チムどんどん「明石通信」&「その後」

初孫との明石暮らしを発信してきましたが、孫の海外移住を機に七年で区切りに。現在は逗子に戻って「その後」編のブログです

「おむすび」と「おにぎり」

2009-06-25 16:24:33 | ことば・あれこれ
6月25日(木)

 先日、広島へ出向いた時、姫路で新幹線に乗り換えようとコンコースに下りたところ、こんなお店がありました。
   
 おむすび屋さんです。最近は、コンビニでもどこでも「おにぎり」と言うのが一般的なので、ちょっと目にとまりました。
 そして、かつて広島の「むさし」というお店で、やけに大きい三角おむすびを食べた思い出が蘇ってきました。

 そんなことがあって、広島でマツダスタジアムへ行く前に「むさしおむすび」の店に寄ってみました。
  大通り店
  

  球場にもありました。
  

 おかずも入った詰め合わせもいろいろありますが、特大の三角おむすびが私の思い出です。たしか、一辺が15センチぐらいの大きさで3種類の具が入っていたと記憶していました。
 球場からの帰りに居酒屋にでも行こうと思っていたので、試合が始まる前の腹つなぎ用に買いました。
  「山賊むすび」450円
  

 昔の思い出がふくらみ過ぎていたのか、思ったよりは小さく(それでも一辺は優に10センチ以上)、具は昆布と鮭の二種類でした。店員に聞いたところ、「昔のことはわかりませんが、具は以前から二種類だと思います」との返事でした。


    山賊も浴衣の客もむすび顔   弁人


 さて、今日の本題です。

 広島では「おにぎり」のことを「おむすび」と言うのかなとちょっと興味深い。コンビニを覗いてみると、やはりどこにでもあるあの三角形のは「おにぎり」でした。でもその隣に「むさし」のではありませんでしたが、「山賊おむすび」というのも並んでいました。
 翌日の午前中、町を歩きながら、呼び方について何人かの人、駅の売店のおばさんや「むさし」の店番の人、コンビニの店員さんなどに聞いてみました。

 どっちでもいいという人もいましたが、考え込んでくれる人もいました。苦しまぎれの答えもあるでしょうが、言い方の違いについて次のような答えがありました。
 1、むさしのは「おむすび」で、コンビニのが「おにぎり」。
 2、どっちがどっちだかわからないが、たわら型と三角形の違い。
 3、広島では「おむすび」と言う人が多いが、ふつうは「おにぎり」じゃないか。

 印象では、「おむすび」という言い方を好んでいるのは女性のほうに多いような気がしましたが、おおまかに言えば、みなさんよくわからないというところでしょうか。

 「もともとの意味とか由来とかは気になるけれど、実際に世の中で通用していれば、それはすでに正しいことばである」
と私は思っていますので、どちらの言い方とも身の回りにある以上、どう言おうが問題はありません。現に、「おむすび専門店」と名告るお店のウインドウに「こだわりのおにぎり」というのが並んでいる例もあるのです。本屋で「おむすびころりん」の絵本を見ていたら、「おじいさんがにぎり飯を出して云々」という記述もありました。

 しかし、どうでもいいというのではブログの話題にならないので、今回はこだわって調べてみたところ、諸説紛々。以下、いくつかの説を記します。

 1、もともとは「おにぎり」。宮中の女房言葉の中で、より上品で丁寧な言い方として「おむすび」という言葉が生まれた。

 2、天地開闢の際に現れた、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)、神産巣日神(かみむすびのかみ)の三柱の神の、あとの二柱の神に共通する「産巣日」という言葉に由来し、その神の力を授かるために米を山型(神の形)にかたどったのが「おむすび」の始まりである。「おにぎり」は形を問わず単にご飯を握って作ったもの。

