ALQUIT DAYS

The Great End of Life is not Knowledge but Action.

名を売る

2018年09月18日 | ノンジャンル
ドラマの役柄が、おかしなおばあちゃんという事で、
てっきり本当におばあちゃんだと思っていた。

名前からして、悠木千帆という、当時でもババクサイ
芸名であった。

何か別の番組に出ておられて、まだ若いお姉さんだと
知って驚いた記憶がある。

芸能人ともなれば、名を売るのが常だが、いわゆる
世間一般で言われる売名行為でなく、本当に
自身の芸名を売ったのもこの人だった。

実際は、番組のオークションか何かで、
オークションにかけるものがないからと、自身の
芸名を売ったのである。

それ自体、前代未聞だが、売った後につけた
新しい芸名が、樹木希林。

見方によっては、「き」だけでできた芸名で、
わざわざ新しい名前をこんな変なものにしなくても
よいのにと思った記憶もある。

年を経るに順って、相変わらず変な雰囲気は
色濃くなったが、不思議に透明度が増していった
ように感じていた。

もっとも最近、彼女を見かけたのは、CMでの、
おばあちゃんの幽霊役だった。

ああ、きっとこの人は、亡くなってもこんな感じ
だろうなと思わせるものだった。

実際に亡くなってみると、残念とか、悲しいとか
ではなく、何となく寂しいような、そんな気が
している。

人間、いつかは死ぬことは決まっている。
彼女は、飾らず、繕わず、あるがままの姿で、
その時を静かに迎えたに過ぎない。

だが、なかなかそうはいかないのが
世の常である。

ほほをすっと撫でて過ぎ去っていく風のような、
そんな清々しささえ感じた。

ある意味、理想的なこの世の越し方ではないか。

私もそうありたいものである。

謹んで御冥福をなどと言うと、そんなことは
やめてくださいと彼女は言うだろう。

過ぎ去った風のやわらかさをのみ、心に留めて
おくことにする。