英語の詩を日本語で
English Poetry in Japanese
Keats, "Ode on a Grecian Urn"
ジョン・キーツ (1795-1821)
「ギリシャの壺についてのオード」
1.
君は、いまだ犯されずに残る〈静寂〉の花嫁。
君は、〈沈黙〉とゆっくり流れる〈時間〉の養子。
森の物語を語る者、君は描く、
花いっぱいに飾られた物語を、ぼくたちの詩よりも甘く。
君のまわりで木の葉で縁どられているのは、どんな話?
神々の物語? 人間たちの? それとも両方?
舞台はテンペやアルカディアの谷だよね?
この人たちは誰? どんな神? せまられて嫌がっているこの女の子たちは誰?
誰が誰を狂ったように追ってる? どうして一生懸命逃げている?
笛を吹いているのは、太鼓をたたいているのは、誰? みんな、まさに無我夢中!
2.
音楽は美しい。でも聴こえない音楽は
もっと美しい。だから、笛は静かに鳴りつづけて。
耳に聴こえるようにではなく、もっときれいに、
音のない、心で聴く歌にあわせて鳴りつづけて。
木々の下のすてきな少年、君はずっと
歌いつづけ、この木々もずっと生い茂ったまま。
恋する男、君はけっして、けっして、キスすることができない、
あとほんの少しでできそうだけど--でも悲しまなくていい、
君の恋人は年をとらないから、君の手には入らなくても。
君はずっと愛しつづけ、この子もずっときれいなまま!
3.
ああ、幸せな木々! 葉を散らす
こともなく、春に別れを告げることもけっしてない。
幸せな笛吹き、君は、疲れることなく、
いつまでも新しい曲をいつまでも吹きつづける。
ずっと幸せな愛、この世のものよりずっと幸せな、幸せな愛!
いつでも、いつまでも、あたたかく、心楽しく、
いつでも、いつまでも、息を切らせていて、若々しく--
息をして生きているぼくたち人間の愛より、はるかにいい。
この世の愛は、幸せとともに悲しみももたらす。満たされると嫌になる。
はずかしさで燃えるように顔が赤くなり、舌がカラカラに渇く。
4.
いけにえの儀式に向かうこの人たちは誰?
どんな緑の祭壇に、誰とも知れぬ神の司祭よ、
あなたは導く、空に向かって鳴く牝牛の子を?
絹のようにきれいなその腹を花の輪で飾って?
川や海沿いのどんな小さな町が、
あるいは平和な要塞のある山のどんな町が、
この儀式の朝に空っぽになっているのだろう? この人々が出てきてしまってるのだから。
そんな小さな町よ、君の通りから人の声が聞こえることは、
もう永遠にない。もう誰ひとり帰らない、
君が廃墟のようになった理由を告げる者は。
5.
ああ、古代アテナイの壺! その美しい姿! まわりに
編みこまれているのは、大理石の男たち、女の子たち、
それから森の木々の枝や、足もとで踏まれている雑草。
沈黙したかたちである君、君を見ていると、思考が引き裂かれるよう。
まるで永遠を見ているかのよう。牧場、田園の冷たい歌!
ぼくたちの世代が年をとって滅んでも、
君は残る、ぼくたちと同じように悲しい
別の人たちのあいだに。そして、いうだろう、
美しいものだけが真実、真の意味で存在するのは美しいものだけ--人が
知っているのはこのことだけ、知るべきなのはこのことだけ。
* * *
John Keats
"Ode on a Grecian Urn"
1.
Thou still unravish'd bride of quietness,
Thou foster-child of silence and slow time,
Sylvan historian, who canst thus express
A flowery tale more sweetly than our rhyme:
What leaf-fring'd legend haunts about thy shape
Of deities or mortals, or of both,
In Tempe or the dales of Arcady?
What men or gods are these? What maidens loth?
What mad pursuit? What struggle to escape?
What pipes and timbrels? What wild ecstasy?10
2.
Heard melodies are sweet, but those unheard
Are sweeter; therefore, ye soft pipes, play on;
Not to the sensual ear, but, more endear'd,
Pipe to the spirit ditties of no tone:
Fair youth, beneath the trees, thou canst not leave
Thy song, nor ever can those trees be bare;
Bold Lover, never, never canst thou kiss,
Though winning near the goal―yet, do not grieve;
She cannot fade, though thou hast not thy bliss,
For ever wilt thou love, and she be fair!20
3.
