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デヴィッド・グレーバー 『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』  「国家を考える」ノオト その15 

2021-03-14 13:59:52 | Weblog

「紀伊國屋じんぶん大賞2021」が発表された。大賞『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(デヴィッド・グレーバー著 岩波書店)、第2位『人新世の「資本論」』(斎藤幸平著 集英社新書)、第3位『独学大全―絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』(読書猿著 ダイヤモンド社)。未だかつて無かったことだが3冊とも僕が最近読んだ本に含まれているのだ。喜ぶべきか、悲しむべきか。偏屈な僕は、凡庸になってしまったなと反省する。

 

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(デヴィッド・グレーバー著 岩波書店 2020年刊) 「国家を考える」ノオト その15

昨年7月に発刊され、手元にあるのは9月の第5刷なので売れているようだ。残念なことに1961年生まれでまだ若いにもかかわらずグレーバー氏は、9月に亡くなってしまった。

本書の特徴は、皆が薄々感じながらもこれまでに誰も正面から指摘してこなかった観点を鋭く突いた点にある。それは、仕事に対するやりがいと待遇とのアンバランスである。一見華やかに見えて報酬も良いが、実は社会にとってブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)で当事者もやりがいが感じられない仕事。著者が例示しているのは、人材コンサルタント、コミュニケーション・コーディネーター、公報調査員、財務戦略担当、企業の顧問弁護士といった仕事である。(日本の職業名とは異なる。)一方、社会にとってなくてはならない、また人びとのケアにつながる仕事ほど、やり甲斐は大いに感じられるが待遇が悪いという現状、著者の問題提起がここにある。

では、著者が紹介している例には取り上げられていないが、この国の現在の社会情況を見渡すと誰しもが思い至るであろうことが以下のとおりである。すなわち本書の応用編である。一例としては、一部の高級官僚と政治家たちがクソどうでもいい仕事をやって高額な給与をもらっている現実がある。官僚たちは、本来は国民のために政策形成をしなければならないはずである。しかし、(前、現)首相の家族が関わったえげつない行動を表沙汰にしないために、官僚たちが忖度、行政文書の改竄、国会での虚偽答弁などを重ねている姿がある。また、政治家自身も近しい人のために依怙贔屓をするというような、行政の公平性をゆがめる行動をしている。グレーバーに言わせれば、こいつらがやっていることは典型的なブルシット・ジョブだということになる。

参考までに、キャリア官僚たちの年俸がテレビで紹介されていたので示す。(係員 22歳年収350万円、係長 20代後半 500万円、課長補佐 30代 750万円、課長 40代 1200万円、審議官 50代前半 1500万円、局長 50台半ば 1800万円、事務次官 50代後半 2300万円)

一方、このコロナ禍にあって、日々目の前の国民と向き合っている保健所、地方自治体、医療・介護・福祉現場で働いている人達。彼らの仕事はエッセンシャルワークという言葉で表されているが、はたしてその労苦に見合う待遇を受けているだろうか。否、さらにもっと多くの職種の人たちが感染リスクにさらされながらも休むことができずに低い給与で働いている。

以上は、オーソドックスな読み方だろう。僕には少し残念な点がある。グレーバーは、国家を取り巻く権力は極力弱い方が良いと考えているのだろうが、国家権力を支えているだろう具体的な仕事についての分析がないことだ。例えば思いつくままに、国家官僚、国会議員、自衛官、裁判官、検察官、国税調査官、労働基準監督官・・まさに国家権力を形成している人達である。彼らの仕事は、ブルシット・ジョブなのか、エッセンシャルなのか。また、国家権力と一体でなければならないのか。例えば、地方裁判所だけではこと足りないのか。国家という概念が世界中において無くなれば軍隊は不要になるのか。

少し現実に目を移すと、コロナ禍においてこれまで国は何をしてきたのだろうか。否、絶対に国でなければできない仕事はあったのだろうか。体調不良者からの聞き取り、PCR検査、入院、治療、各種給付金の支給、ワクチンの接種という各種の業務の遂行。地域ごとに感染情況が異なるため緊急事態宣言の発出の全国一律で行うことに意味があるのだろうか。・・結局、国は何から何までを地方や現場に丸投げしてきた。また、全く何も国民のために機能していないことが見えてきた。(国債を発行して日銀が発行した通貨を財源にしていることを除く)

国家権力を否定し、国家を廃絶しても生きてゆける、その方が良いと思える道筋を描くためには、国に関わる仕事をブルシット・ジョブであると理論建てすることが必要だと考える。はたしてできるだろうか。

 

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