チムどんどん「明石通信」&「その後」

初孫との明石暮らしを発信してきましたが、孫の海外移住を機に七年で区切りに。現在は逗子に戻って「その後」編のブログです

伝説の試合?も生まれた高校軟式野球(3)

2014-09-05 13:37:43 | スポーツ観戦等
9月5日(金)

 今回は、私の地元から明石にやって来て、惜しくも準優勝に終わった三浦学苑高校の戦いぶりを紹介します。題して、「すっかりかすんでしまった三浦学苑の大健闘」です。

 明石にいる時間を除けば、世帯を持ってから40年余り逗子で暮らしていて、勤め先も横須賀での16年を含めて26年間三浦半島の学校でした。

 さて、三浦学苑高校。私が横須賀に勤めていた頃は「三浦高校」と言っていましたが、最寄り駅が同じで、仕事を通じてお世話になった先生方も何人かおられる親しみのある学校です。
 特に、硬式の野球部は近くのライバル校で、勝ったり負けたり、いろいろな思い出があります。

 その学校の軟式野球部が全国大会初出場を果たし、明石にやって来ると聞いて、どんなチームなのかとても楽しみにしていました。

 ところで、私が横須賀の高校にいた頃、「全国の人口30万以上の都市で、甲子園出場校を輩出していないのは横須賀市だけ」ということをよく耳にしました。都市の近郊が開発されたり、昨今の市町村合併などで、人口動態も変化しているのかもしれませんが、たしかに、人口40万を超えている横須賀市からは、まだ甲子園出場校が一校もありません。隣接する逗子市や三浦市や葉山町からもありませんので、話を三浦半島全体に拡大しても同じことです。
 そして、今回で59回目の「全国軟式野球」、過去の神奈川代表を調べても、三浦半島からは一校もありません。

 二日目の26日。
  球場に貼られた横断幕
  

 とうとうやって来ました。高校野球で初めて三浦半島から全国大会へ出場する三浦学苑です。

 初戦の相手は、愛媛から来た四国代表の新田高校。16回目の出場で、最近では2010年と昨年の2013年に準優勝をしている強豪です。
 初出場校としては、相手が少々手ごわそうですが、三浦学苑だって、昨年の優勝校の横浜修悠館を神奈川県大会の決勝で破り、その後の南関東大会も勝ち抜いて来たわけですから、名前負けせずに自分たちの野球をしてほしいと願っていました。

 序盤、リードを許すも・・・
  延長戦に
 

 やはり、初戦の緊張感からか、エース櫨(はし)君、制球定まらず、無駄なランナーを出して2点先制されました。
 「これはあかん」と思っていたら、先制されて選手の力が抜けたのか、ランナーが足でかき回して中盤に追いつきました。
 延長戦に入って、どういう展開で全国大会での記念すべき一勝をもぎ取ったのか、スコアボードの写真はありませんが、その劇的な逆転勝ちを以下に記します。

 終盤から延長戦にかけて、しばらく膠着状態の投手戦になりましたが、12回表に内野手のエラーで1点献上。さらに1アウト満塁のピンチになり、これで万事休すか、さっきのプレーが痛恨のエラーになってしまうのかと、保育園に行く心の準備をしていると、櫨君がスリーバントスクイズを外してダブルプレー。
 実は、これが大きかった。延長戦になると、ある意味精神戦です。そこで、先制したほうの新田ナインが「しまった」と思い、最少失点とはいえ、本当は崖っぷちの三浦の選手がハイタッチでベンチに戻って来るのですから。
 そして12回裏の逆転劇です。先頭が四球。バントで二塁へ送った後、盗塁で三塁へ進み、プレッシャーをかけて内野エラーを誘い同点。四球で一・二塁になったところでキャプテン山浦君がレフト前に運び逆転サヨナラとなりました。

 こういう勝ち方をする三浦の選手たちは頼もしい限りですが、見ていると、私には「負けてもともと」という雰囲気が見えて仕方がありませんでした。ランナーのリードが大きく、牽制でアウトになっても怯む様子が全くない。アウトになったらそれまでとばかり思いっきり良く走る。この積極的な野球、他のチームには見られません。なかなか点が入らない軟式野球を足で攪乱して点をもぎ取るという、見ているとヒヤヒヤしますが、決まると実に爽快な野球です。もしかすると、結果を恐れず自分たちの野球を貫いている三浦の選手たち、櫨君もなかなかの好投手なので、旋風を巻き起こしそうな気配を感じました。

 翌日の二戦目は、高砂球場で地元の神港学園と対戦しましたが、この試合でも信じられないことが起こりました。1-1で延長戦へ突入。10回表に前日と同様1点先制された後の裏、連続死球などで2アウト満塁のチャンスをもらい、またもや主将の山浦君が今度はレフトの頭上を越える逆転サヨナラ打を放ったのです。

