ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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中国で軍部が政治・外交に介入~石平氏

2014-10-26 09:34:07 | 国際関係
 シナ系評論家の石平氏は、最近、中国で軍部が台頭し、政治や外交の介入が本格化している、と日本人に強く警戒を促している。
 まず本年6月26日の産経新聞の記事に、石氏は大意次のように書いた。
 6月13日、中国中央テレビは習近平国家主席が「中央財経指導小組(指導グループ)」の会議を主宰したことを報じたが、列席者の中に人民解放軍の房峰輝総参謀長の姿があった。軍の幹部が本来、「財経会議」に顔を出すようなことはないのにである。この会議の前、房氏は5月15日米軍関係者との共同記者会見でベトナムとの紛争に言及し、「中国の管轄海域での掘削探査は完全に正当な行為だ」とした上で、「外からどんな妨害があっても、われわれは必ずや掘削作業を完成させる」と宣した。
 石氏は、次のように述べている。「一軍関係者の彼が、政府そのものとなったかのように『掘削の継続』を堂々と宣言するのは、どう考えても越権行為以外の何ものでもない」「習政権の政治と外交の一部が既にこの強硬派軍人によって乗っ取られた、と言っても過言ではない。そして今月、房氏は、本来なら軍とは関係のない『中央財経会議』にも出席している。軍人の彼による政治への介入が本格的なものとなっていることが分かるであろう。もちろん房氏の背後にあるのは軍そのものである。軍がこの国の政治を牛耳るという最悪の事態がいよいよ、目の前の現実となりつつあるのである」と。
 南シナ海での掘削作業はその後、中止された。国際社会の非難が高まったためである。この作業中止によって、石氏の懸念は行き過ぎたものだったと感じた人もいたかもしれない。
 だが、中国で軍の幹部が政治や外交に介入するという大きな傾向が収まったのではない。石氏は10月2日の記事で、新たな動きを伝えた。9月17日から19日、習主席がインドを訪問した。インド入りした当日、中国との国境に接するインド北西部ラダック地方で、約1千人の中国軍部隊が突如インド側に越境し、数日間、中国軍とインド軍とのにらみ合いが続いた。習主席のインド訪問が危うく壊される寸前の際どい場面であった。中国軍がこの「重要訪問」をぶち壊そうとするような行動に出たののである。
 そのうえ、9月19日には、中国海軍の呉勝利司令官が、習主席と中央指導部の権威をないがしろにするような発言をした。アメリカ海軍大学校で開催中の国際シンポジウムに参加した呉氏が、香港フェニックステレビのインタビューに応じ、米中関係のあり方について「米中間では原則面での意見の相違があり、その解消はまず不可能だ」と語った。石氏は言う。「それは明らかに、習主席や中央指導部の示す対米関係の認識とは大きく異なっている」「外交方針を定める中央指導部の権限に対する軍人の『干犯』以外の何ものでもない」と。
 石氏は、日本人に強く警戒を呼び掛けている。「今の中国では、中央指導部の外交権や政策の遂行に対する軍人たちの干犯や妨害がますます増幅しているように見えるし、名目上の最高指導者である習主席の『権威』は彼らの眼目にはなきもの同然のようだ。あるいは、習主席という『みこし』を担いで軍人が専権するような時代が知らずしらずのうちに始まっているのではないか、という可能性も考えられるのである」と。
 私は、こうした石氏の分析を読んで、昭和10年代のわが国で軍部が台頭した経緯に似た点があるのを感じている。当時日本の軍人の一部は、明治天皇の軍人勅諭に反して政治に口出しをした。政治家へのテロを行ったり、勝手に軍を動かしたりして、政府が軍を統制できなくなり、日本は泥沼の戦争に引き込まれていった。
 軍人は軍事の専門家であって、政治・経済・外交等に関しては、幅広い経験や見識を欠く傾向がある。個人としては資質を持つ者もいるが、組織を背景にすると組織の論理に拘束されやすい。そのため、多くの軍部指導者は、国家が窮地に陥った時、武力を頼んで危機を打開し、強権的な治安の強化を行い、しばしば硬直した組織の論理によって対外的な軍事行動を進める。
 戦前のわが国は、立憲議会政治、男子普通選挙が行われる民主主義国家だった。我が生涯の師にして神とも仰ぐ大塚寛一先生は、日独伊三国同盟の締結、英米との戦争に反対し、開戦すれば大敗を喫すると警告する建白書を、時の指導層に送付し、逮捕も投獄もされなかった。その警告に耳を傾ける政治家・軍人もいた。
 これに比し、今の中国は、事実上共産党の独裁国家であり、建国以来一度も選挙が行われていない。ITによる高度な情報管理体制が敷かれ、政府を批判する者は厳しい弾圧を受ける。軍部の動きをけん制、是正することは、戦前の日本より、はるかに難しい。中国における軍部の台頭には、大いなる警戒が必要だと思う。 
 以下は、石氏の記事。

