9月3日(水)
今回は、いよいよ「歴史に残る延長50回の死闘と顛末」と題して、甲子園の熱戦の陰の存在のようであった「全国高等学校軟式野球選手権」が、一躍、日本中の注目を浴びることとなった、中京高校と崇徳高校の歴史的な一戦の観戦記です。
球場正面の試合経過を伝えるボード
さて、その一戦。大会四日目の8月28日の準決勝第一試合でした。
まず、先攻の中京高校のそこまでの戦いぶりから。
一回戦は大阪代表の河南高校相手に1-1で延長戦入り、11回表に1点を取って2-1で勝ちました。この試合は会場が高砂球場だったので見ていないのですが、優勝するまでのほぼ全インニングを投げ抜いた松井投手が唯一の失点をしています。
大阪の富田林といえば、PL学園をはじめとして軟式野球の強豪校が多く、その富田林から34年ぶりに登場してきた河南高校、このチームも強そうだと注目はしていたのですが、いったいどういう形で1点取ったのか、新聞にはインニングスコアしか載らないのでわかりません。
明石球場で大会役員に「スコアを見るにはどうしたらよいか」と尋ねても、「スコアは全部連盟本部へ送ってしまうので、新聞記者にでも聞いて下さい」と、そっけない返事しか返って来ず、無駄に終わりました。したがって、この試合のヒット数や失策数がわからないのでなんとも言えませんが、延長で2-1ですから好ゲームだったのは間違いありません。
次の一日置いた能代高校との準々決勝は、前回の記事に載せたとおり、相手5安打に対してわずか2安打で1-0で勝ちました。好投手と堅い守備力はなかなかのものと感心しましたが、打つほうは非力という印象でした。
いっぽう、後攻の崇徳高校。
残念ながら、一回戦は甲子園の決勝戦と重なり、準々決勝が高砂球場だったので、試合は一回も見ていませんでした。ただ、二試合目、一回戦で7点取った文徳高校に4-1で勝っています。投手力もさることながら、打力では中京高校より上なのかもしれないと思っていました。
28日9時30分、歴史に残る試合が始まりました。
やはり、崇徳のチャンスのほうが多い。初回二回とも1アウトからヒットが出て、2アウト二塁と2アウト一・二塁にしましたが得点ならず。七回には二塁打が出たものの、ここも1アウトからで無得点。これが4本目のヒットだったのに対して、ここまで中京のヒットはわずかに1本でした。
野球は、同点で八回が終わると、あとは延長戦と同じで、後攻チームがランナーを出せば常にサヨナラのチャンスになります。したがって、精神的には後攻チームのほうが断然有利です。ということで、私は、どこかで崇徳がサヨナラ勝ちをするのではないかと思っていました。
と思いきや、9回表に中京の先頭バッターが二塁打を放ち、予想どおりには行かないのが野球のドラマだと、この辺までは、いつものようにのどかに野球観戦を楽しんでいました。ところが、中京も後続が続かず延長戦へ。その後も同じような展開が続いて、とうとう
こういう結果に。
(延長15回のスコアボードです)
軟式野球の規定が硬式と違うということは知りませんでしたので、このまま18回まで行って、勝敗が決しない場合は翌日再試合だと思っていました。実は、この日は準決勝二試合目の三浦学苑の試合を楽しみにしていたので、急遽KAZU君の親へメールを入れて、保育園の迎えを頼みました。
ところが、試合は15回で打ち切り、翌日サスペンデッドでということになり、やや予想外の事態に。
それはともかく、15回まで両軍とも0を並べた時点で、ヒット数は、崇徳が10本、中京が5本、だいたい予想どおり、崇徳が攻めて中京が守るという展開の初日でした。
ただサスペンデッドであれば、後攻の崇徳が有利なことに変わりありません。それを中京がどこまで持ちこたえるか興味を抱きつつも、延長戦の継続であれば、そんなに長引かずに決着が着くはずと思っていました。おそらく大会関係者も同じだったと思います。
でも、冷静に分析すれば、中京の守備の堅さは目を見張るものがありましたし、松井投手の球威と制球力も抜群でした。もしこの緊張感が保たれ、崇徳がなかなか得点できないとしたら、中京の攻撃力が今一つということまでを考えると、延長戦がどこまでも続くかもしれないということは、決して想定外ではなかったのかもしれません。
翌29日。
