MSN産経ニュースから、
楽観できぬ「五輪国際公約」 汚染水
楽観できぬ「五輪国際公約」 汚染水
2013.9.11 09:06 (1/2ページ)
福島から40キロの沖合で海をみつめる漁師。放射性物質の影響などを調べるため定期的に出港しているが、汚染水問題の深刻化を受け、地元のいわき市漁協と相馬双葉漁協では、再開したばかりの試験操業を9月から再び中断した=8月26日、福島県いわき市沖(AP)
福島から40キロの沖合で海をみつめる漁師。放射性物質の影響などを調べるため定期的に出港しているが、汚染水問題の深刻化を受け、地元のいわき市漁協と相馬双葉漁協では、再開したばかりの試験操業を9月から再び中断した=8月26日、福島県いわき市沖(AP)
2020年夏季五輪の東京開催が決まり、政府は10日午後、安倍晋三首相(58)と全閣僚による閣僚会議を開いた。首相は席上、国際オリンピック委員会(IOC)総会で解決を約束した東京電力福島第1原発の汚染水問題について、「政府一丸となって、しっかりと責任を果たす」と改めて対策を急ぐ考えを示した。だが、東日本大震災から11日で2年半を迎えるいまも、放射性物質を含んだ汚染水対策は想定外の事態が続き、原発事故収束の大きな障害となっている。日本が“国際公約”を果たす道のりは、決して楽観できない状況だ。
凍土遮水壁で流入防止
安倍首相はIOC総会の席上、五輪招致の最大の壁とみられていた汚染水問題について「状況はコントロールされている。今後も東京にダメージを与えることはない。私が保証する」と明言。質問に答える形で、汚染水は「(第1原発)港湾内の0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」「将来も健康に問題はないと約束する」と強い言葉を重ねた。
東京開催決定後、首相は「自信があるから(解決できると)申し上げ、海外からの不安を払拭できた。払拭できたからこそ日本が招致を勝ち得ることができた」と述べ、“国際公約”を表明した意義を強調した。
首相らが「安全」の根拠としたのは、国費470億円を投入する汚染水対策だ。7年後に汚染水はどうなっているのか。筋書きはこうだ。
1~4号機の建屋地下には現在、1日約400トンの地下水が流れ込み、汚染水を増やしている。これを抑えるため、2014年に建屋近くに大型くみ上げ用井戸を設置し、配管で迂回して海に流す「地下水バイパス」により、流入を1日170トンまで減らす。増設する高性能浄化装置で放射性物質を取り除く。「凍(とう)土(ど)遮(しゃ)水(すい)壁(へき)」で流入を防いだうえで建屋から水抜きし、五輪が開催される2020年度中には建屋内のたまり水はゼロに。残る汚染水は、地上タンクに保管されている約80万トンだけになる-という。
歯車狂えば…空回り
このシナリオには「もし」という言葉がない。歯車が1つでも狂えば、「7年後」は空回りを始める。
凍土遮水壁の効力は未知数で、建屋への流入を止めることができなければ収束が遅れる。高性能浄化装置が十分機能するかどうかでも状況は大きく変わる。すでに約60種類の放射性物質を取り除ける多核種除去装置(ALPS)が設置されたが、試運転で配管に腐食が見つかり、全て停止した。
浄化後の海への放出にも全国漁業協同組合連合会が猛反発。タンクでの保管の長期化には漏(ろう)洩(えい)のリスクがついて回る。
「地元や国際社会へ状況を説明するソフト面での対策も不可欠。少なくとも5年後を目標に、さらに理解を得られるよう説明すべきだ」。エネルギー総合工学研究所の内藤正則原子力工学センター部長(68)=原子炉工学=が訴える通り、招致実現を目指した「安全宣言」だけでは汚染水は止まらない。
楽観できぬ「五輪国際公約」 汚染水
楽観できぬ「五輪国際公約」 汚染水
2013.9.11 09:06 (1/2ページ)
福島から40キロの沖合で海をみつめる漁師。放射性物質の影響などを調べるため定期的に出港しているが、汚染水問題の深刻化を受け、地元のいわき市漁協と相馬双葉漁協では、再開したばかりの試験操業を9月から再び中断した=8月26日、福島県いわき市沖(AP)
福島から40キロの沖合で海をみつめる漁師。放射性物質の影響などを調べるため定期的に出港しているが、汚染水問題の深刻化を受け、地元のいわき市漁協と相馬双葉漁協では、再開したばかりの試験操業を9月から再び中断した=8月26日、福島県いわき市沖(AP)
2020年夏季五輪の東京開催が決まり、政府は10日午後、安倍晋三首相(58)と全閣僚による閣僚会議を開いた。首相は席上、国際オリンピック委員会(IOC)総会で解決を約束した東京電力福島第1原発の汚染水問題について、「政府一丸となって、しっかりと責任を果たす」と改めて対策を急ぐ考えを示した。だが、東日本大震災から11日で2年半を迎えるいまも、放射性物質を含んだ汚染水対策は想定外の事態が続き、原発事故収束の大きな障害となっている。日本が“国際公約”を果たす道のりは、決して楽観できない状況だ。
凍土遮水壁で流入防止
安倍首相はIOC総会の席上、五輪招致の最大の壁とみられていた汚染水問題について「状況はコントロールされている。今後も東京にダメージを与えることはない。私が保証する」と明言。質問に答える形で、汚染水は「(第1原発)港湾内の0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」「将来も健康に問題はないと約束する」と強い言葉を重ねた。
東京開催決定後、首相は「自信があるから(解決できると)申し上げ、海外からの不安を払拭できた。払拭できたからこそ日本が招致を勝ち得ることができた」と述べ、“国際公約”を表明した意義を強調した。
首相らが「安全」の根拠としたのは、国費470億円を投入する汚染水対策だ。7年後に汚染水はどうなっているのか。筋書きはこうだ。
1~4号機の建屋地下には現在、1日約400トンの地下水が流れ込み、汚染水を増やしている。これを抑えるため、2014年に建屋近くに大型くみ上げ用井戸を設置し、配管で迂回して海に流す「地下水バイパス」により、流入を1日170トンまで減らす。増設する高性能浄化装置で放射性物質を取り除く。「凍(とう)土(ど)遮(しゃ)水(すい)壁(へき)」で流入を防いだうえで建屋から水抜きし、五輪が開催される2020年度中には建屋内のたまり水はゼロに。残る汚染水は、地上タンクに保管されている約80万トンだけになる-という。
歯車狂えば…空回り
このシナリオには「もし」という言葉がない。歯車が1つでも狂えば、「7年後」は空回りを始める。
凍土遮水壁の効力は未知数で、建屋への流入を止めることができなければ収束が遅れる。高性能浄化装置が十分機能するかどうかでも状況は大きく変わる。すでに約60種類の放射性物質を取り除ける多核種除去装置(ALPS)が設置されたが、試運転で配管に腐食が見つかり、全て停止した。
浄化後の海への放出にも全国漁業協同組合連合会が猛反発。タンクでの保管の長期化には漏(ろう)洩(えい)のリスクがついて回る。
「地元や国際社会へ状況を説明するソフト面での対策も不可欠。少なくとも5年後を目標に、さらに理解を得られるよう説明すべきだ」。エネルギー総合工学研究所の内藤正則原子力工学センター部長(68)=原子炉工学=が訴える通り、招致実現を目指した「安全宣言」だけでは汚染水は止まらない。