因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

演劇集団円『初夜と蓮根』

2009-05-17 | 舞台
*土田英生昨 内藤裕子演出 公式サイトはこちら ステージ円 27日まで
 場内に入ると明るいリビングルームのセットが目をひく。床の木目の具合、ソファやテーブルなど家具調度も趣味がよく、きちんと片付けられていてまるでモデルルームのようだ。開演直前、主演の金田明夫が普通に登場し、お客様にご挨拶。このところ「横文字の作品で、何かと言うと人を殺したり自分で死んだりするような役が続いたが、これからご覧に入れる舞台は家と庭の話です」いわゆる前振りのようなものであろうか。テレビでおなじみの金田さんがにこやかに話してくださると、こちらの気持ちも和むのだが、自分の好みとしては顔を出さずにアナウンスするほうが好きである。ステージ円の公演では開演前のアナウンスが個性的で、時折すべることもあるが味がある。物語の主人公がわざわざ開演前に挨拶に出るのは、今回の舞台に深い関わりがあるのか、それともファンサービスなのか。
 きれいなのも道理、松永家はリフォームしたばかり。娘は来月結婚する予定である。息子はいわゆる引きこもりであるが、一家に暗さはない。娘が嫁ぐ前に家族で囲むささやかな昼食。それが娘の一言で一変してしまう。そこから起こる悲喜こもごもが、『初夜と蓮根』というまったく意味のわからない題名の舞台なのであった。

 どこの家庭でも叩けば埃のひとつやふたつは出てくるし、人が知ったらびっくりするようなことをしていたりしていなかったり(松永家は「していなかっった」方である)するものだ。そしてそれでも何とかやっていくのが家族である。朝起きて食事を作り、掃除洗濯、子供たちの世話などを一日一日ちゃんとやっていれば、それで年月は過ぎていく。その平凡な営みを続けているうちに自然に家庭ができあがっていくのだ。チラシに掲載された「慣れ親しんだ日常には力がある」という土田の言葉には説得力がある。

 その力のある日常に対して松永家には「待った」がかかった。あっと言う間に秘めていた問題が出るわ出るわ、いったいこの家族はどうなってしまうのか。

 1時間40分のあいだ緊張が緩むことはなく、客席の雰囲気も上々。金田明夫、磯西真喜はじめベテランから中堅、若手まで万事そつなく、土田作品の世界をきっちりと作っていた。

 だがどうしてだろう、帰り道猛烈な物足りなさに襲われたのだ。もっと深刻な展開が欲しかったのか、脇の人物にもう少し本筋に絡んで欲しかったのか、その理由はわからない。あの一家は新しい第一歩を踏み出した、それでよいではないか。いやよいのである。でもしかし。上質な小品、単発もののテレビドラマをみたようで、「演劇をみた」という確かな手応えが得られなかったのである。これは贅沢な悩み、ないものねだりなのだろうか。
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