Ah, happy, happy boughs! that cannot shed
Your leaves, nor ever bid the Spring adieu;
And, happy melodist, unwearied,
For ever piping songs for ever new;
More happy love! more happy, happy love!
For ever warm and still to be enjoy'd,
For ever panting, and for ever young;
All breathing human passion far above,
That leaves a heart high-sorrowful and cloy'd,
A burning forehead, and a parching tongue.30
4.
Who are these coming to the sacrifice?
To what green altar, O mysterious priest,
Lead'st thou that heifer lowing at the skies,
And all her silken flanks with garlands drest?
What little town by river or sea shore,
Or mountain-built with peaceful citadel,
Is emptied of this folk, this pious morn?
And, little town, thy streets for evermore
Will silent be; and not a soul to tell
Why thou art desolate, can e'er return.40
5.
O Attic shape! Fair attitude! with brede
Of marble men and maidens overwrought,
With forest branches and the trodden weed;
Thou, silent form, dost tease us out of thought
As doth eternity: Cold Pastoral!
When old age shall this generation waste,
Thou shalt remain, in midst of other woe
Than ours, a friend to man, to whom thou say'st,
Beauty is truth, truth beauty,―that is all
Ye know on earth, and all ye need to know.50
* * *
1
古代ギリシャにつくられた壺(=「君」)がこわれずに残っている
ということ。壺は何もいわない=〈静寂〉と結婚している。
[Q]uietnessは小文字のままだが、おそらくアレゴリー。
1 unravish'd
いろいろな意味が重ねられている。Ravish:
(女性を)強奪する(そして犯す)、死が人を連れ去る(OED 2a)。
地上から天国に連れ去る(OED 3a)。
略奪して奪い去る(OED 4a)。
2
壺が〈沈黙〉と〈時間〉によって育てられた
=何もいわないものとしての壺が2,000年近く保存されてきた。
[S]ilenceとtimeも小文字のままだが、おそらくアレゴリー。
3 historian
物語(story)を語る人(OED 2)。
古代ギリシャの物語だから、歴史historyという意味も
重なっている。
4 flowery
花の装飾がある(OED 5)(壺に)。
表現が華々しい(OED 6)(壺の絵の)。
花々のような(OED 3)(何が、ということなく全体の雰囲気として)。
5-7
主部:
What leaf-fring'd legend Of deities or mortals,
or of both, In Tempe or the dales of Arcady
述部:
haunts about thy shape?
7 Tempe
ギリシャの神々のいるオリュンポス山の近くの谷。
7 Arcady
理想的で楽園的な田園地域。羊・羊飼い・森の神パンがいたところ。
8 What maidens loth
構文は、What maidens [are these who are] loth
[to be seduced, etc.]?
12 soft
(音やメロディが)静かで心地よい(OED 3a)。
ここでは、壺に描かれた笛からは音が聞こえない(、でも聴こえる)
ということ。
14 to
・・・・・・にあわせて(OED, prep, etc., 15b)。
26 warm
(抱きしめあったり、キスしたりすることにより、
こころとからだが)あたたかい(OED 2d)。
愛に満ちてやさしい(OED 12a)。
性欲がある(OED 13)。
27
構文は、
far above All breathing human passion
前置詞がその目的語の後ろにくる構文は、ミルトンの「ラレグロ」
L'Allegro)52などに例がある。
29 high-
いろいろな意味が重ねられていて、あいまいだがニュアンスに富んでいる(と思う)。
形容詞として:
重大な、深刻な(OED 6b)。
豊かな、味わい深い(OED 8a)。
激しい、強い(OED 10a)。
陽気な、気分がもりあがっている(OED 16a)。
酒に酔っていて楽しい(OED 16b)。
副詞として:
とても、強く、高度に(OED 2a)。
豊かに、過度に(OED 2c)。
30 A burning forehead
額は、はずかしさで赤くなるところ(OED 2)。
30 a parching tongue
(おそらく)キスのしすぎで舌が渇いて痛い、ということ。
31-40
このスタンザから、壺の絵のなかに負のイメージの
ものを見るようになる、というところがポイント。
31 sacrifice
いけにえ。死をともなうので負のイメージ。
スタンザ1-3では、壺の絵のなかは死のない、
永遠の世界だった。
34 all her silken flanks with garlands drest
絹とか花とか、いけにえの儀式の前の描写がきれいで
具体的であるほど、その後におこることとが想起され、
両者間の対比が際立つ。
その後におこること:
いけにえの牛のお腹が切られ、内臓がとり出されて焼かれる。
(このときの煙のようすを見て、神がこのいけにえをよろこんで
受けとったかどうかを判断する。)
もちろん、血が流れ、死をともなうので負のイメージ。
いけにえの儀式については、さしあたり大英博物館の
次のページを参照:
http://www.ancientgreece.co.uk/gods/story/sto_set.html
37-40
町が空っぽ、廃墟のよう、というのも当然、負のイメージ。
しかも、永遠に町に人がいない、というのは、壺の絵が
いけにえの儀式の場面で永遠に固定しているからおこること。
つまり、スタンザ1-3の木々や歌や恋愛の描写でたたえられていた
壺の絵の永遠の世界が、ここではマイナス面をもつもの
として表現されている。
41-42
構文は、overwrought with brede Of marble
men and maidens.
