英語の詩を日本語で
English Poetry in Japanese
Marlowe, ("Was this the face that launch'd a thousand ships")
クリストファー・マーロウ(1564-1593)
(「これが、千もの船を海に浮かべ・・・・・・」)
(『フォースタス博士の悲劇』より)
(フォースタス)
これが、千もの船を海に浮かべ、
先の見えないトロイの塔を焼き落とした顔か・・・・・・
美しいヘレネー、キスでわたしを神にしておくれ・・・・・・。
[ヘレネーにキスをする]
おお、魂が吸い出されてしまう・・・・・・ほら、あそこを飛んでいる!
おいで、ヘレネー、さあ、魂を返しておくれ。
わたしはここで暮らそう、天国とはまさにこの唇のこと。
ヘレネー以外、この世に価値あるものはない。
わたしはパリスになろう。そして君のために、
トロイではなく、ヴェルテンベルクを戦場にしてしまおう。
あの弱いメネラオスと一対一で戦うのだ、
おまえの紋章を兜の羽飾りにつけて。
そう、アキレウスのかかとに傷をつけて、
そして、ヘレネーにキスしてもらいに帰るのだ。
ああ、君は夜の空よりきれいだ、
たとえ、それが千もの星で着飾っていても。
君はユピテルの炎より輝いている、
かわいそうなセメレーを焼いてしまった炎よりも。
君は空の君主よりも美しい、
みだらなアレトゥーサの空色の腕に抱かれているときの太陽よりも、だ。
そうとも、わたしが恋人にしたいのは君だけなのだ!
* * *
Christopher Marlowe
("Was this the face that launch'd a thousand ships")
(From The Tragical History of Doctor Faustus)
FAUSTUS.
Was this the face that launch'd a thousand ships,
And burnt the topless towers of Ilium―
Sweet Helen, make me immortal with a kiss.―
[Kisses her.]
Her lips suck forth my soul: see, where it flies!―
Come, Helen, come, give me my soul again.
Here will I dwell, for heaven is in these lips,
And all is dross that is not Helena.
I will be Paris, and for love of thee,
Instead of Troy, shall Wertenberg be sack'd;
And I will combat with weak Menelaus,
And wear thy colours on my plumed crest;
Yea, I will wound Achilles in the heel,
And then return to Helen for a kiss.
O, thou art fairer than the evening air
Clad in the beauty of a thousand stars;
Brighter art thou than flaming Jupiter
When he appear'd to hapless Semele;
More lovely than the monarch of the sky
In wanton Arethusa's azur'd arms;
And none but thou shalt be my paramour!
* * *
フォースタス博士が悪魔メフィストフィリスに頼み、
トロイ戦争を引き起こした絶世の美女ヘレネ―に
あわせてもらう場面。「千もの船を海に浮かべた顔」
(the face that launch'd a thousand ships)
という、今でも使われる表現は、この場面からのもの。
意味は、「究極に美しい顔」、とか。
* * *
1 thousand ships
トロイ戦争のために出撃した船のこと。
ホメーロスの『イリアス』では、これらの船が
カタログ化されている。(xの町からはy人の兵を
乗せた船がz艘・・・・・・というようなことが
延々と語られる。)
2 topless
頂点が見えない、それ以上高いものがない(OED 2a-b)。
OEDは、これらの意味について、「比喩的なもの」としている
(用例はtopless villany, topless divine
benefits, topless deputationなど)が、
ここでは文字通りの高さも意味されているかと。
2 Ilium
トロイのラテン語名。
3 Helen
スパルタ王メネラオスの妻ヘレネ―のこと。最高神ゼウスと
スパルタ王テュンダレオースの妻レーダーの娘。
(ゼウスは、白鳥に化けてレーダーをレイプ・・・・・・
ギリシャ神話の神々のすることはムチャクチャ。)
3 male me immortal
Immortalとは「死なない」ということ。死なないのは
神(や天使)。つまり、ヘレネーとキスができたら、まるで
自分が神であるような気になれる、ということ。
4 it
魂。魂が吸い出されて、ふわふわと宙を舞っている、ということ。
(宙を指さすような演技をするところかと。)
5
ト書き(脚本中の指示)はないが、おそらくこの行の後で
またキスをするはず。また、シェイクスピアの『ロミオと
ジュリエット』のキス・シーンは、この場面の応用版。
---
ロミ
キスでぼくの罪を浄めて・・・・・・(キスする)
ジュリ
あなたの罪がわたしの唇にうつっちゃったわ。
ロミ
それはいけない、その罪を返して・・・・・・(またキスする)
(あー、お腹いっぱい。)
---
8 Paris
トロイの王子パリスがヘレネーを連れ去ったことから
トロイ戦争ははじまった。
9 Wertenberg
1616年版ではWittenbergとなっている。
これはドイツの都市で、ルターが宗教改革をはじめたところ。
L. S. Marcusによれば、Wertenbergとは
WittenbergではなくWirtenberg (Württemberg).
