タンタン



福音館の 『 タンタンの冒険旅行 』 シリーズ全24冊中23冊を揃えてしまいました。

最初は図書館でした。

息子が借りてきた 『 シドニー行き735便 』。

吹き出しの中にいっぱいいっぱいに書き込まれたセリフ文字、息子が一人で読むはず読め

るはずもなく、やれやれと一緒にページをめくりつつ読んでやっているうちに、もう、

あれよあれよとふたりしてタンタンの世界に引きずり込まれてしまっておったのです。

これが結構な入り組んだストーリー、ハードな展開なんです!

『 M.I.P. ミッションインポシブル 』 のトム・クルゾーも引いちゃうくらいの!

ある時は、石油の利権争いに巻き込まれてミッドイーストで砂漠を彷徨い、ある時は

シカゴでギャング組織と死闘を繰り広げ、ある時は南米のインカ遺跡の中の原住民族に

火炙りにされかけ、またある時は、なぞの隕石を探し求めて北極海へ、そして何と!!

果ては月!!そうです、人類初の月面着地は、実はタンタンだったのですっ!!!

その足跡は、世界がまだ夢と謎にみちていた時代の、大陸 ( 宇宙も )を股にかけた

もの。ロマンに満ちた大冒険の旅の数々の壮大さは、単なる子供向けのコミック絵本と

思っていた私にとって、めったにない、黄金の鉱脈を掘り当てたかのような興奮と至福感

を与えてくれて余りあるものでした。

どんな瀕死の際にあっても、決して諦めない。礼儀正しく、弱きを助け、国家主席とだっ

て対等に自分のままで接することができ、いつだってポジティブ。

タンタンは、愛と勇気の象徴、そう、若きヒーローなのです。

脇を固める奇人変人のオジサマ達がまた魅力溢れ、ハドック船長、ビーカー教授、国際

警察官のデュポン&デュボンの二人、保険屋ランピョン、執事のネストルに、そうそう

忘れちゃいけない、最愛の相棒・忠犬スノーウィー、紅一点?ミラノ・スカラ座の名花

ビアンカ・カスタフィオーレ夫人・・・・・。

この面々が入り乱れ、タンタンと一緒に世界中、宇宙までも出かけては珍騒動を巻き起こ

しつつ、大冒険を果たしてゆきます。


タンタンシリーズは、新聞に連載されていたコミックなのです。最初は白黒版。

後年、ファンの熱望により復刻出版された、白黒版の最初の作品 『 タンタン ソビエ

トへ 』 で、タンタンは中盤まで前髪は寝ているんです。猛スピードで車を飛ばしてい

る途中で前髪が上にピンと煽られて、その瞬間、かの有名な、あの ” タンタンヘア ”

が誕生するんですーっ!!


タンタンシリーズでの、私の別の楽しみは、全巻中に溢れる、ヨーロッパの香り。

エスプリに満ちた色使い、室内の描写、どのページのどのひとコマを取ってもポスター

となりうる巧妙にバランス計算を尽くした、エルジェの絵が素晴らしい。

初期の頃の作品の絵は、背景になにも書き込まれていないコマが多く、背景は一色塗りな

のですが、その一色のセンスがねえ、いいんだなあ。 

淡いグリーンだったり、抜けるようなブルーだったり、モーブ色だったり。

そして旅には、室内履きのスリッポン、そして、パジャマ、ローブは必須、必携なのです

ね。『 ふしぎな流れ星 』 では、ちいさな観測船に乗り込んで、地球に落ちた隕石を

探しに行くのですが、タンタンは船室内で薄い室内履きをちゃーんと履いていて、シンプ

ルでトラディショナルなパジャマとローブ姿、普通にね。

極寒の北極圏を走行中ですから、昼間の船上では防寒衣服を着込んでいますが、そのお洒

落なことといったら!

少年であっても、これらは欧州の自由人の標準装備なのだと知ります。

タンタンのエレガンスは、いたるところで現れて、言葉遣いの丁寧さ、冷静沈着な観察、

気配り、といった彼の身に付いている教養そして機知は、危機一髪の状況にあっても乱れ

ることがなく、幾度となく難局を突破することにつながるのです。

当時 ( 1930年代以降 ) はまだまだ情報もなく、野蛮で未開と思われていたアフリカや

アジアの奥地、南米大陸への大冒険で、タンタンは博愛のヨーロッパ人の象徴として描か

れているようです。強烈個性の常連脇キャラクター達の中にあって、タンタンのその天使

性はさらに際立ちます。

それから、彼の住むアパートにも憧れてしまう。すっきりとしていて、余計なものなど

何もナシ、本もたくさんありそうで、そうそう、何といっても私の長年の憧れ・夢の

どっしりとした大きな肘掛け椅子があるんです。それも、真っ赤の。いっいなあーあの

赤い椅子( 『 なぞのユニコーン号 』 に出てきますヨ )!

欲しいモノってあんまり無いわたくしですが、タンタンの部屋のあの赤い肘掛け椅子は

欲っしーいっ!!! あれにゆったりと埋まって読書三昧したいものです。

作者エルジェはどんどん絵が洗練され巧くなるのですが、私は1950年代までの、どこ

か長閑で古典的なコミック独特の味がある作品群が好みですねえ。


まだ入手していない残る一冊は、『 タンタンとピカロたち 』。

これは、完成形タンタンシリーズの最後の作品で、なんと、タンタンは、茶のブーツカッ

トのジーンズに、ランチジャケットを着て、スクーターに乗っているのです!! 

とっても自然に似合っているのですが、タンタンといえばニッカーボッカー&ベージュの

ステンカラーコートを無造作にはおり、中は白いシャツの上に水色のセーターだったんで

すが、茶のジーパンのタンタンを見た時には、ああ、時代の流れがタンタンにも・・と感

慨深いものがありました ( 1970年代。正確な初版年度は忘れてます・・)。


息子と私のタンタンブームは、ここにきて一段落しておりますが、ずらりと並んだシリー

ズから1冊選んでは、無心にページを繰りつつ眺めている ( だってスラスラと読めない

自分では読みたくない ) 息子は、静かで結構。ときおりクスクス笑い声、5〜6歳から

親子でたっぷりと楽しめますよー。

フランスにババール、イギリスにピーターラビット ( 英国はたくさんいますよね )、

フィンランドにムーミン、アメリカはピーナッツ、オランダにはうさこちゃん。

そしてベルギーには、そうです、少年ルポライター、我らがタンタン君です! 






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