世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

世界遺産と日本/世界の個性的な町並みをITを交えた筆致で紹介します。

台風の傷跡も修復され美しさを取り戻した五重塔の見え隠れする室生の里

2007-12-02 10:15:57 | 日本の町並み
 山形県の酒田は豪商の本間家を生みましたが、近年では個性的な写真で有名な土門拳氏を生んでいます。今回は、その土門氏が愛してやまなかった室生の里近辺を取り上げます。

 室生は奈良県の北東よりの宇陀市の東より、最寄の近鉄大阪線の室生口大野駅からバスで6kmほどの山里です。現在でこそ室生口大野駅に停車する電車は増えましたが、筆者の学生の頃は1時間に上り下り各1本で、きわめて不便でした。大阪と名古屋、伊勢を結ぶ近鉄の動脈ですから、2階建て車両を含めて特急電車は頻繁に通過するのですが、止まってくれる電車は名張まで行く区間急行だけだったように思います。それだけ不自由な思いをしてでも訪れる価値のあるのが室生寺ではないかと思います。

 室生口大野駅で下車して少し歩いたところが、大野寺で駅名の大野はこの寺からきているものと思います。大野寺には線刻の磨崖仏が残されていて、お寺から宇陀川を挟んだ対岸の岩肌に刻まれています。15mに及ぶ巨大な像ですが、風化のためお姿を判別するのが難しいほどになっていましたが、近年修復が行われて仏像らしくなられたようです。

 さて、室生寺は駅からバスで7kmほど川沿いの道をさかのぼった場所にあり、このバスもあまり頻繁には走ってないようです。バスを降りて、橋を渡り、女人高野の石柱を右折して進むと、傾斜地に建つ伽藍の下に出ます。

室生寺は、寺院建築に興味のある人、仏像に興味のある人、それぞれの方たちを共に引き付ける数少ないお寺の一つではないかと思います。金堂内の国宝の仏像群は、土門氏の写真集でもおなじみで、特に彩色が残る十一面観音像は、本コラムの2007年10月7日号でも紹介した渡岸寺の十一面像とは違って、少し妖艶な感じのする仏様です。

 さらに、ふもとの金堂から石段を上ってたどり着く五重塔は、屋外の五重塔としては最小のものですが、凛として建つ姿はいつ見ても感動します。

今から7年ほど前に、台風によってなぎ倒された杉の大木がぶつかり、初層から五層までの屋根の壊してしまいましたが、4年ほど前に訪れた時には、元の古色は失われましたが、端正な美しさに修復された姿を見ることができました。

 仏像や古建築の修復の時に、何時も議論になるのが、創建当時の姿に戻すのか、現状の姿のまま補強や補修を行うのか、という問題のようです。創建当時といっても、残されているデータが少ないので、仏像ではX線による解析など、元の状態を推定する作業が大変なようです。現在では、設計図面や完成品の3次元解析データなど、後世に多くのディジタル化されたデータを残せる環境が整っているので、修復などは楽になりそうです。しかし、ディジタルにも劣化があるという問題が残るかもしれません。もちろん、ディジタル化された1,0のデータは不変で引き継がれるでしょうが、そのデータを図面などに表現するアルゴリズムが変わって、描画できなくなる問題です。

 これまでの日本の町並みは、過去に執筆した原稿を手直しして公開してきましたが、次回からは、新規に書き下ろす予定です。このため、これまで世界遺産の表題の頭にNを付して新規原稿を表示してきましたが、今後は共に新規のため、Nの文字はつけないことにします。


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