メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ブリテン「ピーター・グライムズ」(メトロポリタン)

2012-12-07 14:15:58 | 音楽一般

ベンジャミン・ブリテン:歌劇「ピーター・グライムズ」

指揮:ドラルド・ラニクルズ、演出:ジョン・ドイル

アンソニー・ディーン・グリフィー(ピーター・グライムズ)、パトリシア・ラセット(エレン・オーフォード)

2008年3月15日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場  2012年9月 WOWOW放送録画

 

聴くのも初めてだから、多分陰鬱で気がめいるだろうと思っていたが、こうして映像で見るとそれほどでもなく、さすがにブリテンの音楽特に合唱とオーケストラはよくできているから、近代の人間悲劇としては退屈はしなかった。

 

イギリスの海岸にある村によそ者らしいグライムズがやってきていて、漁師としては腕があるらしいのだが、手伝いに雇っていた少年が海で死んでしまい、そのことで裁判(どうも正式のものではないらしい)になるが、ここは無実となる。しかしそのあと、また雇った少年の扱いで、周囲を軋轢があり、高潮がやってきたときに二人は消えてゆく。

 

よそものへの無理解、しかしその主人公も仕事にあまりに自信があるためか意地が強すぎ、また少年の扱いも一方的、強圧的である。

このように近代人とその周囲の問題、必ずしも悲劇の主人公とも言えない自身にも問題がある、というテーマを結論を押し付けないで提示している。

 

ただそうはいっても、なんとなく物足りない気持ちが残るのは、女教師エレンとの交流がうまく描けていないことや、たとえばベルクの「ヴォツェック」と比べると聴衆としてわが身に引き比べてというところが少ないせいかもしれない。

 

主人公のグリフィーは長丁場を立派にこなしている。いかにも乱暴者の風貌が現代のビデオ映像だと損になってるが。

ラセットのエレンも役にぴったりである。

 

舞台装置、この大きな壁と、内容に合わせて開く窓、そして照明は効果的だ。

 

ところでこの1945年の作品の後、ブリテンは1956年の来日時に観た能「隅田川」に感銘を受け、歌劇「カーリュー・リヴァー」(1964初演)を作った。これは愛児をさらわれた母が狂乱してさすらったのちに子供の死を知る、というもので、何か「ピーター・グライムズ」と内容的に対をなすようにも見える。両方とも作曲者による自演録音がある。

 

幕間のインタビュアーは私の大好きなナタリー・デセイ、話の引き出し方がとてもうまく感じのよいものであった。

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