 いや、「・・・とのことです」といったほうが正解。実は、この日も明石球場で中京と福岡大大濠が勝った二試合を見ていて、高砂には行きませんでした。
 この日も勝てば、翌日明石に戻って来るし、対する神港学園も強そうで、負けるとしたら、「足を封じられて・・・」ということになるのだと思っていました。

 きっと、負けを恐れず伸び伸びとしたプレーができているのでしょう。二試合連続、延長で先制された後の逆転サヨナラですから、さすがに、こちらの新聞でもそれなりの記事になっていました。それに、相手が神戸の学校だったので、地方版を開くと、最後のところの経過もだいたいわかりました。
 二試合連続サヨナラ打の山浦君。前日の逆転打がレフト前でしたから、おそらく神港学園のレフトが浅めに守っていたのだと思います。それにしても、勝負どころでその頭を越える一打を放つとは、恐れ入ります。

 さて、次は準決勝。第一試合で、中京と崇徳が延長15回まで0行進に終わった後でした。相手は、作新学院と南部高校を連破した福岡大大濠です。
 しかし、三浦学苑強し。延長継続になった二チームの投手もなかなかですが、櫨君も負けてはいません。時々四死球を与えますが、球の伸び、スライダーの切れ、ともに素晴らしい。最終回に連打を浴びてヒヤッとしましたが、あとはほぼ完璧でした。攻撃は、今日も足でかき回し、三盗したランナーをエンドランの内野ゴロで先制、次の回も三塁に走者を置いて、相手内野手がもたつく間に1点取りました。

 ここへ来て、
  2-1で勝つのもなかなかのもの
 
  

 ただ、今日の福岡大濠のキャッチャー、三浦の選手の走るタイミングをよく研究していたようで、何回かウエストして盗塁を刺しました。二塁ランナーの牽制死もあり、もったいない感じもしましたが、これが三浦学苑の持ち味なので仕方ありません。

 いずれにしても、あとは決勝戦のみ。この勢いで一気に頂点を・・・というところで、ご承知のように、とんでもないことになりました。

 決勝が行われるはずだった翌金曜日も、そして土曜日も、スタンドから決勝の相手を決める長い長い0行進の試合を眺めているだけだったのです。じれったいけれど仕方ありません。
 すっかり秋らしくなった青空のもと、レフトスタンドの向こうに映える明石城の二つの櫓。そんな光景が三浦半島からやって来た若者たちの青春時代の、ある夏の思い出に残っていくのでしょうか。決勝戦への集中力を保ち続けるのは大変だったに違いありません。

 そして、日曜日の10時過ぎ。ようやく相手が決まり、その二時間後に決勝戦が行われることになりました。

 誰が考えたってかわいそうです。誰が?、もちろん木曜から日曜の午前中まで四日間で700球近く投げてきた中京の松井投手です。決勝戦にも登板するのでしょうか。彼がもう投げられないとすれば・・・。
 すぐそばにいたおっちゃんが「こんな不公平な決勝戦はないやろう、どう考えたって、三浦学苑のほうが有利やないか」と言いました。そして、「こうなったら、中京を応援するしかあらへん」と。これ、延長50回の死闘を見てきた人なら、誰でもがそう思う自然な気持ちなのです。

 やはり、決勝戦は日を改めてやるべきだと思いました。これでは、かわいそうなのは中京高校だけではありません。勝って当たり前という状況の中で、多くの観客が相手校を応援する異様な雰囲気の中で戦う三浦学苑の選手もかなりかわいそうです。

 「世の中、温室だけじゃないで、苦しい状況でさらに投げ抜き、こういう雰囲気の中で自分たちの野球をすることで、よりたくましい人間に育つんやないか。まさに人間教育」
 そんなことを思って悦に入っている大人もいるのかもしれませんが、はたしてそれでいいのでしょうか。
 きっとメディアも騒ぎ立てるだろうし、高野連も見解を問われるだろうし、波紋を呼ぶことになるのは目に見えています。投手の肩のことを無視しているのは事実なのですから。もし日を改めるという決断ができていたら、あとが楽というか、結局は評価されるのではないかと思いました。

 この日は8月31日の日曜日でした。8月中に大会を終えるという規定があるそうで、新学期に入ってまで日程を繰り下げるという発想が出てくる状況では全くありません。
 それなら、なぜ延長50回までやらせてしまったのか、もし大会中に雨天順延があったらどこかで打ち切っていたのか、やはり、決断力というか、柔軟な対応力がないとしか言いようがありません。
 「新学期に入った平日なんかに移せるはずがない」、そうでしょう。でも、それがそんなに非常識なら、いったん学校へ帰して、次の土日に行えばいいのです。
 球場確保は? 明石でなくても、観客席があって交通の便の良い球場は姫路にもあるし、近くにはオリックスのほっともっとだってあるのです。硬式の県大会で埋まっているなら、それを動かせばいいし、一般の大会の使用が入っていたって、雨天順延の予備日もあるはずで、これだけ世間から注目されたのですから、試合ができないということはないでしょう。
 費用は? 例年、朝日新聞に甲子園大会の決算報告が出ますが、毎年多額の剰余金が計上されます。二校分の旅費や滞在費ぐらいは十分に支出できるはずです。

