は、官僚の詐術や周辺の政治家の意見に惑わされずに、デフレ脱却を最優先とし、消費税増税の是非を判断し、実施する場合は時期と方法を、ぎりぎりまで熟考してほしいものである」と書いたが、結局安倍首相は消費税を5%から8%に上げることを決め、本年4月に増税が実施された。
デフレ脱却がまだ十分進んでいない中での消費増税は、景気への悪影響が懸念された。4~6月の実質GDPは、年率換算で前期比ー6.8%となった。増税前の駆け込み需要の反動、円安による輸出の減少等によって、4~5%程度の減は予想されていたが、落ち込みは予想を上回った。平成9年に消費税を増税したときよりマイナス幅は大きい。また東日本大震災東日本大震災以来の下げ幅である。
田村氏は、本年8月3日の記事で、政府を誤導している内閣府を厳しく批判している。
「内閣府はアベノミクスによる景気の好転を無視し、平成25年度の税収が前年度より減るという数値を試算の起点とし、『財政収支悪化』シナリオを描いた。財務省の影響下にある官庁エコノミスト集団である内閣府は今年4月からの消費税増税をそうして正当化した。実際の税収は、景気浮揚に伴って大幅に増えると論じた拙論の見立て通りになったのだが、官僚たちは誤りを認めないどころか、さらに同じ間違いを平然と繰り返し、政策と世論をミスリードし、国家と国民を窮地に追い込む。
内閣府は7月25日に発表した今年度版の同試算でも税収を極端なまでに低く見積もった。政府が『国際公約』した32年度のプライマリーバランスは国・地方合わせて11兆円の赤字になるとし、メディアに対して来年10月からの消費税率10%への予定通りの再引き上げはもとより、さらなる増税が不可欠と報じるよう教唆している」と。
田村氏は、内閣府が公表している「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」をもとにグラフを作成し、低成長が続く「参考ケース」の場合でも、着実に税収は増え35年度には黒字化することを明らかにしている。ところが、「内閣府は自ら算出した合理的で現実的な弾性値をわざわざ放棄」し、「財務省の意に沿う予測値」をまとめ上げ、「基礎的財政収支は赤字が続き、消費税率を10%からさらに引き上げるべきだという増税シナリオ」を作成して、安倍首相を議長とする経済財政諮問会議に了承させようとしている、と田村氏は指摘する。
財務省は自らの権限を維持するために、増税政策を推し進めてきた。内閣府は、これに協力して、国の針路を誤らしめようとしている。
田村氏は「増税では経済も財政も再建できないことを安倍内閣は再認識し、狂った羅針盤の廃棄を命じるべきだ」と主張している。
この内閣府の「狂った羅針盤」については、世界的エコノミストの宍戸駿太郎氏が、正確な情報を政府に提供できるシミュレーション・モデルに付け替えることを提案している。下記の拙稿で紹介しているので、ご参照願いたい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13u.htm
国政に与る政治家は、内閣府のシミュレーションや財務省の増税不可欠論に惑わされてはいけない。政府と日銀が一体となって、経済成長路線を進むならば、増税せずとも税収が増え、財政の健全化や社会保障の充実ができることに気付くべきである。
以下は、田村氏の記事。
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●産経新聞 平成26年8月3日
http://www.sankei.com/economy/news/140803/ecn1408030003-n1.html
【日曜経済講座】
狂った税収羅針盤を廃棄せよ 内閣府試算の恐るべき欺瞞
2014.8.3 15:00
ほぼ1年前、拙論は本欄で内閣府が発表した「中長期の経済財政に関する試算」が世を欺く「虚報」だと断じた。安倍晋三首相のお膝元の内閣府はアベノミクスによる景気の好転を無視し、平成25年度の税収が前年度より減るという数値を試算の起点とし、「財政収支悪化」シナリオを描いた。財務省の影響下にある官庁エコノミスト集団である内閣府は今年4月からの消費税増税をそうして正当化した。実際の税収は、景気浮揚に伴って大幅に増えると論じた拙論の見立て通りになったのだが、官僚たちは誤りを認めないどころか、さらに同じ間違いを平然と繰り返し、政策と世論をミスリードし、国家と国民を窮地に追い込む。
