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ノート:イギリス詩における感情表現の歴史

ノート:イギリス詩における感情表現の歴史

基本的に表に出されない・出すべきではない
私的な考えや感情はどのように表現されてきたか

I. 16世紀
1. 古典やルネサンス文学の翻訳・翻案
古典やイタリアのソネットなど、先進的文化の
産物として権威ある作品の翻訳・翻案というかたちで、
加えて(・あるいは)その行間において、
私的な考えや感情が表現された。

(同様に、聖書の翻訳も別種の権威として私的感情の
表現手段として用いられた。)

往々にしてソネットは恋愛表現の実験の場であって、
そこに詩人の私的な恋愛感情を見るのは困難。
(が、逆に文学史的には、このような実験をこえて
私的感情の存在が感じられる作品が評価されてきた。
シドニーの『アストロフェル』やシェイクスピアの
「黒い貴婦人」ものなど。)

2. 虚構
(たとえば、セネカ悲劇の場合)
セネカという哲学的権威による悲劇の翻訳・翻案、
あるいはその発展版としての自作演劇作品のなかの、
登場人物を通じて種々の、往々にして負の感情の
表現が試みられた。


II. 17世紀
1. 古典の翻訳・翻案
先進的文化の産物として権威ある古典作品の翻訳・
翻案というかたちで、加えて(・あるいは)その
行間において、自分の考えや感情が表現された。

ジョンソン:ホラティウス、マルティアリス
ヘリック:ホラティウス、アナクレオン
カウリー:アナクレオン、ピンダロス、ホラティウス

(同様に、聖書の翻訳も別種の権威として私的感情の
表現手段として用いられた。)

2. オード
1のなか、構文的・意味的に不明確になってしまうほど
高ぶりもりあがる内容をもつピンダロスのオードの導入により、
私的感情・思索の表現の可能性が広がった。特に、カウリーの
ピンダロス風オードの影響が決定的。

3. 宗教詩
生きることに対する不安・不満・悲しみなど、負の感情を
堂々と表現できるジャンルとして聖書翻訳から発展。

4. ピューリタンの日記・手記
3と同様、宗教的な私的生活・思索を語れる散文ジャンル
として発達。

5. 虚構
演劇の登場人物を通じて。

6. ミルトンのソネット
ミルトンがソネットにおいて私的生活・思索を語りはじめる。
『失楽園』などの大作があるためキリスト教詩人として
みなされがちなミルトンだが、ダン、ハーバート、クラショー、
ヴォーンらが書いたような上記3の類の宗教詩をほとんど
書いていないことがむしろ特徴的。(聖書の翻訳はある。)


III. 18世紀
1. オード <--> ポウプのエッセイや諷刺
ピンダロス風(本物、およびカウリー流のものの両者)、
およびホラティウス風、いずれも多く書かれた。
呼びかけられる対象、扱われる題材の幅も広がった。

2. 小説
初登場人物の考えや感情を探り、表現する実験。
特に書簡体小説。(翻案だがポープの『エロイーザ』
もここに含まれる。)


IV. ロマン派
1. 直接的な感情表現の出現
ワーズワース:ミルトン的な思索、自分史
コールリッジ:負の感情
バイロン:悪く(本当はそんなに悪くない)、悲しく、美しい自分
シェリー:理想と絶望
キーツ:絶望・逃避と現実認識

宗教や虚構という枠組みなしで自己の感情を語ることが
可能になった。宗教詩が世俗詩に吸収された、という
言いかたもできるか。

2. 古典のメロドラマ化
ランドーの『架空の対話』など。


V. ヴィクトリア朝
1. 負の感情表現
表現される感情がロマン派よりもさらに負・
頽廃の方向へ。
テニソン、D・G・ロセッティ、(ハーディ)

2. 劇的独白

3. 小説の発達
前向きな感情は詩より小説に顕著(?)


VI. モダニズム以降(特にアメリカ詩)
1. 感情表現の回避、あるいは間接的表現への回帰
イマジズム、ハード・ボイルド、その他

2. 間接的感情表現のありかたの変化
(教養がある人であれば)誰でも知っている、
共有知的財産としての古典のようなものではなく、
より個人的な比喩やイメージが用いられることが
多くなった。

これは、ロマン派以降の過剰な感情表現を避けた
結果であると同時に、ある意味でまさにロマン派的な
現象でもある。往々にして、詩が、詩人個人への関心・
共感がなければわからない・おもしろくないものに
なった。


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