41
Attic, attitudeという語の選択は頭韻のためのもの。
([A]ttitude = 絵などに描かれた人の姿勢、という語を、
若干強引に壺全体のかたちにあてている。)
42 marble men and maidens
大理石の男・女の子については、たとえばミロのヴィーナスや
ダビデ像など、古代の白い彫刻を想像すると、雰囲気が
よくわかる。きれいだけど、色がなく、かたく、冷たい感じ。
瞳がなく、生気がない。もちろん、生きていない。
(OED 7bも参照。「白く、かたく、冷たい」。)
43 branches
ポイントは、スタンザ3にある語boughより、branchesのほうが
小さい枝をあらわすこと(OED branch, n1)。スタンザ1-3より、
壺の絵の世界の価値が下がっている。
43 trodden weed
ポイントは、スタンザ1のflowery, leaf-fring'd,
スタンザ3のleavesより、ランクが下がっていること。
美しくない草、雑草。しかも、踏みつけられている。
つまり、スタンザ1-3より、壺の絵の世界の価値が下がっている。
44 tease
・・・・・・の繊維をわける、引き離す(くしなどで)(OED 1a)。
小さな、しかし継続的なかたちで、困らせる、悩ませる(OED 2a)。
キーツの別の詩「J・H・レイノルズに」でも、同様にtease us
out of thoughtといっており、そこでは、「思考や想像力が
みずからの限界を超えつつそのなかにおさまっている、というような、
どっちつかずの、ある種煉獄的な、なんともいえない状態」を
あらわしている。
45 Cold
ポイントは、スタンザ3までは、壺の絵の世界は熱い、
あたたかい、ものだったこと。スタンザ1で狂ったように
女の子を追いかけ、我を忘れて楽器を鳴らし、スタンザ2-3で
永遠に幸せな恋をして、興奮して息を切らしていて、
またスタンザ3でいうように、いつまでも春で。
それが、スタンザ5では冷たく見える、と。
以上、スタンザ4-5において壺のなかの永遠の世界への
憧れが醒めていった後に、もう一度スタンザ1で
描写された絵を見てみる。神か人間かわからない
男たちに、狂ったように追いかけられている女の子たちは、
永遠にそのままでいたいと思うだろうか?
(フェリス生AK, 201301エッセイ)
49-50
いろいろな編者が、引用符で壺の言葉がどこからどこまでかを
示してきているが、オリジナルのもの(Annals of the Fine
Arts 4 [1820])やそれ以前の手稿には引用符がないので、
それを尊重すべきと思う。
Annalsはここに。
http://books.google.co.jp/books?hl=ja&output=text&
id=hV8tAAAAMAAJ
壺の言葉は、最後のknowまでと解釈。Thouとyeの使い分けや、
最後だけこの詩の「ぼく」Iが読者に話しかける、という考えの不自然さ
などから。
加えて、この「美は真理で、真理は美」という壺の言葉を、
この詩全体の内容、つまり、冷たく凍ったかたちで永遠に生きる
ほうがいいか、あるいは遠からずはかなく滅ぶことになっているにしろ、
また幸せがあってもすぐに色あせてしまうにしろ、現実の生を
生きるほうがいいか、という問いに結びつけなくてもいいと思う。
キーツの手紙などから見て、「美は真理で、真理は美」というのは
彼がもともともっていた考えで、ギリシャの壺に関する思考の
論理的帰結として必然的に導かれるものではなさそうだから。
(これらの手紙について、いつか追記。)
「美は真理で、真理は美」という命題と、死と永遠の問題が、
なんとなくつながっているような、でもつながっていないような、
そんなあいまいさがあるから、逆にこの詩は生きている。
死と永遠について思考を刺激して結論を出さず、
さらに、美と真理という、また別の結論の出ない問いを
投げかける・・・・・・。
永遠がいい、とか、現世がいい、という二者択一的で、
道徳的に明白すぎる結末だったら、読者が限定されて
しまったはず。
* * *
考えてみる。実際、壺の絵や大理石のようにかたまって
永遠に生きるほうがいいか、あるいはこの世で(それなりに)
熱く生きて、死んでいくほうがいいか。
キーツのように、23-24歳で、結核にかかっていて、
遠からず死ぬことがわかっていたら? 恋人がいても
一緒になれないことがわかっていたら?
