『カンタベリー物語』の「学僧の話」は、伯爵ワルテルが、妻グリゼルダの従順と忍耐を試す話である。「グリゼルダ」の話はあちこちの作品に使われているらしいが(ペトラルカとかペローとか歌劇とか)、ここではチョーサーに基づいて書く。
名望高い伯爵は、周囲のたっての勧めで妻を得る決心をして、貧しい農夫の美しい娘を選ぶ。美しく賢明なグリゼルダは申し分のない妻となり、まず一女を産む。伯爵は彼女を試そうとする。家来たちが自分たちの結婚を快く思っておらず、それをなだめなければならないと告げて、家来をよこす。その家来は、赤ん坊を殺そうとしているかのようなそぶりを見せる。「わたしの子供もわたしもすべてあなたのものでございます。あなたはご自身のものを生かすも殺すも自由になさることができます」 -- 正気を疑うセリフだと思う。おとなしく子供を引き渡し、その後夫に対して相変わらず嫌な顔など見せない。 その後男児を産み(※)、2才のときにまたも夫は同じことをする。
もちろん殺したりはしておらず、姉のもとに送って養育させている。(こんな愚かなことに協力する姉も姉だ)
娘が12歳のとき、伯爵は部下を教皇庁に送り、離婚・再婚の許可書を偽造させる。グリゼルダに離縁を申し渡しで追い出し、さらに、再婚相手のための支度を命じて呼びつける。再婚相手と思わせたのは実の娘であり、ようやく真相が明かされた。
これで大団円ーー
ーーでいいのかいっ?!
そもそも、妻に過剰に従順さを求めるということからして気に入らん。試すなどという傲慢さも許し難い。せめて、高僧でも現われて、人の身でありながら人を試す行為の不遜さを叱ってくれるくらいしてもよかろう。それに教皇庁の許可の偽造なんてかなりの罪ではないのか?
グリゼルダもグリゼルダだ。夫への従順の誓いのために、わが子を護る母の使命を放棄している、こんなのは女の風上にもおけん。「この子を殺すならば私を殺してから!」とタンカきるのが正しい在り方ではないのか。夫を殺したってかまわん。(夫の浮気を許すとか姑のいびりに耐えるのとはレベルが違うぞ!)
こんな話がハッピーエンドなんで許せん。
子供を殺したことが民の怒りを招き、暴動がおきて伯爵が殺されるとか。
真相を知らないままグリゼルダが死んで伯爵が後悔して自殺するとか。
教皇庁から破門されるとか。
娘は、母を理不尽に苦しめた父を憎み、謀反を起こして追い出すとか。
ーーあんな横暴な男がなにも罰を受けないままなんて我慢ならーーん!
こんな話が美徳物語で通るなんて世の中間違ってる。
※ 『緋色い剣』のリューの母スワンヒルドは、わが子を捨てた夫を許さず、二度と触れさせぬまま世を去った。それにひきかえグリゼルダは・・・なんて情けない腹立たしい女。
グリゼルダなんかよりも、クリュタイムネストラーー戦のため娘を生贄にした夫を殺害したーーのほうがはるかに納得できる。
2020.09.28
タイトルは「~~女失格」から「女のクズ」に変更した。
同じ話は『デカメロン』にもある。『ペロー童話集』の『グリゼリディス』ではあまり腹は立たない、怒りは夫側にだけ感じる。ペトラルカ版は読んでいないので知らん。
名望高い伯爵は、周囲のたっての勧めで妻を得る決心をして、貧しい農夫の美しい娘を選ぶ。美しく賢明なグリゼルダは申し分のない妻となり、まず一女を産む。伯爵は彼女を試そうとする。家来たちが自分たちの結婚を快く思っておらず、それをなだめなければならないと告げて、家来をよこす。その家来は、赤ん坊を殺そうとしているかのようなそぶりを見せる。「わたしの子供もわたしもすべてあなたのものでございます。あなたはご自身のものを生かすも殺すも自由になさることができます」 -- 正気を疑うセリフだと思う。おとなしく子供を引き渡し、その後夫に対して相変わらず嫌な顔など見せない。 その後男児を産み(※)、2才のときにまたも夫は同じことをする。
もちろん殺したりはしておらず、姉のもとに送って養育させている。(こんな愚かなことに協力する姉も姉だ)
娘が12歳のとき、伯爵は部下を教皇庁に送り、離婚・再婚の許可書を偽造させる。グリゼルダに離縁を申し渡しで追い出し、さらに、再婚相手のための支度を命じて呼びつける。再婚相手と思わせたのは実の娘であり、ようやく真相が明かされた。
これで大団円ーー
ーーでいいのかいっ?!
そもそも、妻に過剰に従順さを求めるということからして気に入らん。試すなどという傲慢さも許し難い。せめて、高僧でも現われて、人の身でありながら人を試す行為の不遜さを叱ってくれるくらいしてもよかろう。それに教皇庁の許可の偽造なんてかなりの罪ではないのか?
グリゼルダもグリゼルダだ。夫への従順の誓いのために、わが子を護る母の使命を放棄している、こんなのは女の風上にもおけん。「この子を殺すならば私を殺してから!」とタンカきるのが正しい在り方ではないのか。夫を殺したってかまわん。(夫の浮気を許すとか姑のいびりに耐えるのとはレベルが違うぞ!)
こんな話がハッピーエンドなんで許せん。
子供を殺したことが民の怒りを招き、暴動がおきて伯爵が殺されるとか。
真相を知らないままグリゼルダが死んで伯爵が後悔して自殺するとか。
教皇庁から破門されるとか。
娘は、母を理不尽に苦しめた父を憎み、謀反を起こして追い出すとか。
ーーあんな横暴な男がなにも罰を受けないままなんて我慢ならーーん!
こんな話が美徳物語で通るなんて世の中間違ってる。
※ 『緋色い剣』のリューの母スワンヒルドは、わが子を捨てた夫を許さず、二度と触れさせぬまま世を去った。それにひきかえグリゼルダは・・・なんて情けない腹立たしい女。
グリゼルダなんかよりも、クリュタイムネストラーー戦のため娘を生贄にした夫を殺害したーーのほうがはるかに納得できる。
2020.09.28
タイトルは「~~女失格」から「女のクズ」に変更した。
同じ話は『デカメロン』にもある。『ペロー童話集』の『グリゼリディス』ではあまり腹は立たない、怒りは夫側にだけ感じる。ペトラルカ版は読んでいないので知らん。
難しそうな古典をわかりやすく解説され、
しかも、コメントには おもわず、うんうん うなずいてしまいました。
マンガのブログも 新しいマンガの発見になりそう、、(数多い中から よくみつけられますね、良質マンガ)
おもわず コメントかかさせていただいてしまいました。
また、拝読させていただきますね
『カンタベリー物語』は別に難しい本ではありません、むしろけっこう下世話な要素もあるくらいです。
あとでペローの『グリゼリディス』をまた読んでみましたが、こちらは子供を殺すとは言ってないのでかなりマシでした。
お宅の食べ物ブログも覗かせて頂きますね。