晴れ時々スターウォッチング

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アンドレアス・セラリウス「大宇宙の調和」

2023年08月22日 | ☆星見隊
先日のこと、部屋の片付けをしていたところ何やら古めかしい筒を発見… 
 包まれている物を引っぱり出して開いてみると、ほほう、ポスターが4枚ほど入っています。ふむ、これはかなり昔に頂いたものですね~。その存在をす~っかり忘れてました。 (^^ゞ

 で、こちらが、その中の1枚 アンドレアス・セラリウスの「大宇宙の調和」北天星図です。オリジナルは1660年に出版された版画図ですが、こちらはSalt Lake CityにあるHansen Planetariumで1982年に作成した復刻版です。


  ↑ この状態で保管されていました~。(いや、ほったらかしてた… が正しいですね)


 さて、この星図、芸術的な美しさがあってとてもキレイなのですが、じ~っくり見ると、今とちがうところがたくさんあって… 突っ込みどころ満載の星図です。

 ということで、今回はアンドレアス・セラリウスの「大宇宙の調和・北天星図」を晴れスタ的に深掘りしてみました~。

深掘りポイントその1
「星図が裏返し! 星座が神様の視点で描かれている!?」
 この星図、よく見るとしし座が左を向いていて、その左にかに座、ふたご座があります。そう、この星図はすべての星座絵が裏返しになっています。なぜ空を見上げた時の向きにしないのだろう? と誰しも疑問を抱くところですが、その理由は、それが当時の「星図の流儀」だったからです。

 当時の星図は天球上の恒星の位置を示す天球儀に描いていたので、星図を天球の外から眺めるように描くのが主流となっていました。1729年に刊行されたジョン・フラムスティードの星図・天球図譜以降は多くの星図が空を見上げた向きで作られています。

 ジョン・フラムスティードは「星座を正面から描かないのはプトレマイオス時代からの流儀だが、それが無用な混乱の元になっているので(1603年にバイエルが刊行した)「ウラノメトリア」の星図表示法を正したい」という思いを持っていたらしく、それがフラムスティード星図を刊行した動機のひとつだったと言われています。


深掘りポイントその2
「みつばち座、こがに座、ヨルダン座ってなんですか? 聞いたことないんですけど…」
たしかにこの3つの星座は現代の88星座に残っていませんがそれぞれ由緒正しき?歴史があるようです。そのヒストリーを紐解いてみましょう。

 エントリー№1「みつばち座(Apes)」
 「みつばち座」が星図の歴史に初めて登場するのは1603年。バイエルが「ウラノメトリア」で南天のはえ座を「みつばち座(Apis)」と誤って紹介したことに始まる。その後、1612年にオランダの天文学者ペトルス・プランシウスがバイエルが誤って命名した南天の「みつばち座(Apis)」を本来の名前である「はえ座(Muica)」に戻し、それと同時におひつじ座の北側にある4つの星を使って「みつばち座(Apes)」作ったことで北天の「みつばち座(Apes)」が誕生した。ここから「はえ座」を巡る数奇な運命が始まる。
 1624年にドイツの天文学者ヤコブ・パルチウスが北天の「みつばち座(Apes)」に「Vespa(すずめばち)」と記したことからこれ以降は「すずめばち座(Vespa)」となったが、1690年にヨハネス・ヘヴェリウスが「はえ(Musca)」と名付けたことから、南天にある「はえ座(Musca)」との区別が付かなくなり混乱が発生する。しかも、ヘヴェリウスは名前は付けたが星座としてはカウントしなかったため正式な星座ではなくなるという事態が発生! そのため、それ以降は南天の星座としての「はえ座 Musca」と北天の星座絵だけの「Musca」が天球図に描かれることに…。
 この時代は約100年間続いたが、1801年にドイツの天文学者ヨハン・ボーデが刊行した星図「ウラノグラフィア」で北天の昆虫を「Musca(はえ)」、南天の昆虫を「Apis(みつばち)」と記したことで再び混乱が発生!、なんと200年の時を経て南天星座に再び「みつばち座(Apis)」が記されることになった。
 その後、1822年にイギリスの教育者アレクサンダー・ジェミーソンが出版した星図「Celesyrial Atlas」で北天の昆虫に「北のハエ」を意味する「Musca Borealis」と記したことで正式に「きたばえ座」となったのだが、なぜか南天の昆虫には名前が記載されてなかったため南天のハエ座(みつばち座?)の存在があやふやに…。そんな混乱の中、1835年にはアメリカの教育者イライジャー・バリットが出版した星図「Celestial Atlas」で、南天の昆虫に「インドのハエ」を意味する「Musca Indica」と記し、北天の昆虫の方を「Musca」としたため「はえ座」を巡る騒動は更に続く…。