(この詩が書かれたのは1819年。結核の発症は1820年の
はじめだが、1819年を通じてキーツは、体調がおかしい
ことを自覚していた。)
「薄幸の詩人」というようなキーツのイメージは、あまり
正しくない、ともいうが。
* * *
・・・・・・以上のように読んできた上で、ちょっと
冷静に、詩から離れて考えてみる。そもそも壺やそこに
描かれた絵は本当に永遠か?
明らかにちがう。落としたら、ハンマーなどで
たたいたら、かんたんに割れて粉々になり、
ただの陶器のかけらになる。
そのような、人が考えるような「永遠」の虚構性、
嘘、はかなさのようなものなども視野に入れて、
この詩は書かれているのでは?
(フェリス生YY, 201301エッセイ)
* * *
ドラマティックな構成--この詩は、音のない
状態(1-2行のquietness, silence)からはじまり、
壺の絵のなかの歌、音楽が鳴り響き、そして
沈黙(44行目のsilent form)で終わる。
歌、音楽の描写は、壺の絵の世界の魅惑に対応。
「ぼく」がそちらに惹かれているあいだのみ
歌と音楽が聞こえている。意識が醒めてきて
現実に帰ってくると、もう音は聞こえない。
* * *
英文テクストは、Keats, Keats: Poems Published
in 1820, ed. M. Robertson (Oxford, 1909) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23684
(一部修正)
* * *
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このサイトの作者、タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
「ギリシャの壺についてのオード」
1.
君は、いまだ犯されずに残る〈静寂〉の花嫁。
君は、〈沈黙〉とゆっくり流れる〈時間〉の養子。
森の物語を語る者、君は描く、
花いっぱいに飾られた物語を、ぼくたちの詩よりも甘く。
君のまわりで木の葉で縁どられているのは、どんな話?
神々の物語? 人間たちの? それとも両方?
舞台はテンペやアルカディアの谷だよね?
この人たちは誰? どんな神? せまられて嫌がっているこの女の子たちは誰?
誰が誰を狂ったように追ってる? どうして一生懸命逃げている?
笛を吹いているのは、太鼓をたたいているのは、誰? みんな、まさに無我夢中!
2.
音楽は美しい。でも聴こえない音楽は
もっと美しい。だから、笛は静かに鳴りつづけて。
耳に聴こえるようにではなく、もっときれいに、
音のない、心で聴く歌にあわせて鳴りつづけて。
木々の下のすてきな少年、君はずっと
歌いつづけ、この木々もずっと生い茂ったまま。
恋する男、君はけっして、けっして、キスすることができない、
あとほんの少しでできそうだけど--でも悲しまなくていい、
君の恋人は年をとらないから、君の手には入らなくても。
君はずっと愛しつづけ、この子もずっときれいなまま!
3.
ああ、幸せな木々! 葉を散らす
こともなく、春に別れを告げることもけっしてない。
幸せな笛吹き、君は、疲れることなく、
いつまでも新しい曲をいつまでも吹きつづける。
ずっと幸せな愛、この世のものよりずっと幸せな、幸せな愛!
いつでも、いつまでも、あたたかく、心楽しく、
いつでも、いつまでも、息を切らせていて、若々しく--
息をして生きているぼくたち人間の愛より、はるかにいい。
この世の愛は、幸せとともに悲しみももたらす。満たされると嫌になる。
はずかしさで燃えるように顔が赤くなり、舌がカラカラに渇く。
4.
いけにえの儀式に向かうこの人たちは誰?
