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From Young, Englands Bane

トマス・ヤング
『イングランド破滅のもと』より

一回でも罪を犯せば地獄落ち、と聖パウロはいう。
罪を犯す者は悪魔の一味、と聖ヨハネはいう。
なのにあのどうしようもない人間どもは何なのか。
いや、あれは人間ではない。化け物だ。泥みたいに
酔っぱらって罪に罪を重ねている。プラトンも
いっているが、泥酔というのは頭がたくさんある
怪物みたいなものである。この頭が汚い言葉を吐き、
あれが淫らな行為に耽り、三つめが怒り、四つめが殺し、
五つめが神の名にかけて罵り、六つめが呪う。
醜い怪物の汚らわしい体にこんな頭がいくつも
のっているわけだ。このような者を聖書がお許しかどうか
見てみよう。まず汚い言葉についてはコリント人への
手紙にこう書かれている--「汚い言葉を吐く者、
悪態をつく者が神の王国を受け継ぐことなどありえない」。
エペソ人への手紙第四章でもパウロは命じている--
「腐った言葉を口から吐いてはならない、教え諭す
ような、聞く人に恵みをもたらすようなことを
語らなくてはならない」。そう、わたしたちは
とげとげしいこと、意地悪なことをいうのを
やめなくてはならないのだ。さらにパウロは、
エペソ人への手紙第五章でこういっている--
「汚らしい話や馬鹿話、冗談などもキリスト教徒に
ふさわしくない、たとえほんの少しであってもそうだ」。
だが、どれほどのくだらない汚らしい話、神に対して
失礼な罵倒、清らかならざる不敬な言葉が、
酔っぱらいの口から吐き出されていることか。
神を信じる者の耳にはとてもでないが耐えられない。
まさに心から悲しいかぎり、魂はとまどうばかり、
恐れおののかざるを得ない状態である。

……………………
泥酔の怪物の二つめの頭、すなわち姦淫については、
パウロがコリント人への手紙第六章でこういっている
--「勘違いしないように。姦淫する者、姦通する者、
淫らな者、男同士で交わる者は天の王国に入れない」。
その十五節ではこうである--「知らないのか、
あなたがたの体とは救い主の体であることを。
あなたがたは救い主の体を娼婦の体にしてしまうのか。
姦淫をやめるのだ。他のすべての罪は他に対する罪だが、
姦淫だけは自分の体に対する罪である。知らないのか、
あなたの体とは神から授けられた聖霊の神殿であることを。
そもそもあなたがたはあなたがたのものではない。
救い主が高い代償を払ってあなたがたを取り戻して
くれたのだ。だからあなたがたの体に宿る神、魂に宿る
神を称えなくてはならない。あなたがたの体も魂も
神のものなのだから」。

……………………
聖ペテロもわたしたちにいっている、肉の欲望に耽っては
いけない、それは魂の敵である、と。例の詩人[オウィディウス]
曰く、「ワインは姦淫前の心の準備体操だ」。……
ロムルスは飲酒の悪が性欲につながるのを察知して
法に定めた、女が飲みすぎたら死刑、と。なぜなら、
「飲酒は不倫のはじまり、不特定多数相手の姦淫の
はじまり」だから。聖イエロニムスも同意見である--
「酒飲みが性的に清らかと信じることなど到底できない」。
こう考えたからこそ、ダヴィデ王もウリヤを酒で
酔わせようとしたのである。つまり妻と寝たい気分に
するために。

……………………
さて、泥酔の怪物の三つめの頭は怒りである。これを
プラトンは「瞬間的な狂気沸騰・血の炎上・別人格出現」
と呼んだ。これは復讐に対する欲望、友好の完全放棄であり、
まさに理性的思考の宿敵である。いうことを聞かないこと
荒れ狂う暴君のごとしである。……この悪、つまり
怒りの醜さをはっきり理解したければ、これを抱いた
最初の者、すなわち世界最初の殺人者カインについて
思い出せばいい。……ローマ人に対して聖パウロも
いっている--「神の怒りに任せなさい」(12.19)。
怒りは復讐を求めるものだが、神がおっしゃるとおり、
「復讐はわたしがすることである。わたし自身が報復する」
のであるから。……愛しき救い主も、激怒・憤怒がもたらす
不幸を見てこういわれる--「昔の人々に、殺すな。
殺す者は裁判を受けねばならない、と言われていたことは、
あなたがたの聞いているところである。しかし、わたしは
あなたがたに言う。兄弟に対して怒る者は、だれでも裁判を
受けねばならない」(マタイ5.21-22)。思うにこれはみな
飲酒についていわれたことである。なぜなら、正当な理由なく
怒りを抱く者はいないし、思慮ある者は理由なく怒ったり
しないのであるが、酒飲みは思慮を失ってしまって怒り
狂うからである。思慮を保っているうちは誰だって互いに
愛しあい、仲間としてあたたかく接しあうものである。……

(つづく)

*****
Thomas Young
From Englands Bane (1617, 1634)
STC 26116, 26117

(26116のほうが印刷はきれいだが、
上に訳した部分を含むB2r-B3vが欠けている。)

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