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●産経新聞 平成26年10月2日

http://www.sankei.com/premium/news/141002/prm1410020010-n1.html
2014.10.2 11:30更新

【石平のChina Watch】
習近平氏もヒヤリ…目に余る中国軍の「外交権干犯」

 先月17日から19日、中国の習近平国家主席はインドを訪問した。国際社会でも注目される訪問だったが、中国国内ではなおさら、異様な興奮ぶりで盛り上がっていた。訪問開始の翌日に人民日報は1面から3面までを関連記事で埋め尽くし、訪問後、政府は国内の専門家やマスコミを総動員して「偉大なる外交的成功」を絶賛するキャンペーンを展開した。中国政府と習主席自身にとって、それが大変重要な外交イベントであったことがよく分かる。
 しかし、この内外注目の外交舞台に立った習主席に冷や水を浴びせたような不穏な動きが中国国内で起きた。フランスのAFP通信が9月18日に配信した記事によると、習主席がインド入りした当日の17日、中国との国境に接するインド北西部ラダック地方で、約1千人の中国軍部隊が突如インド側に越境してきて、それから数日間、中国軍とインド軍とのにらみ合いが続いたという。
 中国軍の行動は当然、インド側の怒りと強い不信感を買った。18日に行われた習主席との共同記者会見で、インドのモディ首相が厳しい表情で「国境地域で起きていることに懸念を表明する」とメモを読み上げたとき、習氏の表情はいきなり硬くなった。
それは、習主席のインド訪問が危うく壊される寸前の際どい場面であったが、中国軍がこの「重要訪問」をぶち壊そうとするような行動に出たのは一体なぜなのか。
 実は同じ9月の19日、中国軍高官の口から、習主席と中央指導部の権威をないがしろにするような発言が別の場所でなされた。
 アメリカ海軍大学校で開催中の国際シンポジウムに参加した中国海軍司令官の呉勝利司令官が香港フェニックステレビのインタビューに応じ、米中関係のあり方について「米中間では原則面での意見の相違があり、その解消はまず不可能だ」と語った。それは明らかに、習主席や中央指導部の示す対米関係の認識とは大きく異なっている。
 習主席や中国政府も米中間の「意見の相違」を認めてはいるが、これに関する指導部の発言はむしろ「努力して相違の解消に努めよう」とのニュアンスに重点を置くものだ。「相違の解消は不可能だ」という突き放したような断言が中国側高官の口から出たのは呉氏が初めてである。
 しかしそれはどう考えても、外交方針を定める中央指導部の権限に対する軍人の「干犯」以外の何ものでもない。米中関係がどういう性格のものか、中国がアメリカとどう付き合うべきか、中央指導部によってではなく、呉氏という一軍人が勝手に決めようとしたのである。
呉氏はインタビューの中でさらに「一部の人々は(米中間の)意見の相違は双方の努力によって縮小することができる、あるいは解消することができると考えているようだが、それは甘すぎる」と発言した。それは読みようによっては、習主席自身に対するあからさまな批判ともなるのである。
 たとえば9月9日、習主席は北京で米国のライス大統領補佐官と会見した中で、「中米は対話を強化し、理解を増進し、意見の相違を適切に処理して摩擦を減らさなければならない」と語ったが、前述の呉氏発言からすれば、「甘すぎる」のはまさに習主席その人ではなかろうか。
 このようにして、今の中国では、中央指導部の外交権や政策の遂行に対する軍人たちの干犯や妨害がますます増幅しているように見えるし、名目上の最高指導者である習主席の「権威」は彼らの眼目にはなきもの同然のようだ。
 あるいは、習主席という「みこし」を担いで軍人が専権するような時代が知らずしらずのうちに始まっているのではないか、という可能性も考えられるのである。