どんな緑の祭壇に、誰とも知れぬ神の司祭よ、
あなたは導く、空に向かって鳴く牝牛の子を?
絹のようにきれいなその腹を花の輪で飾って?
川や海沿いのどんな小さな町が、
あるいは平和な要塞のある山のどんな町が、
この儀式の朝に空っぽになっているのだろう? この人々が出てきてしまってるのだから。
そんな小さな町よ、君の通りから人の声が聞こえることは、
もう永遠にない。もう誰ひとり帰らない、
君が廃墟のようになった理由を告げる者は。
5.
ああ、古代アテナイの壺! その美しい姿! まわりに
編みこまれているのは、大理石の男たち、女の子たち、
それから森の木々の枝や、足もとで踏まれている雑草。
沈黙したかたちである君、君を見ていると、思考が引き裂かれるよう。
まるで永遠を見ているかのよう。牧場、田園の冷たい歌!
ぼくたちの世代が年をとって滅んでも、
君は残る、ぼくたちと同じように悲しい
別の人たちのあいだに。そして、いうだろう、
美しいものだけが真実、真の意味で存在するのは美しいものだけ--人が
知っているのはこのことだけ、知るべきなのはこのことだけ。
* * *
John Keats
"Ode on a Grecian Urn"
1.
Thou still unravish'd bride of quietness,
Thou foster-child of silence and slow time,
Sylvan historian, who canst thus express
A flowery tale more sweetly than our rhyme:
What leaf-fring'd legend haunts about thy shape
Of deities or mortals, or of both,
In Tempe or the dales of Arcady?
What men or gods are these? What maidens loth?
What mad pursuit? What struggle to escape?
What pipes and timbrels? What wild ecstasy?10
2.
Heard melodies are sweet, but those unheard
Are sweeter; therefore, ye soft pipes, play on;
Not to the sensual ear, but, more endear'd,
Pipe to the spirit ditties of no tone:
Fair youth, beneath the trees, thou canst not leave
Thy song, nor ever can those trees be bare;
Bold Lover, never, never canst thou kiss,
Though winning near the goal―yet, do not grieve;
She cannot fade, though thou hast not thy bliss,
For ever wilt thou love, and she be fair!20
3.
Ah, happy, happy boughs! that cannot shed
Your leaves, nor ever bid the Spring adieu;
And, happy melodist, unwearied,
For ever piping songs for ever new;
More happy love! more happy, happy love!
For ever warm and still to be enjoy'd,
For ever panting, and for ever young;
All breathing human passion far above,
That leaves a heart high-sorrowful and cloy'd,
A burning forehead, and a parching tongue.30
4.
Who are these coming to the sacrifice?
To what green altar, O mysterious priest,
Lead'st thou that heifer lowing at the skies,
And all her silken flanks with garlands drest?
What little town by river or sea shore,
Or mountain-built with peaceful citadel,
Is emptied of this folk, this pious morn?
And, little town, thy streets for evermore
Will silent be; and not a soul to tell
Why thou art desolate, can e'er return.40
5.
O Attic shape! Fair attitude! with brede
Of marble men and maidens overwrought,
With forest branches and the trodden weed;
Thou, silent form, dost tease us out of thought
As doth eternity: Cold Pastoral!
When old age shall this generation waste,
Thou shalt remain, in midst of other woe
Than ours, a friend to man, to whom thou say'st,
Beauty is truth, truth beauty,―that is all
Ye know on earth, and all ye need to know.50
* * *
1
古代ギリシャにつくられた壺(=「君」)がこわれずに残っている
ということ。壺は何もいわない=〈静寂〉と結婚している。
[Q]uietnessは小文字のままだが、おそらくアレゴリー。
1 unravish'd
いろいろな意味が重ねられている。Ravish:
(女性を)強奪する(そして犯す)、死が人を連れ去る(OED 2a)。
地上から天国に連れ去る(OED 3a)。
略奪して奪い去る(OED 4a)。
2
壺が〈沈黙〉と〈時間〉によって育てられた
=何もいわないものとしての壺が2,000年近く保存されてきた。
[S]ilenceとtimeも小文字のままだが、おそらくアレゴリー。
3 historian
物語(story)を語る人(OED 2)。
古代ギリシャの物語だから、歴史historyという意味も
重なっている。
4 flowery
花の装飾がある(OED 5)(壺に)。
表現が華々しい(OED 6)(壺の絵の)。
花々のような(OED 3)(何が、ということなく全体の雰囲気として)。
5-7
主部:
What leaf-fring'd legend Of deities or mortals,
or of both, In Tempe or the dales of Arcady
述部:
haunts about thy shape?