サスペンデッド(延長戦の延長)ですから、すぐ終わってしまうかもしれません。どちらかというと、私は、地元の三浦学苑が準決勝の第二試合で勝っていたので、その決勝戦を楽しみにしていたこともあり、この日は家でゆっくりしていようかとも思いました。でも、サスペンデッドの試合は今まで見たことがありませんから、試合前のシートノックなどを含めて、どんな具合で始めるのか興味があって、スーパーへの買物がてら、試合開始前に球場に車を止めてみました。
駐車料金1時間200円。200円で済んだらラッキーという気分で観客席に座りましたが、延長16回からの試合は期待に反して、前日と同じ展開となりました。そして、延長18回からはしばらく両軍ともノーヒットが続き、
スコアボード二度目の暗転。
(延長21回終了時)
とうとう延長30回まで点が入りません。ヒット数もほぼ前日と同じで、中京6本で崇徳は9本。お互いに2~3回ずつチャンスがありましたが、ことごとく後続が断たれてしまいました。お昼の用意もなくフラッと立ち寄っただけなのに、気が付くと時計は14時を回っていて、少々イライラしていたせいかもしれませんが、正直のところ、この試合はいつまでやっても永遠に終わらないのではないかという不安さえこみ上げてきました。
ネット裏には決勝を待つ三浦学苑の選手が陣取っていましたが、両軍とも決め手の欠く攻撃を、いったいどんな思いで眺めていたのでしょうか。明日も決勝戦ができないなんて、さぞかしじれったく思っていたことでしょう。つい、「こうなったら、新学期のことなんか忘れて、しばらく明石に滞在するのもいいかもしれないよ」と声をかけてあげたくなりました。
結局、翌30日に再度延長31回から再開ということになりましたが、この時点で、私は溜め息をつくばかり。
やはり一度仕切り直しをしないと、明日もだらだらと0行進が続いてしまうのではないかという感じが拭えませんでした。
だいたいにおいて、投手にこれ以上投げさせるのは、軟式とはいえ無謀です。しかも、この状況で投手交代を告げる勇気のある監督なんているはずがありません。このまま続けるにしても、日を置いてあげないと無理だと思いました。たしかに、サスペンデッドはすぐに終わるかもしれない。でも、一度交代した選手はそのままですから、ベンチ入りの16人が尽きたらその時点で終わりです。それを考えたら代打も出せず、少々バテ気味の選手がいてもメンバーは固定状態でいるしかありません。やはり、日を置いて再試合しかないのです。再試合で仕切り直しならば、違う投手を投げさせることも十分に可能ですし。
もちろん、日程についての規定や球場確保の問題等があるので、簡単にこうすればと言えないのは重々承知の上ですが、この時点で明石に残っているのは三チームだけなのです。「夏休み中に」といっても、昨今は8月下旬ともなれば、すでに新学期が始まっている学校だってたくさんあるのですから、もう少し柔軟に考えられないものかと思いました。
ということで、延長31回から再開という、やや気の重い土曜日がやって来ました。「見るに見かねる」という表現が妥当かどうか、ともかくも球場へ向かいました。
報道陣も多くなり、
観客席も混雑してきました
前日夕方から、試合のもようが全国のニュースで流れましたから、駐車場も一杯で、駅から歩く人も列をなしていました。球場へ来た人の思いはみな同じです。「どっちが勝ってもいい、とにかくすぐにでも終わってほしい」と。
しかし、そんな願いもむなしく・・・
本塁が見えて横切るとんぼかな 弁人
延長34回の裏、崇徳先頭の6番打者がスリーベースヒット、やっと終わるかと思いましたが、悲しいかな打順は下位へ向かい、やはりだめでした。この後は、なんか永久に点が入らないような気分になって滅入りました。
目を遣ると、右中間の外野席で三浦学苑の選手が芝生に横たわったりして試合を眺めています。そのうちの三人連れが飲み物を買いに行ったのでしょう、戻る途中、私のそばにしゃがんでいたので、「大変だね、でも焦ってもしょうがないよ、腹くくったほうがいいよ。今日も点が入りそうもないから」と、思わず声をかけてしまいました。
その後、決勝戦がまた延びるのか、大会役員の人に聞いたところ、「明日で全て終わります」という、これまた意外な答えが返ってきました。