これはルター派よりもさらにラディカルなツヴィングリ派の
反乱などが起こった場所。Unediting the Renaissance:
Shakespeare, Marlowe, Milton (1996),
ch. 2参照。
10 combat
(一対一で)闘う(OED 1)。
11 colours
色つきの紋章(OED 6)
11 crest
兜の頂点の部分、あるいは兜全体(OED 4)。
12
アキレウスはギリシャの英雄。トロイ戦争で活躍。
かかとが唯一の弱点で、それ以外は無敵だった。
16-17
最高神ゼウス/ユピテルと、テーバイ王カドモスの
娘セメレーの話は、オウィディウス、『変身物語』の
第三巻に。
---
1
ゼウスとセメレーの不倫関係を知ったゼウスの妻ヘーラー/ユーノーが
セメレーにいう、「ゼウスに、本当の姿でわたしを抱いて、
と頼んでごらん」。その本当の姿とは、雷と稲妻、光と炎・・・・・・。
2
セメレー「ねえ、ゼウス、お願いがあるの。」
ゼウス「よし、何でも聞いてやるぞ、地獄の川に誓ってもいい。」
セメレー「本当の姿でわたしを抱いて。」
ゼウス「うわ、ちょ、ちょっと待て・・・・・・。」
3
地獄の川に誓ってしまっていたので、ゼウスはセメレーの
願いどおりにせざるをえず、セメレーを抱きながら焼き殺して
しまう・・・・・・。
(いったいどうしたら、こういうストーリーを思いつくのか。)
---
18-19
泉にうつる太陽よりもヘレネーのほうが美しい、ということ。
18 the monarch of the sky
太陽(太陽神アポローン)のこと。たぶん。
19 Arethusa
アレトゥーサの物語はオウィディウス、『変身物語』第五巻に。
---
1
アレトゥーサはニンフで、川の神アルペウスAlpheusに
いい寄られ、追いかけられる。
2
もう捕まる、というときに、アルテミス/ダイアナが
アレトゥーサを泉に変身させて逃げさせる。
3
が、アルペウスは川の神なので、さらに水になって
アレトゥーサを抱こうとする。
4
が、アルテミス/ダイアナがふたり(二つの水)のあいだに
地面を入れて、アレトゥーサをさらに守る。
(いったいどうしたら・・・・・・)
---
18-19
アレトゥーサの腕に抱かれるアポローン、というのは、
つまり、青い泉に映る太陽、ということ。
また、アレトゥーサがみだら、というのは、マーロウが
勝手につけ加えたこと。いい寄ってくる男から逃げるような
タイプの女の子が実はエッチ、みたいなことを、ちょこっと
想像させるため。
* * *
また修正/加筆します。
* * *
英文テクストは、Christopher Marlowe, The Tragical
History of Doctor Faustus, ed. A. Dyceより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/779
(これは、1604年版からのもの。1616年版からのものもある。
URLの最後の番号が811。)
* * *
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剽窃行為のないようにしてください。
(「これが、千もの船を海に浮かべ・・・・・・」)
(『フォースタス博士の悲劇』より)
(フォースタス)
これが、千もの船を海に浮かべ、
先の見えないトロイの塔を焼き落とした顔か・・・・・・
美しいヘレネー、キスでわたしを神にしておくれ・・・・・・。
[ヘレネーにキスをする]
おお、魂が吸い出されてしまう・・・・・・ほら、あそこを飛んでいる!