内閣府は7月25日に発表した今年度版の同試算でも税収を極端なまでに低く見積もった。政府が「国際公約」した32年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支=公債など借金関連を除いた財政収支)は国・地方合わせて11兆円(国の一般会計分は9・5兆円)の赤字になるとし、メディアに対して来年10月からの消費税率10%への予定通りの再引き上げはもとより、さらなる増税が不可欠と報じるよう教唆している。
内閣府も経済企画庁時代には見識と気骨のある官庁エコノミストが少なからずいた。そのOBで長老格の宍戸駿太郎筑波大学名誉教授は、内閣府および財務省が「狂った羅針盤を操作している」と嘆く。「羅針盤」とは財政出動によってどれだけ経済が成長するかという「乗数効果」や、経済成長によってどれだけ税収が増えるかという「弾性値」を指す。
「弾性値」とは、ゴム鞠(まり)を考えればよい。小さな力でも鞠は高く弾む。景気がよければ給与は上がるから消費など需要が伸びて、企業の売り上げや収益が増え、経済活動全般に好循環が生まれる。その結果として、所得税、法人税、それに消費税など税収の伸び率が経済成長率をかなり上回る。内閣府は真実を実は知っている。そのホームページを辛抱強く検索してみると、「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」(23年10月)が見つかる。綿密な調査分析をもとに岩田一政日本経済研究センター理事長が座長となってとりまとめ、25~33年の税収弾性値を4・04と算出した。経済成長率の4倍以上の速度で税収が増えるのだ。にもかかわらず、財務省は弾性値を1~1・1とみなし、内閣府にはこの数値を採用させている。最近のプラス経済成長時の弾性値実績は3~5の範囲にあり、岩田報告書の線に沿うにもかかわらず、である。
グラフは、「中長期の経済財政に関する試算」(7月25日付)で内閣府が予測した名目国内総生産(GDP)の伸び率に弾性値3を掛け合わせた場合の一般会計税収動向を示している。同試算では26年度以降の名目経済成長率をおおむね3%以上とする「経済再生ケース」と2%弱とする「参考ケース」に分けており、それぞれについて弾性値3を適用してみた。すると、再生ケースでは一般会計の基礎的財政収支を黒字にできるのは30年度であり、政府目標年次より2年早くなる。低成長が続く「参考ケース」でも、着実に税収は増え35年度には黒字化する。実際の経済成長は曲折があるのが普通だが、経済の成長こそが財政再建の王道だという事実がはっきり見える。
対照的に、内閣府の税収予測は、消費税率10%を前提とし、増税による経済への影響がなくなると予想される29年度以降の弾性値をほぼ1としている。つまり経済成長率相当分しか税収は増えないというのである。基礎的財政収支は赤字が続き、消費税率を10%からさらに引き上げるべきだという増税シナリオを仕込んだ。
内閣府は自ら算出した合理的で現実的な弾性値をわざわざ放棄し、財務省の意に沿う予測値をまとめ上げ、安倍首相を議長とする経済財政諮問会議に了承させる。その先に見えるのは、今年末の安倍内閣による消費税率10%実施決断であり、その後の際限のない増税路線である。考えても見よ。9年度消費税増税の翌年度以降、全体の税収は増税前の水準を下回り続けている。物価下落を上回る速度で所得が縮小する慢性デフレに陥り、年金世代や次世代を養う現役世代を苦しめてきた。
アベノミクスは筆者の知る限り、本来は増税よりも成長を優先する経済思想のたまものだったはずである。増税では経済も財政も再建できないことを安倍内閣は再認識し、狂った羅針盤の廃棄を命じるべきだ。(編集委員・田村秀男)
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http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/84cbfbaf56504e1173764dd7426539dc