どうも、この日も15回(延長45回)で打ち切り、明日は連盟の「一日18回以内」という規定にしたがって決勝戦まで終えるということのようでした。「あれ、なんで15回で打ち切って来たの?18回って硬式の規定じゃないの?」と思いましたが、そんなことは今さらのことで、つまるところ、明日も延長が続けば、決勝戦の9インニングを確保して、この試合は最大9インニング(54回)まで続けるのだと理解しました。
まあ、それは翌日のこと。何とか今日中に決めてくれなければとスタンドへ戻りましたが、延長40回を越えてさらに膠着状態、たまにランナーが出るもチャンスらしい状況は生まれず、
とうとう、この日の最終回も
終わってしまいました
秋空へ向かひ果てなしゼロ行進 弁人
とにかく、驚嘆すべきは二人のピッチャーです。二人とも日に日に内容がよくなっている印象があります。もしかしたら、打者のほうが疲れてきていて攻撃に精彩を欠いているのかもしれませんが、ぜったいに先に点を許さないという気合が見て取れました。特に中京の松井君、もう40インニング近くランナーが出ればサヨナラという不利な状況なのに、全く動じずに自分の投球に徹していて、その精神力は尋常ではありません。
それにしても、野球の神様はいったい何を考えておられるのか。残念ながらご不在なのかもしれません。甲子園が終わった後、明石の大会のことなど忘れ、休暇を取ってどこかでゆっくりしているのでしょう。でも、報道陣だってこれだけ押しかけているのですから、うわさくらい耳に入ってもいいのに・・・
そして、いよいよ決着のついた日曜日。この観戦記を記しているだけで疲れてきましたので、詳しいことは省略します。
押しかけた報道陣
スポーツに関係のない報道各社からもたくさん来ているとか
スタンドも超満員
崇徳の4番打者の時の
中京のレフト
軟式でこんな深い守備位置がありますか、びっくりです。
きっと、投手が連打を浴びないという自信があるのでしょう、仮に前に落ちても短打で済ます。とにかく得点だけは絶対に阻止するという気概です。崇徳の野手も同じような気概で守っていたのですから、やっぱり点はなかなか入らない。
試合を再開しておよそ1時間後の中京50回表。先頭打者四球、送りバントを崇徳の石岡投手が二塁へ悪送球、ノーアウト一・三塁。そのあと満塁からライト戦へ渋いヒットが転がり、とうとう点が入りました。
二度と見られないスコアボード
普通の試合と同じように見えますが、得点とヒット数を見れば納得できます。
ことばでは「お疲れさまでした」
としか言えませんが、
結局、この日の5インニングス目で決着をみたのですから、いちおう決勝戦は延長に入った場合13回まで可能ということになりました。
でも、二時間後とはいえ、同日の決勝戦はやっぱりかわいそうで、その辺のことは、決勝戦のことを取りあげる次回の記事に回すことにします。
ただ、結果的に延長50回を4日間に渡って連日継続したことは異常事態だったということ、それゆえに、多くのマスコミが取りあげ、多くの人が興味を持ち、社会からの注目を浴びたのだということを忘れてはいけません。
私は、異常事態を生んだのがサスペンデッド方式だったとは思っていませんし、むしろ、早く決着を着けるにはいい方法だと思っています。したがって、それを規定の中に盛り込むのも問題はないと思っています。
しかし、野球のようなスポーツは、原発事故とは正反対に、想定外のことが起こるのが魅力なのですから、規定では想定していない状況も起こり得るということです。そういう事態が生じた時に如何に柔軟に対応できるか、そういう機能を運営組織が持っていることが重要なのだと思います。
大会を運営するのは球児ではなく大人です。その大人の組織が、現実に対応しきれない規定に振り回されたり、本部からの指示がなければ対応できないのであれば、それはすでに運営能力の欠如と言っても過言ではありません。
仮にどういう措置をとっても、必ず批判はあるでしょう。でも、それが、マスコミへの媚びへつらいではなく、金儲けのためでもなく、自己満足のものでもなく、真剣に勝負に立ち向かっている球児のためにとった対応であるという信念と自信があれば、きっと、多くの人の支持を得るに違いありません。大人の仕事というのはそういうものだと思うのですが。