 この混乱に終止符を打ったのがイギリスの天文学者フランシス・ベイリーだった。19世紀初めのイギリスの天文学者フランシス・ベイリーが編纂し、彼の死後の1845年に刊行された星表で100以上あった星座が87個に整理されて、そのタイミングで北天の昆虫は駆除?され、南天の「はえ座」が残されて名前も「Musca」に確定した。

 ふう、天界にある唯一の昆虫星座である「はえ座」にこのような約200年も続いた混乱劇があったとは驚きですね。セラリウスの「大宇宙の調和」北天星図は初期の「みつばち座(Apes)」が描かれているのでプランシウスの天球儀を元に描かれたものなのでしょう。

(注:きたばえ座(旧みつばち座)は1679年にロワーエが、後援者であるフランス国王ルイ14世を称える(忖度?)ために「ゆり座(ブルボン王朝の紋章に使われていたユリの花の意匠がモチーフ)」と命名していますが、ハエ座ヒストリーとは系譜が違うのでここでは割愛しています。)


 エントリー№2「こがに座(Cancer minor)」
 「こがに座(Cancer minor)」はペトルス・プランシウスが1613年に新設した8つの星座(きりん座、いっかくじゅう座、こがに座、みつばち座、チグリス座、ヨルダン座、おんどり座、南の矢座)のひとつとしてプランシウスの天球儀に登場しますが、なぜか支持されなかったらしく、1624年のヤコブス・パルチウス星図では「こがに座」の姿が早くも無くなっています。

 アンドレアス・セラリウスの「大宇宙の調和」は1660年出版ですが、「こがに座」が描かれていることからプランシウスの天球儀を元にしているということがよく分かりますね。それにしても、この時代のかに座はどーみてもカニというよりはエビ寄りの姿(ロブスター系?)をしていますよね。

 これは推測ですが世界で最初に印刷された星図と言われている1515年出版の「デューラー天球図(プトレマイオスの48星座を描いた古典星図)」のかに座がエビ系だったので初期の星図はこの形で描かれていたものと思われます。

↑ 1515年に出版されたデューラーの星図(北天)

 さて、最後はヨルダン座です。

 エントリー№3「ヨルダン座(Iordanis fluv)」
 「ヨルダン座(Iordanis fluv)」は前出のペトルス・プランシウスが1613年に新設した星座のひとつで、ヨルダン川をモチーフとして作られています。ヨルダン座は1624年のヤコブス・パルチウスの星図や1679年のオギュスタイン・ロワーエの星図でも描かれていますが、1690年に刊行されたヘベリウスの星図から描かれなくなりました。

 …というよりは、ヘベリウスがヨルダン座があった場所にりょうけん座、やまねこ座、こじし座を新設したため、ヨルダン座は忘れ去られることになったというのが正しいヒストリーです。ヘベリウスは星座間の空白粋を埋めるために10個の星座を新設したと思っていたのですが、ひとつの星座を消していたとはまったく知りませんでした~。

*ヘベリウスが新設した10個の星座こぎつね座、こじし座、たて座、とかげ座、やまねこ座、ろくぶんぎ座、りょうけん座、ケルベルス座、しょうさんかく座、マエナスルさん座

 このように長い星図の歴史の中でもごく初期の短い期間にだけ描かれていた「みつばち座、こがに座、ヨルダン座」が載っているアンドレアス・セラリウスの「大宇宙の調和」北天星図は星座ヒストリーを語る上では貴重な資料と言えますね。さて、セラリウスの「大宇宙の調和」北天星図にはもうひとつ注目すべき点があります。

 それは、星座と一緒に世界地図が載っているところで~す。

深掘りポイントその3
「1660年のニッポン(Japan)には… 東北と北海道が無い!?」

 アンドレアス・セラリウスの「大宇宙の調和」北天星図はご覧のように世界地図の上に星座絵が描かれています。フツー天球儀は星座だけが描かれていて、世界地図は当時としても地球儀に描かれていますが、この星図では重ね合わせるというとてもオシャレな描き方をしています。