おいで、ヘレネー、さあ、魂を返しておくれ。
わたしはここで暮らそう、天国とはまさにこの唇のこと。
ヘレネー以外、この世に価値あるものはない。
わたしはパリスになろう。そして君のために、
トロイではなく、ヴェルテンベルクを戦場にしてしまおう。
あの弱いメネラオスと一対一で戦うのだ、
おまえの紋章を兜の羽飾りにつけて。
そう、アキレウスのかかとに傷をつけて、
そして、ヘレネーにキスしてもらいに帰るのだ。
ああ、君は夜の空よりきれいだ、
たとえ、それが千もの星で着飾っていても。
君はユピテルの炎より輝いている、
かわいそうなセメレーを焼いてしまった炎よりも。
君は空の君主よりも美しい、
みだらなアレトゥーサの空色の腕に抱かれているときの太陽よりも、だ。
そうとも、わたしが恋人にしたいのは君だけなのだ!
* * *
Christopher Marlowe
("Was this the face that launch'd a thousand ships")
(From The Tragical History of Doctor Faustus)
FAUSTUS.
Was this the face that launch'd a thousand ships,
And burnt the topless towers of Ilium―
Sweet Helen, make me immortal with a kiss.―
[Kisses her.]
Her lips suck forth my soul: see, where it flies!―
Come, Helen, come, give me my soul again.
Here will I dwell, for heaven is in these lips,
And all is dross that is not Helena.
I will be Paris, and for love of thee,
Instead of Troy, shall Wertenberg be sack'd;
And I will combat with weak Menelaus,
And wear thy colours on my plumed crest;
Yea, I will wound Achilles in the heel,
And then return to Helen for a kiss.
O, thou art fairer than the evening air
Clad in the beauty of a thousand stars;
Brighter art thou than flaming Jupiter
When he appear'd to hapless Semele;
More lovely than the monarch of the sky
In wanton Arethusa's azur'd arms;
And none but thou shalt be my paramour!
* * *
フォースタス博士が悪魔メフィストフィリスに頼み、
トロイ戦争を引き起こした絶世の美女ヘレネ―に
あわせてもらう場面。「千もの船を海に浮かべた顔」
(the face that launch'd a thousand ships)
という、今でも使われる表現は、この場面からのもの。
意味は、「究極に美しい顔」、とか。
* * *
1 thousand ships
トロイ戦争のために出撃した船のこと。
ホメーロスの『イリアス』では、これらの船が
カタログ化されている。(xの町からはy人の兵を
乗せた船がz艘・・・・・・というようなことが
延々と語られる。)
2 topless
頂点が見えない、それ以上高いものがない(OED 2a-b)。
OEDは、これらの意味について、「比喩的なもの」としている
(用例はtopless villany, topless divine
benefits, topless deputationなど)が、
ここでは文字通りの高さも意味されているかと。
2 Ilium
トロイのラテン語名。
3 Helen
スパルタ王メネラオスの妻ヘレネ―のこと。最高神ゼウスと
スパルタ王テュンダレオースの妻レーダーの娘。
(ゼウスは、白鳥に化けてレーダーをレイプ・・・・・・
ギリシャ神話の神々のすることはムチャクチャ。)
3 male me immortal
Immortalとは「死なない」ということ。死なないのは
神(や天使)。つまり、ヘレネーとキスができたら、まるで
自分が神であるような気になれる、ということ。
4 it
魂。魂が吸い出されて、ふわふわと宙を舞っている、ということ。
(宙を指さすような演技をするところかと。)
5
ト書き(脚本中の指示)はないが、おそらくこの行の後で
またキスをするはず。また、シェイクスピアの『ロミオと
ジュリエット』のキス・シーンは、この場面の応用版。
---
ロミ
キスでぼくの罪を浄めて・・・・・・(キスする)
ジュリ
あなたの罪がわたしの唇にうつっちゃったわ。
ロミ
それはいけない、その罪を返して・・・・・・(またキスする)
(あー、お腹いっぱい。)
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8 Paris
トロイの王子パリスがヘレネーを連れ去ったことから
トロイ戦争ははじまった。
9 Wertenberg
1616年版ではWittenbergとなっている。
これはドイツの都市で、ルターが宗教改革をはじめたところ。
L. S. Marcusによれば、Wertenbergとは
WittenbergではなくWirtenberg (Württemberg).