今回は、いよいよ「歴史に残る延長50回の死闘と顛末」と題して、甲子園の熱戦の陰の存在のようであった「全国高等学校軟式野球選手権」が、一躍、日本中の注目を浴びることとなった、中京高校と崇徳高校の歴史的な一戦の観戦記です。
球場正面の試合経過を伝えるボード
さて、その一戦。大会四日目の8月28日の準決勝第一試合でした。
まず、先攻の中京高校のそこまでの戦いぶりから。
一回戦は大阪代表の河南高校相手に1-1で延長戦入り、11回表に1点を取って2-1で勝ちました。この試合は会場が高砂球場だったので見ていないのですが、優勝するまでのほぼ全インニングを投げ抜いた松井投手が唯一の失点をしています。
大阪の富田林といえば、PL学園をはじめとして軟式野球の強豪校が多く、その富田林から34年ぶりに登場してきた河南高校、このチームも強そうだと注目はしていたのですが、いったいどういう形で1点取ったのか、新聞にはインニングスコアしか載らないのでわかりません。
明石球場で大会役員に「スコアを見るにはどうしたらよいか」と尋ねても、「スコアは全部連盟本部へ送ってしまうので、新聞記者にでも聞いて下さい」と、そっけない返事しか返って来ず、無駄に終わりました。したがって、この試合のヒット数や失策数がわからないのでなんとも言えませんが、延長で2-1ですから好ゲームだったのは間違いありません。
次の一日置いた能代高校との準々決勝は、前回の記事に載せたとおり、相手5安打に対してわずか2安打で1-0で勝ちました。好投手と堅い守備力はなかなかのものと感心しましたが、打つほうは非力という印象でした。
いっぽう、後攻の崇徳高校。
残念ながら、一回戦は甲子園の決勝戦と重なり、準々決勝が高砂球場だったので、試合は一回も見ていませんでした。ただ、二試合目、一回戦で7点取った文徳高校に4-1で勝っています。投手力もさることながら、打力では中京高校より上なのかもしれないと思っていました。
28日9時30分、歴史に残る試合が始まりました。
やはり、崇徳のチャンスのほうが多い。初回二回とも1アウトからヒットが出て、2アウト二塁と2アウト一・二塁にしましたが得点ならず。七回には二塁打が出たものの、ここも1アウトからで無得点。これが4本目のヒットだったのに対して、ここまで中京のヒットはわずかに1本でした。
野球は、同点で八回が終わると、あとは延長戦と同じで、後攻チームがランナーを出せば常にサヨナラのチャンスになります。したがって、精神的には後攻チームのほうが断然有利です。ということで、私は、どこかで崇徳がサヨナラ勝ちをするのではないかと思っていました。
と思いきや、9回表に中京の先頭バッターが二塁打を放ち、予想どおりには行かないのが野球のドラマだと、この辺までは、いつものようにのどかに野球観戦を楽しんでいました。ところが、中京も後続が続かず延長戦へ。その後も同じような展開が続いて、とうとう
こういう結果に。
(延長15回のスコアボードです)
軟式野球の規定が硬式と違うということは知りませんでしたので、このまま18回まで行って、勝敗が決しない場合は翌日再試合だと思っていました。実は、この日は準決勝二試合目の三浦学苑の試合を楽しみにしていたので、急遽KAZU君の親へメールを入れて、保育園の迎えを頼みました。
ところが、試合は15回で打ち切り、翌日サスペンデッドでということになり、やや予想外の事態に。
それはともかく、15回まで両軍とも0を並べた時点で、ヒット数は、崇徳が10本、中京が5本、だいたい予想どおり、崇徳が攻めて中京が守るという展開の初日でした。
ただサスペンデッドであれば、後攻の崇徳が有利なことに変わりありません。それを中京がどこまで持ちこたえるか興味を抱きつつも、延長戦の継続であれば、そんなに長引かずに決着が着くはずと思っていました。おそらく大会関係者も同じだったと思います。
でも、冷静に分析すれば、中京の守備の堅さは目を見張るものがありましたし、松井投手の球威と制球力も抜群でした。もしこの緊張感が保たれ、崇徳がなかなか得点できないとしたら、中京の攻撃力が今一つということまでを考えると、延長戦がどこまでも続くかもしれないということは、決して想定外ではなかったのかもしれません。
翌29日。