7 Tempe
ギリシャの神々のいるオリュンポス山の近くの谷。
7 Arcady
理想的で楽園的な田園地域。羊・羊飼い・森の神パンがいたところ。
8 What maidens loth
構文は、What maidens [are these who are] loth
[to be seduced, etc.]?
12 soft
(音やメロディが)静かで心地よい(OED 3a)。
ここでは、壺に描かれた笛からは音が聞こえない(、でも聴こえる)
ということ。
14 to
・・・・・・にあわせて(OED, prep, etc., 15b)。
26 warm
(抱きしめあったり、キスしたりすることにより、
こころとからだが)あたたかい(OED 2d)。
愛に満ちてやさしい(OED 12a)。
性欲がある(OED 13)。
27
構文は、
far above All breathing human passion
前置詞がその目的語の後ろにくる構文は、ミルトンの「ラレグロ」
L'Allegro)52などに例がある。
29 high-
いろいろな意味が重ねられていて、あいまいだがニュアンスに富んでいる(と思う)。
形容詞として:
重大な、深刻な(OED 6b)。
豊かな、味わい深い(OED 8a)。
激しい、強い(OED 10a)。
陽気な、気分がもりあがっている(OED 16a)。
酒に酔っていて楽しい(OED 16b)。
副詞として:
とても、強く、高度に(OED 2a)。
豊かに、過度に(OED 2c)。
30 A burning forehead
額は、はずかしさで赤くなるところ(OED 2)。
30 a parching tongue
(おそらく)キスのしすぎで舌が渇いて痛い、ということ。
31-40
このスタンザから、壺の絵のなかに負のイメージの
ものを見るようになる、というところがポイント。
31 sacrifice
いけにえ。死をともなうので負のイメージ。
スタンザ1-3では、壺の絵のなかは死のない、
永遠の世界だった。
34 all her silken flanks with garlands drest
絹とか花とか、いけにえの儀式の前の描写がきれいで
具体的であるほど、その後におこることとが想起され、
両者間の対比が際立つ。
その後におこること:
いけにえの牛のお腹が切られ、内臓がとり出されて焼かれる。
(このときの煙のようすを見て、神がこのいけにえをよろこんで
受けとったかどうかを判断する。)
もちろん、血が流れ、死をともなうので負のイメージ。
いけにえの儀式については、さしあたり大英博物館の
次のページを参照:
http://www.ancientgreece.co.uk/gods/story/sto_set.html
37-40
町が空っぽ、廃墟のよう、というのも当然、負のイメージ。
しかも、永遠に町に人がいない、というのは、壺の絵が
いけにえの儀式の場面で永遠に固定しているからおこること。
つまり、スタンザ1-3の木々や歌や恋愛の描写でたたえられていた
壺の絵の永遠の世界が、ここではマイナス面をもつもの
として表現されている。
41-42
構文は、overwrought with brede Of marble
men and maidens.
41
Attic, attitudeという語の選択は頭韻のためのもの。
([A]ttitude = 絵などに描かれた人の姿勢、という語を、
若干強引に壺全体のかたちにあてている。)
42 marble men and maidens
大理石の男・女の子については、たとえばミロのヴィーナスや
ダビデ像など、古代の白い彫刻を想像すると、雰囲気が
よくわかる。きれいだけど、色がなく、かたく、冷たい感じ。
瞳がなく、生気がない。もちろん、生きていない。
(OED 7bも参照。「白く、かたく、冷たい」。)
43 branches
ポイントは、スタンザ3にある語boughより、branchesのほうが
小さい枝をあらわすこと(OED branch, n1)。スタンザ1-3より、
壺の絵の世界の価値が下がっている。
43 trodden weed
ポイントは、スタンザ1のflowery, leaf-fring'd,
スタンザ3のleavesより、ランクが下がっていること。
美しくない草、雑草。しかも、踏みつけられている。
つまり、スタンザ1-3より、壺の絵の世界の価値が下がっている。
44 tease
・・・・・・の繊維をわける、引き離す(くしなどで)(OED 1a)。
小さな、しかし継続的なかたちで、困らせる、悩ませる(OED 2a)。
キーツの別の詩「J・H・レイノルズに」でも、同様にtease us
out of thoughtといっており、そこでは、「思考や想像力が
みずからの限界を超えつつそのなかにおさまっている、というような、
どっちつかずの、ある種煉獄的な、なんともいえない状態」を
あらわしている。
45 Cold
ポイントは、スタンザ3までは、壺の絵の世界は熱い、
あたたかい、ものだったこと。スタンザ1で狂ったように
女の子を追いかけ、我を忘れて楽器を鳴らし、スタンザ2-3で
永遠に幸せな恋をして、興奮して息を切らしていて、
またスタンザ3でいうように、いつまでも春で。
それが、スタンザ5では冷たく見える、と。
以上、スタンザ4-5において壺のなかの永遠の世界への
憧れが醒めていった後に、もう一度スタンザ1で
描写された絵を見てみる。神か人間かわからない
男たちに、狂ったように追いかけられている女の子たちは、
永遠にそのままでいたいと思うだろうか?
