因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

演劇集団円『グレンギャリー・グレンロス』

2023-11-21 | 舞台
*デイヴィッド・マメット作 芦沢みどり翻訳 内藤裕子演出 公式サイトはこちら 俳優座劇場 11月26日終了(内藤裕子関連のblog記事→『かっぽれ!』シリーズ4作含むgreen flowers公演の記録、劇団内外作・演出および演出 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12
 昨年『ソハ、福ノ倚ルトコロ』『カタブイ1972』(いずれも作・演出)で高い評価を得た内藤裕子が挑んだのは、デイヴィッド・マメットがピューリッツア賞文学賞を受賞した、アメリカはシカゴの不動産業界でのし上がりたいともがき苦しむ男たちの丁々発止の物語である。

 幕開け、かつてトップセールスマンだったシェリー・レヴィーン(金田明夫)が、営業責任者のウィリアムソン(清田智彦)と飲食店で向き合っている。営業成績が落ちて崖っぷちのレヴィーンは解雇を恐れ、乗客の名簿を回してほしいとウィリアムソンに懇願しているのだ。彼等の席後ろの窓の模様から、そこが中華料理店であることがわかる(場面転換のとき、この窓に照明が当たると、中華模様が赤く鋭い刃のように見えて不気味な効果を上げる)。

 レヴィーンは実によく喋る。「立板に水の如く」とはこのことだろう。喋りっぱなしだ。しかしどれほど言葉を並べ立てても、それは聞く者の心に届かない。ウィリアムソンは相手の言葉を浴びながら腹に一物ある雰囲気で、時折反論し、何度も「俺の話を聞け」と言うのに、レヴィーンは一向に聞こうとしない。言葉は溢れるほどなのに、対話が成立していないのだ。

 会社の強引な経営への不信感から、モス(瑞木健太郎)は、解雇の不安にかられる成績不振のアーロナウ(上杉陽一)にある計画を持ち掛ける。やがて狡猾な話術で営業成績トップを走るローマ(石井英明)や、彼に篭絡される気弱な客のリンク(石原由宇)、会社から顧客名簿や契約書が盗み出され、内部犯行を疑う刑事のベイレン(本多新也)の事情聴取へと物語が進むにつれ、男たちは罵詈雑言をぶつけあい、事態は混乱の極みとなる。

 台詞量がすさまじい。しかもそれはテンポのよいやり取りや積み上げられていく対話、議論劇というよりは、終始喧嘩腰で相手の話を聞かず、話を遮り、自分の主張を執拗に繰り返し、しまいには口汚く大声で罵るのであるから、演じる方の熱量は大変なものだが、受け取る客席も相当なエネルギーを要する。人物の相関関係や力関係の変容を正確に把握できたのか、心もとないというのが正直なところだ。

 翻訳の芦沢みどりの公演パンフレット寄稿「罵詈雑言は詩である」を改めて読み返す。マメットが本作を敬愛するハロルド・ピンターに捧げていること、本作初演にピンターが尽力したこと、作品にはピンターの影響が現れていること等々。

 今回は残念ながら、舞台の罵詈雑言を詩やジャズのように味わうところには到達できず、圧倒されノックアウトされて、あっという間に終わってしまった印象である。頭で台詞の意味を考えていると、劇のスピードに追いつかない。ならばもっとどっしりと構え、激しい劇の流れに身を委ねる度胸が必要かもしれない。

 レヴィーン役の金田明夫はじめ、出演俳優は選りすぐりの粒ぞろい。演劇集団円の俳優が確かな演技術を持ち、若手から中堅、ベテランまで層が厚いことがよくわかる。自作の演出のみならず、国内外のさまざまな戯曲に気負わず向き合い、俳優と根気よく舞台を立ち上げていく演出家・内藤裕子の手並みを改めて知る一夜となった。
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