八月の御所グラウンド
万城目 学 著 文藝春秋社
久しぶりに読んだ万城目学、表題の中編「八月の御所グラウンド」のほか短編「十二月の都大路上下(カケル)」を所収。
前者は卒業しようかどうしようかという大学生が同輩から頼まれたのが、指導教授がオーナーのアマチュア野球チームに参加、教授が昔の縁で京都の御所グラウンドで夏に行われる6チームの大会でどうしても勝ちたいと、その同輩に命令したのだが、このチーム、大会ともかなりレベルが低いもの、しかもその同輩が水商売のアルバイトの縁で集めてきた連中が主体、それでもなんとか員数をぎりぎりつけて何試合か勝っていく。
そこに登場してくるのが、どうも昔、戦前戦中あたりの伝説的ピッチャーだったり、学徒出陣した若者だったり、といってもこの人の他作品によくるように過去から現れたかそう思えるのか、時間がごっちゃになって進められていくのを楽しんでいるうちに結末はということになる。
おそらく映画「フィールド・オブ・ドリームス」が多少ヒントにはなっただろうが、ああいうセンチメンタリズムはない(それはそれでいいけれど)。
だが、だいぶ前に面白さにひかれていくつか読んだ「鴨川ホルモー」、「鹿男あをによし」、「偉大なる、しゅららぼん」、「プリンセス・トヨトミ」などに比べると短いからかどうなのか空想力におどろおどろしさがどうもというかちょったものたりなさが残った。
もう一つ(短編)はやはり京都で冬に開催される全国高校女子駅伝、チームの一員として出る主人公はこれも突然補欠からの昇格で出ることになり、ほぼ同時にたすきを受けた他県の選手と争うが、そこに歩道を応援で並走する新選組の旗がという幻想、新選組とはそれ以上なにかあるということではないが、二人の間の話としてはもう少しふくらませればいいものになったかもしれない。
先日、前者は直木賞を受賞したが、わたしからすればいまさら失礼なと感じたことを記憶している。そしてあらためて本作を読むとそれは一層だ。もっと前の何かで授賞を決めてほしかった。
一番は「偉大なる、しゅららぽん」かな。まあこれからも期待しよう。
あと、これ昨年「オール読物」に掲載されすぐに刊行されたもの(第二刷)で、どうも出版を急ぎすぎたのではないか。いい校正者がついてなかったように見える。読点が多すぎるし、二人の会話が続く場面でどっちの発言か読み取りにくいところがいくつかあった。もちろん最後は著者の責任としても。文庫化されるならその時にでも。
綿矢りさが「蹴りたい背中」(芥川賞)ですぐれた校正者にめぐりあったのは幸運だった。
万城目 学 著 文藝春秋社
久しぶりに読んだ万城目学、表題の中編「八月の御所グラウンド」のほか短編「十二月の都大路上下(カケル)」を所収。
前者は卒業しようかどうしようかという大学生が同輩から頼まれたのが、指導教授がオーナーのアマチュア野球チームに参加、教授が昔の縁で京都の御所グラウンドで夏に行われる6チームの大会でどうしても勝ちたいと、その同輩に命令したのだが、このチーム、大会ともかなりレベルが低いもの、しかもその同輩が水商売のアルバイトの縁で集めてきた連中が主体、それでもなんとか員数をぎりぎりつけて何試合か勝っていく。
そこに登場してくるのが、どうも昔、戦前戦中あたりの伝説的ピッチャーだったり、学徒出陣した若者だったり、といってもこの人の他作品によくるように過去から現れたかそう思えるのか、時間がごっちゃになって進められていくのを楽しんでいるうちに結末はということになる。
おそらく映画「フィールド・オブ・ドリームス」が多少ヒントにはなっただろうが、ああいうセンチメンタリズムはない(それはそれでいいけれど)。
だが、だいぶ前に面白さにひかれていくつか読んだ「鴨川ホルモー」、「鹿男あをによし」、「偉大なる、しゅららぼん」、「プリンセス・トヨトミ」などに比べると短いからかどうなのか空想力におどろおどろしさがどうもというかちょったものたりなさが残った。
もう一つ(短編)はやはり京都で冬に開催される全国高校女子駅伝、チームの一員として出る主人公はこれも突然補欠からの昇格で出ることになり、ほぼ同時にたすきを受けた他県の選手と争うが、そこに歩道を応援で並走する新選組の旗がという幻想、新選組とはそれ以上なにかあるということではないが、二人の間の話としてはもう少しふくらませればいいものになったかもしれない。
先日、前者は直木賞を受賞したが、わたしからすればいまさら失礼なと感じたことを記憶している。そしてあらためて本作を読むとそれは一層だ。もっと前の何かで授賞を決めてほしかった。
一番は「偉大なる、しゅららぽん」かな。まあこれからも期待しよう。
あと、これ昨年「オール読物」に掲載されすぐに刊行されたもの(第二刷)で、どうも出版を急ぎすぎたのではないか。いい校正者がついてなかったように見える。読点が多すぎるし、二人の会話が続く場面でどっちの発言か読み取りにくいところがいくつかあった。もちろん最後は著者の責任としても。文庫化されるならその時にでも。
綿矢りさが「蹴りたい背中」(芥川賞)ですぐれた校正者にめぐりあったのは幸運だった。