(フェリス生AK, 201301エッセイ)
49-50
いろいろな編者が、引用符で壺の言葉がどこからどこまでかを
示してきているが、オリジナルのもの(Annals of the Fine
Arts 4 [1820])やそれ以前の手稿には引用符がないので、
それを尊重すべきと思う。
Annalsはここに。
http://books.google.co.jp/books?hl=ja&output=text&
id=hV8tAAAAMAAJ
壺の言葉は、最後のknowまでと解釈。Thouとyeの使い分けや、
最後だけこの詩の「ぼく」Iが読者に話しかける、という考えの不自然さ
などから。
加えて、この「美は真理で、真理は美」という壺の言葉を、
この詩全体の内容、つまり、冷たく凍ったかたちで永遠に生きる
ほうがいいか、あるいは遠からずはかなく滅ぶことになっているにしろ、
また幸せがあってもすぐに色あせてしまうにしろ、現実の生を
生きるほうがいいか、という問いに結びつけなくてもいいと思う。
キーツの手紙などから見て、「美は真理で、真理は美」というのは
彼がもともともっていた考えで、ギリシャの壺に関する思考の
論理的帰結として必然的に導かれるものではなさそうだから。
(これらの手紙について、いつか追記。)
「美は真理で、真理は美」という命題と、死と永遠の問題が、
なんとなくつながっているような、でもつながっていないような、
そんなあいまいさがあるから、逆にこの詩は生きている。
死と永遠について思考を刺激して結論を出さず、
さらに、美と真理という、また別の結論の出ない問いを
投げかける・・・・・・。
永遠がいい、とか、現世がいい、という二者択一的で、
道徳的に明白すぎる結末だったら、読者が限定されて
しまったはず。
* * *
考えてみる。実際、壺の絵や大理石のようにかたまって
永遠に生きるほうがいいか、あるいはこの世で(それなりに)
熱く生きて、死んでいくほうがいいか。
キーツのように、23-24歳で、結核にかかっていて、
遠からず死ぬことがわかっていたら? 恋人がいても
一緒になれないことがわかっていたら?
(この詩が書かれたのは1819年。結核の発症は1820年の
はじめだが、1819年を通じてキーツは、体調がおかしい
ことを自覚していた。)
「薄幸の詩人」というようなキーツのイメージは、あまり
正しくない、ともいうが。
* * *
・・・・・・以上のように読んできた上で、ちょっと
冷静に、詩から離れて考えてみる。そもそも壺やそこに
描かれた絵は本当に永遠か?
明らかにちがう。落としたら、ハンマーなどで
たたいたら、かんたんに割れて粉々になり、
ただの陶器のかけらになる。
そのような、人が考えるような「永遠」の虚構性、
嘘、はかなさのようなものなども視野に入れて、
この詩は書かれているのでは?
(フェリス生YY, 201301エッセイ)
* * *
ドラマティックな構成--この詩は、音のない
状態(1-2行のquietness, silence)からはじまり、
壺の絵のなかの歌、音楽が鳴り響き、そして
沈黙(44行目のsilent form)で終わる。
歌、音楽の描写は、壺の絵の世界の魅惑に対応。
「ぼく」がそちらに惹かれているあいだのみ
歌と音楽が聞こえている。意識が醒めてきて
現実に帰ってくると、もう音は聞こえない。
* * *
英文テクストは、Keats, Keats: Poems Published
in 1820, ed. M. Robertson (Oxford, 1909) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23684
(一部修正)
* * *
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