サスペンデッド(延長戦の延長)ですから、すぐ終わってしまうかもしれません。どちらかというと、私は、地元の三浦学苑が準決勝の第二試合で勝っていたので、その決勝戦を楽しみにしていたこともあり、この日は家でゆっくりしていようかとも思いました。でも、サスペンデッドの試合は今まで見たことがありませんから、試合前のシートノックなどを含めて、どんな具合で始めるのか興味があって、スーパーへの買物がてら、試合開始前に球場に車を止めてみました。
駐車料金1時間200円。200円で済んだらラッキーという気分で観客席に座りましたが、延長16回からの試合は期待に反して、前日と同じ展開となりました。そして、延長18回からはしばらく両軍ともノーヒットが続き、
スコアボード二度目の暗転。
(延長21回終了時)
とうとう延長30回まで点が入りません。ヒット数もほぼ前日と同じで、中京6本で崇徳は9本。お互いに2~3回ずつチャンスがありましたが、ことごとく後続が断たれてしまいました。お昼の用意もなくフラッと立ち寄っただけなのに、気が付くと時計は14時を回っていて、少々イライラしていたせいかもしれませんが、正直のところ、この試合はいつまでやっても永遠に終わらないのではないかという不安さえこみ上げてきました。
ネット裏には決勝を待つ三浦学苑の選手が陣取っていましたが、両軍とも決め手の欠く攻撃を、いったいどんな思いで眺めていたのでしょうか。明日も決勝戦ができないなんて、さぞかしじれったく思っていたことでしょう。つい、「こうなったら、新学期のことなんか忘れて、しばらく明石に滞在するのもいいかもしれないよ」と声をかけてあげたくなりました。
結局、翌30日に再度延長31回から再開ということになりましたが、この時点で、私は溜め息をつくばかり。
やはり一度仕切り直しをしないと、明日もだらだらと0行進が続いてしまうのではないかという感じが拭えませんでした。
だいたいにおいて、投手にこれ以上投げさせるのは、軟式とはいえ無謀です。しかも、この状況で投手交代を告げる勇気のある監督なんているはずがありません。このまま続けるにしても、日を置いてあげないと無理だと思いました。たしかに、サスペンデッドはすぐに終わるかもしれない。でも、一度交代した選手はそのままですから、ベンチ入りの16人が尽きたらその時点で終わりです。それを考えたら代打も出せず、少々バテ気味の選手がいてもメンバーは固定状態でいるしかありません。やはり、日を置いて再試合しかないのです。再試合で仕切り直しならば、違う投手を投げさせることも十分に可能ですし。
もちろん、日程についての規定や球場確保の問題等があるので、簡単にこうすればと言えないのは重々承知の上ですが、この時点で明石に残っているのは三チームだけなのです。「夏休み中に」といっても、昨今は8月下旬ともなれば、すでに新学期が始まっている学校だってたくさんあるのですから、もう少し柔軟に考えられないものかと思いました。
ということで、延長31回から再開という、やや気の重い土曜日がやって来ました。「見るに見かねる」という表現が妥当かどうか、ともかくも球場へ向かいました。
報道陣も多くなり、
観客席も混雑してきました
前日夕方から、試合のもようが全国のニュースで流れましたから、駐車場も一杯で、駅から歩く人も列をなしていました。球場へ来た人の思いはみな同じです。「どっちが勝ってもいい、とにかくすぐにでも終わってほしい」と。
しかし、そんな願いもむなしく・・・
本塁が見えて横切るとんぼかな 弁人
延長34回の裏、崇徳先頭の6番打者がスリーベースヒット、やっと終わるかと思いましたが、悲しいかな打順は下位へ向かい、やはりだめでした。この後は、なんか永久に点が入らないような気分になって滅入りました。
目を遣ると、右中間の外野席で三浦学苑の選手が芝生に横たわったりして試合を眺めています。そのうちの三人連れが飲み物を買いに行ったのでしょう、戻る途中、私のそばにしゃがんでいたので、「大変だね、でも焦ってもしょうがないよ、腹くくったほうがいいよ。今日も点が入りそうもないから」と、思わず声をかけてしまいました。
その後、決勝戦がまた延びるのか、大会役員の人に聞いたところ、「明日で全て終わります」という、これまた意外な答えが返ってきました。