私は、上記拙稿で「安倍首相は、官僚の詐術や周辺の政治家の意見に惑わされずに、デフレ脱却を最優先とし、消費税増税の是非を判断し、実施する場合は時期と方法を、ぎりぎりまで熟考してほしいものである」と書いたが、結局安倍首相は消費税を5%から8%に上げることを決め、本年4月に増税が実施された。
デフレ脱却がまだ十分進んでいない中での消費増税は、景気への悪影響が懸念された。4~6月の実質GDPは、年率換算で前期比ー6.8%となった。増税前の駆け込み需要の反動、円安による輸出の減少等によって、4~5%程度の減は予想されていたが、落ち込みは予想を上回った。平成9年に消費税を増税したときよりマイナス幅は大きい。また東日本大震災東日本大震災以来の下げ幅である。
田村氏は、本年8月3日の記事で、政府を誤導している内閣府を厳しく批判している。
「内閣府はアベノミクスによる景気の好転を無視し、平成25年度の税収が前年度より減るという数値を試算の起点とし、『財政収支悪化』シナリオを描いた。財務省の影響下にある官庁エコノミスト集団である内閣府は今年4月からの消費税増税をそうして正当化した。実際の税収は、景気浮揚に伴って大幅に増えると論じた拙論の見立て通りになったのだが、官僚たちは誤りを認めないどころか、さらに同じ間違いを平然と繰り返し、政策と世論をミスリードし、国家と国民を窮地に追い込む。
内閣府は7月25日に発表した今年度版の同試算でも税収を極端なまでに低く見積もった。政府が『国際公約』した32年度のプライマリーバランスは国・地方合わせて11兆円の赤字になるとし、メディアに対して来年10月からの消費税率10%への予定通りの再引き上げはもとより、さらなる増税が不可欠と報じるよう教唆している」と。
田村氏は、内閣府が公表している「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」をもとにグラフを作成し、低成長が続く「参考ケース」の場合でも、着実に税収は増え35年度には黒字化することを明らかにしている。ところが、「内閣府は自ら算出した合理的で現実的な弾性値をわざわざ放棄」し、「財務省の意に沿う予測値」をまとめ上げ、「基礎的財政収支は赤字が続き、消費税率を10%からさらに引き上げるべきだという増税シナリオ」を作成して、安倍首相を議長とする経済財政諮問会議に了承させようとしている、と田村氏は指摘する。
財務省は自らの権限を維持するために、増税政策を推し進めてきた。内閣府は、これに協力して、国の針路を誤らしめようとしている。
田村氏は「増税では経済も財政も再建できないことを安倍内閣は再認識し、狂った羅針盤の廃棄を命じるべきだ」と主張している。
この内閣府の「狂った羅針盤」については、世界的エコノミストの宍戸駿太郎氏が、正確な情報を政府に提供できるシミュレーション・モデルに付け替えることを提案している。下記の拙稿で紹介しているので、ご参照願いたい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13u.htm
国政に与る政治家は、内閣府のシミュレーションや財務省の増税不可欠論に惑わされてはいけない。政府と日銀が一体となって、経済成長路線を進むならば、増税せずとも税収が増え、財政の健全化や社会保障の充実ができることに気付くべきである。
以下は、田村氏の記事。
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●産経新聞 平成26年8月3日
http://www.sankei.com/economy/news/140803/ecn1408030003-n1.html
【日曜経済講座】
狂った税収羅針盤を廃棄せよ 内閣府試算の恐るべき欺瞞
2014.8.3 15:00