これはルター派よりもさらにラディカルなツヴィングリ派の
反乱などが起こった場所。Unediting the Renaissance:
Shakespeare, Marlowe, Milton (1996),
ch. 2参照。
10 combat
(一対一で)闘う(OED 1)。
11 colours
色つきの紋章(OED 6)
11 crest
兜の頂点の部分、あるいは兜全体(OED 4)。
12
アキレウスはギリシャの英雄。トロイ戦争で活躍。
かかとが唯一の弱点で、それ以外は無敵だった。
16-17
最高神ゼウス/ユピテルと、テーバイ王カドモスの
娘セメレーの話は、オウィディウス、『変身物語』の
第三巻に。
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1
ゼウスとセメレーの不倫関係を知ったゼウスの妻ヘーラー/ユーノーが
セメレーにいう、「ゼウスに、本当の姿でわたしを抱いて、
と頼んでごらん」。その本当の姿とは、雷と稲妻、光と炎・・・・・・。
2
セメレー「ねえ、ゼウス、お願いがあるの。」
ゼウス「よし、何でも聞いてやるぞ、地獄の川に誓ってもいい。」
セメレー「本当の姿でわたしを抱いて。」
ゼウス「うわ、ちょ、ちょっと待て・・・・・・。」
3
地獄の川に誓ってしまっていたので、ゼウスはセメレーの
願いどおりにせざるをえず、セメレーを抱きながら焼き殺して
しまう・・・・・・。
(いったいどうしたら、こういうストーリーを思いつくのか。)
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18-19
泉にうつる太陽よりもヘレネーのほうが美しい、ということ。
18 the monarch of the sky
太陽(太陽神アポローン)のこと。たぶん。
19 Arethusa
アレトゥーサの物語はオウィディウス、『変身物語』第五巻に。
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1
アレトゥーサはニンフで、川の神アルペウスAlpheusに
いい寄られ、追いかけられる。
2
もう捕まる、というときに、アルテミス/ダイアナが
アレトゥーサを泉に変身させて逃げさせる。
3
が、アルペウスは川の神なので、さらに水になって
アレトゥーサを抱こうとする。
4
が、アルテミス/ダイアナがふたり(二つの水)のあいだに
地面を入れて、アレトゥーサをさらに守る。
(いったいどうしたら・・・・・・)
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18-19
アレトゥーサの腕に抱かれるアポローン、というのは、
つまり、青い泉に映る太陽、ということ。
また、アレトゥーサがみだら、というのは、マーロウが
勝手につけ加えたこと。いい寄ってくる男から逃げるような
タイプの女の子が実はエッチ、みたいなことを、ちょこっと
想像させるため。
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また修正/加筆します。
* * *
英文テクストは、Christopher Marlowe, The Tragical
History of Doctor Faustus, ed. A. Dyceより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/779
(これは、1604年版からのもの。1616年版からのものもある。
URLの最後の番号が811。)
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学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
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