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From Shakespeare, Venus and Adonis

ウィリアム・シェイクスピア
『ウェヌスとアドニス』より

真っ赤な顔の太陽神アポロンが去ってしまって
夜明けの女神アウロラが泣いている、まさにそんなとき、
薔薇色の頬の少年アドニスは馬に乗って狩りに行く。
彼は狩りが好き。恋愛にはまるで興味がない。
ウェヌスはそんな彼が好きで好きでしかたがない。だから全速力で
走ってきて、そして大胆に、こう口説きはじめる。

「あなた、あたしよりずっときれい。
野原でいちばんきれいな花。比類なき存在。
あなたを見ればニンフも自分が恥ずかしくなる。人間を超えてる。
鳩より白くて薔薇より赤い。
あなたの母の〈自然〉もこういってる、
あなたが死ぬときがこの世の終わり、って。」

「ね、お願い、奇跡みたいなあなた、馬から降りて。
高ぶる馬を止めて、頭を鞍に結んで。
お願いを聞いてくれたら、ご褒美として
蜂蜜みたいに甘い秘密をたくさん教えてあげる。
こっち来てすわって。蛇とかいないから平気。
ね、すわって。たくさんキスして息を止めてあげる。」

「大丈夫、飽きさせたりしないから。
逆よ。キスすればするほど、唇が飢えてくる。したことないような
いろんなキスをしてあげる。熱いのとか、くらくらするのとか、
短いのを十回連続とか、二十回分の長いのを一回とか。
夏の一日なんて、一時間みたいにあっという間。
楽しく遊んで無駄に過ごしましょ。」

こういってウェヌスはアドニスの手をつかむ。
彼の手は汗ばんでいた。汗とは命と力の証。
欲望に打ち震えつつ彼女はいう--この汗は魔法の水、
人体がつくる最高の薬、女神の病気だって治してくれる……。
こうして我を忘れ、欲望のなすがままに彼女は
思い切ってアドニスを馬から引きずりおろす。

若くて鼻息荒い馬の手綱の下から片腕を入れ、
もう片腕で美少年を抱きかかえる。
アドニスは顔を赤らめてご機嫌ななめ。まるで興味ない。
鉛のように心が重く、遊ぶ気なんてまるでなし。
ウェヌスは赤く燃えあがる。炎のなか赤熱する石炭のよう。
アドニスも赤い。でもそれは恥ずかしいから。心は凍っている。

ウェヌスは鋲つきの手綱をごつごつの枝に
器用に結ぶ。そう、恋はとてもせっかちだから!
こうして馬を木につなぎ、さあ今度は
馬に乗ってた子をあたしにつなぐ番!
ウェヌスはアドニスを押し倒す。本当は自分がされたいように。
彼のからだを制圧する。心までは無理だけど。

あっという間にアドニスは引き降ろされ、隣同士、
ふたりは横になっていた。
ウェヌスは彼の頬を撫でる。彼は嫌がる。
もう、やめ……ん!!! アドニスの口をキスでふさいで
ウェヌスはささやく。興奮して、とぎれとぎれに。
怒るんだったら……もう口……離してあげない……。

アドニスは恥ずかしくて顔に火がつきそう。ウェヌスは涙を注いで
その炎を消す。処女みたいでかわいい子……。
次に彼女はため息の嵐と金の髪から
送る風で彼の頬を乾かす。
彼はいう、今度は何? やめ……
またキスで言葉が殺された。

断食でギリギリまで飢えた鷲は
獲物の羽と肉と骨を突っつきまくり、
からだを揺らしながらすごい勢いで貪り食う。お腹いっぱいに
なるまで、または全部平らげてしまうまで止まらない。
ウェヌスも同じ。彼女はアドニスの額と頬と口をキスで貪る。
順番にキスしていって、終わったらまた最初から。

嫌々幸せな気分になって、でも心は抵抗したまま
横たわり、アドニスはウェヌスの顔に息をはあはあ浴びせる。
彼女はその蒸気をまた獲物のように貪る。
ああ、これは天の潤いの贈りもの……恵みの香り……
あたしの頬の花園に
あなたの息のシャワーで露が降りてくる……素敵ね。

あらま! まるで網にとらえられてからまった鳥のように
アドニスもウェヌスの腕にとらえられてからまっている。
恥ずかしくて恐くて嫌で、だから彼は怒っている。
もともと美少年なのに怒っていてますます美少年。
もともと大きな川に雨が降り、
水が岸からあふれるのと同じ?

(つづく)

*****
William Shakespeare
From Venus and Adonis

EVEN as the sun with purple-colour'd face
Had ta'en his last leave of the weeping morn,
Rose-cheek'd Adonis hied him to the chase;
Hunting he lov'd, but love he laugh'd to scorn; 4
Sick-thoughted Venus makes amain unto him,
And like a bold-fac'd suitor 'gins to woo him.

'Thrice fairer than myself,' thus she began,
'The field's chief flower, sweet above compare, 8
Stain to all nymphs, more lovely than a man,
More white and red than doves or roses are;
Nature that made thee, with herself at strife,
Saith that the world hath ending with thy life. 12

'Vouchsafe, thou wonder, to alight thy steed,
And rein his proud head to the saddle-bow;
If thou wilt deign this favour, for thy meed
A thousand honey secrets shalt thou know: 16
Here come and sit, where never serpent hisses;
And being set, I'll smother thee with kisses:

'And yet not cloy thy lips with loath'd satiety,
But rather famish them amid their plenty, 20
Making them red and pale with fresh variety;
Ten kisses short as one, one long as twenty:
A summer's day will seem an hour but short,
Being wasted in such time-beguiling sport.' 24

With this she seizeth on his sweating palm,
The precedent of pith and livelihood,
And, trembling in her passion, calls it balm,
Earth's sovereign salve to do a goddess good: 28
Being so enrag'd, desire doth lend her force
Courageously to pluck him from his horse.

http://www.gutenberg.org/ebooks/1045

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