ボロディン:歌劇「イーゴリ公」
指揮:ワシーリ・シナイスキー、演出:ユーリ・リビューモフ、振付:カシヤン・ゴレイゾフスキー
エリツィン・アジゾフ(イーゴリ公)、エレナ・ポポフスカヤ(イーゴリ公の妻ヤラロスラーヴナ)、ロマン・シュラコフ(イーゴリ公の息子ウラディーミル)、ウラディーミル・マトーリン(ヤロスラーヴナの弟ガリツキー公)、ワレリー・ギリマノフ(コンチャク汗)、スヴェトラーナ・シロヴァ(コンチャク汗の娘)
2013年6月16日 モスクワ・ボリショイ劇場 2014年3月NHK BS
全曲を聴くのも見るのも初めてである。舞踏の場面の音楽だけは有名だから知っているが。
ロシアと東の騎馬民族ポロヴェツ(以前は韃靼と言っていたものか?)との戦いの叙事詩が題材で、人間同士の葛藤はどちらかというとあまり掘り下げた形にはなってない。それからボロディンは完成前に死んでしまったらしく、その後リムスキー・コルサコフとグラズノフの手によって完成されたらしい。
イーゴリ公と息子は汗にとらえられ、妻はそれを嘆き帰還を願う。息子は汗の娘といい仲になり、公は脱出し、汗はまたロシアに攻撃をしかける一方で彼を婿養子扱いにする。公と妻が再会したところで終幕となるのはドラマとしては物足りない。おそらくボロディンはそのあとも考えていたのではないだろうか。
とはいえ、音楽に手抜きはなく、細部まで充実している。特に妻のいくつかのアリアはポポフスカヤの歌唱とともに深い印象が残った。この人は純度の高い声でありながら強い表現もうまいし、姿も素敵で、この公演の華といえる。
他の人たちは現在のロシア系オペラ歌手の充実ぶりを反映したもの。
前半のポロヴェツ人たちの宴で演じられる「ポロヴェツの娘たちの踊り」(以前「韃靼人たちの踊り」といわれていたもの)はかなり長い大規模なもので、このオペラの見ものの一つになっている。
ところでこの音楽は若いころからよくきいていて、今でもプロムナード・コンサートなどでよくやられるし、先のソチ冬季オリンピックでも耳にした。
1960年代、ラジオではオーケストラによるムード音楽が人気になっていて、この曲は「ストレンジャー・イン・パラダイス」という名前だった。ミュージカル「キスメット」の中で使われたためらしい。特にマントヴァーニ楽団によるものが有名。マントヴァーニのが発明した(?)カスケード・サウンド(滝の流れ落ちるような)とよばれるストリングスは一世を風靡した。