 今回見つかったポスター4枚の中には1660年当時の世界地図「THE WORLD IN 1660」というのもあったのですが、そこに記載されている日本列島には東北地方がないにもかかわらず「Aquita(秋田?)」という地名が載っています。

 そのほかに載っている日本の地名は京都付近の「Meaco(都?)」と東京付近の「Iedo(江戸?)」だけなので、なぜ、京都、江戸と並んで「秋田(Aquita)」が記載されているのかまったく謎です。Aquita の地名はよく見ると太平洋側に記されているので秋田以外の地名という可能性もあるかな…

 最後は星図の話ではなくなってしまいましたが、アンドレアス・セラリウスの「大宇宙の調和」北天星図は深掘りするとまだまだ発見がありそうですね。今回見つかった4枚のポスターの中には南天星図もあったので、そちらも後日紹介したいと思いま~す。

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4 コメント

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Unknown (もも)
2023-08-22 21:55:40
晴れスターさま
こんばんわ、ももで~す。
秋田ですか~面白そうですね。
パッと思いつくのは、北前船?
地図の場所は海外のことなので正確性に欠けるのは「あるある」ことかも~
まったくの、思いつきでしかありませんのでご容赦をば。
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1200年前の貿易都市? (晴れスター)
2023-08-23 05:25:37
ももさま
 おはようございま~す。どーもです。
私も、日本海航路と言えば北前船だよね~と思いましたが、もう少し古い時代に外国との交易があったのか調べたら、秋田は平安時代に貿易都市だったという記述を見つけました。その記事によると、その時代の貿易都市は福岡県の太宰府と秋田県の秋田市だけだったらしいのですが、日本は東南アジアの中でも有数の貿易国で、その文化の恩恵にあずかろうと様々な民族の人たが貿易都市で交易していたそうです。その交易の跡を残しているのが秋田城跡と秋田城だということです。
 平安時代と言うと1200年前ですがこの東南アジアとの交易から西欧の人がAKITAの地名を日本の貿易都市のひとつとして知り得たのかも…と妄想していますが、現在調査続行中で~す。
 けさ、久々にISSの好条件通過を拡大撮影しました~。今年は暑い割には雲がモクモクでISSの撮影がまったくできず不快指数がさらに上昇してます。笑
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古星図 (ich)
2023-08-25 20:56:29
晴れスターさん
 ほほう,藤井旭先生が好きそうな古星図ですね。色もきれいです。よく見るとインテリアには出来ないほど謎多い星図ですが,ミツバチとかヨルダンとか詳しく調べられました。天球と地球を重ねるとはすごい荒技に思えますが,これでいいとはビックリです。他の星図も楽しみです。
 さて,晴れスターさんはペルセ群はいかがしましたか?わたしは気象庁とGPVをにらめっこして,秋田の大曲まで行きました!最初は薄雲がありましたが,次第にすっきりと晴れてよく見えました。結構明るめのも出ましたが,私の17mmレンズの画角にはあまり入りませんでした。車中泊しましたが,翌朝6時にはもう30℃近くで,暑くて寝てられませんでした。体力の衰えを感じますね…。
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ペルセ群 (晴れスター)
2023-08-25 22:54:08
ichさん
 これまで南天の星座(カメレオン座などの12星座)はバイエル星座と呼ばれてバイエルが新設したと星座解説の本では紹介されていましたが、2010年以降は、南天星座を作ったのはプランシウスに依頼されて東インド諸島の航海に出かけたハウトマンで、その星座を最初に天球儀で紹介したのがプランシウスだったというヒストリーが定説となっているようです。南天星座ヒストリーについてはセラリウスの「大宇宙の調和」その2としてブログで紹介したいと思ってます。
 今年のペルセ群は大出現だったようですのでキレイな流れ星が見られたことでしょう。私は石川旅行から帰ってきた直後だったので晴れている日本海側まで行く気力も無くあっさり諦めてしまいました~。ふたご座こそは最良の条件で見ようと思っていますが…年々寒さに対する耐性が低下しているのでどうなることやらです。
 
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