 とにかく、延長50回の試合で高校軟式野球が注目を浴びたということを喜んでいる場合ではないのです。高校野球が教育の一環であるならば、現場を預かっている大人がもっと柔軟に選手本位の立場から対処できるようになっていないとおかしい。

 まあ、個人的な意見はここまでにして、決勝戦の話題に戻します。大人の心配とは裏腹に、なかなか見応えのある試合になりました。

 結論から言うと、どんな状況であっても、おそらく中京高校のほうが勝っていたのではないかと思うような試合でした。

 まず、キャッチャー西山君の判断力とスローイングの正確さ。脱帽です。三浦学苑の足攻を見事に封じ、相手の野球をさせませんでした。4回の1アウト二・三塁のピンチでも二塁走者を刺し完璧でした。
 その4回に、先発しなかった松井君がマウンドに上がりましたが、「あとは任せろ」「あとは任せた」という中京ナインの結束が伝わって来るようでした。思えば、1998年の夏の甲子園の準決勝の横浜-明徳義塾。前日のPL学園戦で250球以上投げた松坂投手がマウンドに戻った時の、あの雰囲気でした。
 三浦の櫨君も悪くなかったのですが、三塁走者がいた6回に痛恨のワイルドピッチ。中京は、次の回も三塁に走者を置いて内野ゴロのエンドラン。なんとも軟式野球らしい形でそつなく2点を取りました。
 そして中京の松井君、優勝が見えてきた終盤のピッチングも圧巻。気合みなぎり、もし「神がかり」というなら、こういう時のことを言うのではないかと思わせるほどで、最後は6連続三振で締めました。
 三浦の選手も、この時ばかりは「50回の死闘を経た投手がこれでは仕方ない」と脱帽の気分だったのでしょう、悔しさがあまり見られませんでした。

 ということで、決勝戦は2-0。
  中京高校が7度目の優勝です
 

 「あっぱれ、中京」
  神奈川県勢二連覇を阻止す
  

 ところで、試合開始直前、50回を戦い合って来た崇徳のナインが中京の応援席に陣取りました。崇徳の父母たちも駆けつけています。そこへ報道陣が群がり大変な騒ぎに。
 思ったとおり、翌日のテレビで、「両校ナインの間に結ばれた新たな絆」と、美談として紹介されていました。それはそれで素晴らしい。実に美しい話です。でも、球場全体に一方に同情する空気が満ちている中で、それをさらに助長する光景であったのは否めません。興奮気味の当事者は気が付かないでしょうから、こういう時こそ、大会本部からひと言あっていいのではないかと思いました。

 しかし、救いは三浦学苑の選手たちが伸び伸びと動き回っていたことです。アウトにはなりましたが、臆することなく走り、大きなリードで次の塁を狙う野球を貫きました。
 最後は、相手投手の気魄に押された感がありましたが、スタンドの空気を受け流しているかのように、よく頑張りました。

 さわやかに、準優勝の楯と
  メダルをいただきました
  

 閉会式には奥島会長の姿はありませんでした。連盟トップのコメントが聞けるかもと思っていたのですが、おそらく、翌日からバンコクで始まる「アジアU18大会」に同行したのでしょう。国際大会なら新学期の平日でもかまわないのです。各校から選抜された選手だからということもあるでしょうが、文科省の見解も聞きたくなってしまいます。
 ということで、副会長が挨拶に立ちました。型どおり、優勝準優勝の両校へ賛辞を述べたあと、延長50回の話にも及びましたが、運営面での話は出ませんでした。

 ところで、閉会式で印象的だったのは、挨拶の中で、惜しくも決勝へ駒を進められなかった崇徳高校の健闘を讃えた時に、三浦学苑の選手たちの手が自然に動いて拍手を送ったことです。
 自分たちも頑張ったけれど、中京も崇徳もすごかったという思いが正直なところだったのでしょう。
 そうなんです。美技もあればミスもある。快打もあれば凡打もある。それで勝敗は決しますが、勝ったほうも負けたほうもみんな頑張ったのです。
 三浦学苑の選手たち、整列して、秋の空を見上げている時に、長かった一週間がふと蘇って来たのではないでしょうか。私には、最後に負けて準優勝ではあったものの、彼らの心の中に生まれた、何とも言えない達成感が拍手に表れているように見えました。
 目に焼きついているのは限界を超えて頑張る仲間たち。そして、そこを経たチームと対戦してみて、人間の底力みたいなものも目のあたりにしたはずです。

 この大会での三浦学苑の健闘は、延長50回を戦った二校の話題の陰にかすんでしまった感がありますが、そんなことには関係なく、彼らがかけがえのない大切なものを心の中にしまい込んだのを確信して、今回の観戦記を閉じることにします。


    秋空や兵どもが夢のあと   弁人


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