 3、昔からおにぎりには「鬼を切る」という意味もあり、魔よけの効果があると言われ、鬼退治に握り飯を投げつける民話もある。

 4、言葉の説明ではないのですが、2000年4月の西日本新聞の「目指せおにぎりの鉄人」という記事の中に「九州を含め関西以西はおにぎり、東はおむすびと呼ぶ地域が多い」という解説が。

1について
 接頭語の「お」を取って「にぎり飯」と言うと、たしかに男っぽい響きがありますが、「お」を付ければ女性の言葉として違和感はなさそうです。また「きる」が忌み詞とも考えられますが、「握り」という単語から「切り」を連想するかどうか、ちょっと疑問です。

2について
 「産巣ぶ」は「造り出す」という意味を持っていて、神聖な食べ物として「むすび」という言い方はあるかもしれません。

3について
 「お」が接頭語であることを考えれば、「鬼」という語呂合わせはどう考えても後から発想したものとしか考えられず、こじつけっぽい。

4について
 根拠が不明。むさしのおむすびがいつから売られたのかわからないので何とも言えませんが、広島では「おむすび」と呼ぶ傾向が強く、自動車のマツダではロータリーエンジンの三角形の部分を「おむすび型」と称しているとか。また、「天むす」というおむすびは名古屋で生まれたそうですが、こちらは50年以上前からあるとのこと。そう、冒頭のように姫路にもありましたし。そして、
  明石のスーパーでも
  

 気をつけていると「おむすび」の呼称は関西にもけっこうあるのです。


〔私 見〕
 「拳を握る」「手に汗を握る」「(相手の)手を握る」「赤ちゃんがにぎにぎする」。やはり「握る」は片手の動作です。
 対して、「結ぶ」は「(二人が)結ばれる」「(両国が)手を結ぶ」「紐を結ぶ」というように、二つのもの、つまり手で言えば両手の動作でしょう。

 両手でしっかりと形作るものであるとするなら「おむすび」だと思います。機械が作って量販されるのはどっちでもいいのかもしれません。
 ちなみに、江戸前の寿司を「にぎり」と言います。片手でシャリの形を整えてもう片方の手でネタをのせる。つまり基本的には片手の動作なのかもしれません。だから「にぎり」か。

 したがって、私は「おむすび」派です。「おにぎり」という呼称が席巻している現状をちょっと残念に思っていたので、今回の発見は少しうれしいのです。

  昔話の絵本の表紙
     

 この世界では「おにぎりころりん」という題名は存在しません。


    緑陰やおむすびころりん聞かせたし   弁人


※ 余談
 今では本がありますが、昔話は本来「語り聞かせる」ものです。当然ながら、語り手の舌の回りによって話は変形します。本になっても同じで、何冊かを読み比べてみると微妙に違っています。
 でも、変えてはならない部分が必ずあるのです。これを「話核」とも言います。
 語り継がれる中で「話核」を支えてきた重要な要素が「うた」です。「おむすびころりん」の場合、穴の中でねずみが唄う歌は不可欠なのです。歌詞の記述のない絵本は買わないほうがいいでしょう。
 他にこの話で大事な要素。善良なお爺さんのあと欲張りなお爺さんが登場すること。そして、欲張り爺さんが猫の鳴きまねをしてねずみが消え、真っ暗の土の中でモグラになってしまうことです。
 このように、昔話にはその話が原型に忠実かどうかチェックしなければいけない部分があります。それ以外の部分は語り手や書き手が自由に脚色していいのです。
 「おにぎり」は「鬼を切る」ものだからということで、桃太郎の「きび団子」を「おにぎり」に変えてしまうのは、もし「きび団子」に意味があるとすれば考えものです。追加するぐらいが無難です。

 童心社の昔話の絵本は、私が尊敬する松谷みよ子氏のものですが、おむすびを転がして穴に入るのがお婆さんになっています。あとがきに、西の地方でお婆さんを主人公とする話が伝承されていて、それをもとにしたと書かれていますが、もしKAZUに絵本を買うとしたら、やはりお爺さんのものにしたいと思いました。



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