因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団印象第8回公演『父産』

2007-06-10 | 舞台
*鈴木厚人作・演出 新宿タイニイアリス 公式サイトはこちら 11日まで
 劇団初見。印象は「いんぞう」、父産は「とうさん」と読む。第1回公演から「なぜかタイトルは漢字で2文字」。たとえば『鴉姫(からすひめ)』、『嘘月(うそつき)』、『穴鍵(あなかぎ)』…。乞局を連想させるタイトルの数々に正直こわごわと足を運んだのだが。

 若い人が大半ではあるが、タイニイアリスにしては微妙におじさま、おばさまの多い客層である。開演前、作・演出の鈴木厚人が神妙な顔つきで挨拶に立つと、客席から自然に拍手が起こる。あれ、こんなの珍しいぞ。「開演の時間ですが、道に迷っているお客様があと6人いらっしゃいます。もう少しお待ちいただけますか?」と恐縮の面持ちで説明があると、客席から了解の拍手。何だろう、この温かで家族的な雰囲気は?

 息子(役名:梶五月)と父親(役名:梶六月)が二人きりで暮らす家。息子は恋人とのあいだに子どもができて、結婚を決意し家を出ようとする。寂しがりやの父親は息子を愛するあまり、とんでもない行動に出る。それは嫁(息子の恋人)の胎内にやどった子どもを自分のからだに移して自分が産んでしまうという、書いていても何だそれは?という話なのである。しかも息子は最初からの息子と合わせて3人にまでなり、父に新聞を読んでやる「読み五月」、父の作ったご飯を食べる「めし五月」、父の肩を揉む「揉み五月」と担当別に名前がある・・・って全然わかりませんよね。ネタばれになるし、話はこれくらいにして。

 荒唐無稽なストーリーだが、人はなぜ誰かといっしょになって子どもを持とうとするのか、人が親になるというのはどういうことなのかをいつのまにか考えさせられた。なかなかに奥の深い芝居なのである。終盤、父親と産婦人科医が交わす会話の場面、優しいピアノの音楽が流れ、しんみりした気持ちにさせられる。白いカーテン状の幕を左右に引きながら場面転換を示す方法は、チープと言えばチープだが工夫のあとが窺われ、俳優の演技も稽古がしっかりはいっていることがわかる。当たり前のことかもしれないが、おもしろい舞台を作ろうという気合い、作・演出の鈴木クンを守り立てようぜ!的な熱さがびんびん伝わってくるのである。

 普通、身内の客が多い芝居は内輪受けのネタや部分的な大笑いがあってあまり気持ちのよいものではない。劇団印象の客席は、確かに身内客も多かったと思うが、前述のような何とも言えない温かい見守りの雰囲気があって、劇場ぜんたいが非常に楽しいものになっていた。「何だか応援したくなっちゃった。」そう思わせる何かが、この劇団にはあるのだろう。明日の千秋楽も2回公演あり。
 

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