ほぼ1年前、拙論は本欄で内閣府が発表した「中長期の経済財政に関する試算」が世を欺く「虚報」だと断じた。安倍晋三首相のお膝元の内閣府はアベノミクスによる景気の好転を無視し、平成25年度の税収が前年度より減るという数値を試算の起点とし、「財政収支悪化」シナリオを描いた。財務省の影響下にある官庁エコノミスト集団である内閣府は今年4月からの消費税増税をそうして正当化した。実際の税収は、景気浮揚に伴って大幅に増えると論じた拙論の見立て通りになったのだが、官僚たちは誤りを認めないどころか、さらに同じ間違いを平然と繰り返し、政策と世論をミスリードし、国家と国民を窮地に追い込む。
内閣府は7月25日に発表した今年度版の同試算でも税収を極端なまでに低く見積もった。政府が「国際公約」した32年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支=公債など借金関連を除いた財政収支)は国・地方合わせて11兆円(国の一般会計分は9・5兆円)の赤字になるとし、メディアに対して来年10月からの消費税率10%への予定通りの再引き上げはもとより、さらなる増税が不可欠と報じるよう教唆している。
内閣府も経済企画庁時代には見識と気骨のある官庁エコノミストが少なからずいた。そのOBで長老格の宍戸駿太郎筑波大学名誉教授は、内閣府および財務省が「狂った羅針盤を操作している」と嘆く。「羅針盤」とは財政出動によってどれだけ経済が成長するかという「乗数効果」や、経済成長によってどれだけ税収が増えるかという「弾性値」を指す。
「弾性値」とは、ゴム鞠(まり)を考えればよい。小さな力でも鞠は高く弾む。景気がよければ給与は上がるから消費など需要が伸びて、企業の売り上げや収益が増え、経済活動全般に好循環が生まれる。その結果として、所得税、法人税、それに消費税など税収の伸び率が経済成長率をかなり上回る。内閣府は真実を実は知っている。そのホームページを辛抱強く検索してみると、「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」(23年10月)が見つかる。綿密な調査分析をもとに岩田一政日本経済研究センター理事長が座長となってとりまとめ、25~33年の税収弾性値を4・04と算出した。経済成長率の4倍以上の速度で税収が増えるのだ。にもかかわらず、財務省は弾性値を1~1・1とみなし、内閣府にはこの数値を採用させている。最近のプラス経済成長時の弾性値実績は3~5の範囲にあり、岩田報告書の線に沿うにもかかわらず、である。
グラフは、「中長期の経済財政に関する試算」(7月25日付)で内閣府が予測した名目国内総生産(GDP)の伸び率に弾性値3を掛け合わせた場合の一般会計税収動向を示している。同試算では26年度以降の名目経済成長率をおおむね3%以上とする「経済再生ケース」と2%弱とする「参考ケース」に分けており、それぞれについて弾性値3を適用してみた。すると、再生ケースでは一般会計の基礎的財政収支を黒字にできるのは30年度であり、政府目標年次より2年早くなる。低成長が続く「参考ケース」でも、着実に税収は増え35年度には黒字化する。実際の経済成長は曲折があるのが普通だが、経済の成長こそが財政再建の王道だという事実がはっきり見える。
対照的に、内閣府の税収予測は、消費税率10%を前提とし、増税による経済への影響がなくなると予想される29年度以降の弾性値をほぼ1としている。つまり経済成長率相当分しか税収は増えないというのである。基礎的財政収支は赤字が続き、消費税率を10%からさらに引き上げるべきだという増税シナリオを仕込んだ。
内閣府は自ら算出した合理的で現実的な弾性値をわざわざ放棄し、財務省の意に沿う予測値をまとめ上げ、安倍首相を議長とする経済財政諮問会議に了承させる。その先に見えるのは、今年末の安倍内閣による消費税率10%実施決断であり、その後の際限のない増税路線である。考えても見よ。9年度消費税増税の翌年度以降、全体の税収は増税前の水準を下回り続けている。物価下落を上回る速度で所得が縮小する慢性デフレに陥り、年金世代や次世代を養う現役世代を苦しめてきた。
アベノミクスは筆者の知る限り、本来は増税よりも成長を優先する経済思想のたまものだったはずである。増税では経済も財政も再建できないことを安倍内閣は再認識し、狂った羅針盤の廃棄を命じるべきだ。(編集委員・田村秀男)
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