●産経新聞 平成26年6月26日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140626/chn14062615000005-n1.htm
【石平のChina Watch】
「掘削は続ける」政府方針まで宣言、習政権乗っ取る強硬派軍人
2014.6.26 15:00

 今月13日、中国中央テレビは習近平国家主席が「中央財経指導小組(指導グループ)」の会議を主宰したことを報じた。国民はこれで初めてこの「小組」の存在を知るようになったが、大変奇妙なことに、関連ニュースは一切なく、その構成メンバーの名簿も公表しなかった。
 そこで同14日、一部国内紙は、中央テレビが流した「小組」の映像で参加者の顔ぶれを確認し、リストを作って掲載した。確認された列席者の中には、中国人民解放軍の房峰輝総参謀長の姿もあった。
 しかし解放軍は普段、国の経済運営には関与していない。軍の幹部が本来、中央の「財経会議」に顔を出すようなことはない。特に解放軍総参謀長という職務は軍の作戦計画や遂行をつかさどるものであって、国の経済運営とはまったく関係がないはずだ。
 ならばなぜ、房峰輝氏は堂々と習主席主宰の「財経会議」に出席しているのか。これに対する一つの答えは、房氏自身が先月、中国とベトナムとの紛争についておこなった際どい発言にあった。
 5月初旬、中国がベトナムとの係争海域で石油の掘削を断行したことが原因で、中国海警の船舶とベトナム海上警察の船舶が南シナ海のパラセル(西沙)諸島周辺海域で衝突し、中越間の緊張が一気に高まり、現在までに至っている。
 同月15日、訪米中の房峰輝氏は、米軍関係者との共同記者会見でベトナムとの紛争に言及した。彼は「中国の管轄海域での掘削探査は完全に正当な行為だ」とした上で、「外からどんな妨害があっても、われわれは必ずや掘削作業を完成させる」と宣した。
 ベトナムとの争いが始まって以来、中国側高官が内外に「掘削の継続」を宣言したのは初めてのことだが、宣言が中国外務省でもなければ掘削を実行している中国海洋石油総公司の管轄部門でもなく、解放軍の総参謀長から発せられたことは実に意外である。
 中国の場合、軍の代表者は外国との外交紛争に関して「中国軍として国の主権と権益を断固として守る」とコメントするのが普通だ。あるいは掘削の件に関して、もし房氏が「中国軍として掘削作業の安全を守る決意がある」と語るならば、それはまた理解できる。
しかし、一軍関係者の彼が、政府そのものとなったかのように「掘削の継続」を堂々と宣言するのは、どう考えても越権行為以外の何ものでもない。本来ならば政府の掘削行為を側面から支援する立場の軍幹部が、政府に取って代わって「掘削継続」の方針を表明したことに大いに問題があるのである。
 軍総参謀長の彼が「掘削継続」と宣言すれば、その瞬間から、中国政府は「やめる」とはもはや言えなくなっている。つまり、房氏の「掘削継続発言」は実質上、政府のいかなる妥協の道をも封じ込めてしまった。
 実際、今月18日に中国の外交担当国務委員、楊潔●(チ=簾の广を厂に、兼を虎に)氏が「問題解決」と称してベトナムを訪問した際、中国側が「掘削継続」の強硬姿勢から一歩たりとも譲歩せず、双方の話し合いが物別れとなった。つまり楊氏のベトナム訪問以前から、前述の房氏の「掘削継続発言」によって、中国政府の基本方針はとっくに決められた、ということである。
だとすれば、習政権の政治と外交の一部が既にこの強硬派軍人によって乗っ取られた、と言っても過言ではない。そして今月、房氏は、本来なら軍とは関係のない「中央財経会議」にも出席している。軍人の彼による政治への介入が本格的なものとなっていることが分かるであろう。
 もちろん房氏の背後にあるのは軍そのものである。軍がこの国の政治を牛耳るという最悪の事態がいよいよ、目の前の現実となりつつあるのである。
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