どうも、この日も15回(延長45回)で打ち切り、明日は連盟の「一日18回以内」という規定にしたがって決勝戦まで終えるということのようでした。「あれ、なんで15回で打ち切って来たの?18回って硬式の規定じゃないの?」と思いましたが、そんなことは今さらのことで、つまるところ、明日も延長が続けば、決勝戦の9インニングを確保して、この試合は最大9インニング(54回)まで続けるのだと理解しました。
まあ、それは翌日のこと。何とか今日中に決めてくれなければとスタンドへ戻りましたが、延長40回を越えてさらに膠着状態、たまにランナーが出るもチャンスらしい状況は生まれず、
とうとう、この日の最終回も
終わってしまいました
秋空へ向かひ果てなしゼロ行進 弁人
とにかく、驚嘆すべきは二人のピッチャーです。二人とも日に日に内容がよくなっている印象があります。もしかしたら、打者のほうが疲れてきていて攻撃に精彩を欠いているのかもしれませんが、ぜったいに先に点を許さないという気合が見て取れました。特に中京の松井君、もう40インニング近くランナーが出ればサヨナラという不利な状況なのに、全く動じずに自分の投球に徹していて、その精神力は尋常ではありません。
それにしても、野球の神様はいったい何を考えておられるのか。残念ながらご不在なのかもしれません。甲子園が終わった後、明石の大会のことなど忘れ、休暇を取ってどこかでゆっくりしているのでしょう。でも、報道陣だってこれだけ押しかけているのですから、うわさくらい耳に入ってもいいのに・・・
そして、いよいよ決着のついた日曜日。この観戦記を記しているだけで疲れてきましたので、詳しいことは省略します。
押しかけた報道陣
スポーツに関係のない報道各社からもたくさん来ているとか
スタンドも超満員
崇徳の4番打者の時の
中京のレフト
軟式でこんな深い守備位置がありますか、びっくりです。
きっと、投手が連打を浴びないという自信があるのでしょう、仮に前に落ちても短打で済ます。とにかく得点だけは絶対に阻止するという気概です。崇徳の野手も同じような気概で守っていたのですから、やっぱり点はなかなか入らない。
試合を再開しておよそ1時間後の中京50回表。先頭打者四球、送りバントを崇徳の石岡投手が二塁へ悪送球、ノーアウト一・三塁。そのあと満塁からライト戦へ渋いヒットが転がり、とうとう点が入りました。
二度と見られないスコアボード
普通の試合と同じように見えますが、得点とヒット数を見れば納得できます。
ことばでは「お疲れさまでした」
としか言えませんが、
結局、この日の5インニングス目で決着をみたのですから、いちおう決勝戦は延長に入った場合13回まで可能ということになりました。
でも、二時間後とはいえ、同日の決勝戦はやっぱりかわいそうで、その辺のことは、決勝戦のことを取りあげる次回の記事に回すことにします。
ただ、結果的に延長50回を4日間に渡って連日継続したことは異常事態だったということ、それゆえに、多くのマスコミが取りあげ、多くの人が興味を持ち、社会からの注目を浴びたのだということを忘れてはいけません。
私は、異常事態を生んだのがサスペンデッド方式だったとは思っていませんし、むしろ、早く決着を着けるにはいい方法だと思っています。したがって、それを規定の中に盛り込むのも問題はないと思っています。
しかし、野球のようなスポーツは、原発事故とは正反対に、想定外のことが起こるのが魅力なのですから、規定では想定していない状況も起こり得るということです。そういう事態が生じた時に如何に柔軟に対応できるか、そういう機能を運営組織が持っていることが重要なのだと思います。
大会を運営するのは球児ではなく大人です。その大人の組織が、現実に対応しきれない規定に振り回されたり、本部からの指示がなければ対応できないのであれば、それはすでに運営能力の欠如と言っても過言ではありません。
仮にどういう措置をとっても、必ず批判はあるでしょう。でも、それが、マスコミへの媚びへつらいではなく、金儲けのためでもなく、自己満足のものでもなく、真剣に勝負に立ち向かっている球児のためにとった対応であるという信念と自信があれば、きっと、多くの人の支持を得るに違いありません。大人の仕事というのはそういうものだと思うのですが。