県知事には原発を停止する権限はありません。しかし、鹿児島県知事のみ三反園知事は選挙公約でそれを宣言し、当選しました。権限もないのに県知事が公約で掲げることには批判がありましたが、法的に権限がないからと言って原発停止を主張することが無意味だとは思いません。政治家の姿勢として原発に対してきちんと意見を主張することは大切です。
川内原発、停止要請へ 権限なく異例
鹿児島県知事に初当選した元テレビ朝日コメンテーターの三反園訓(みたぞのさとし)氏(58)が28日、新知事に就任し、国内で唯一稼働している九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(同県薩摩川内市)の一時停止と点検を、8月下旬から9月上旬に申し入れる考えを表明した。知事に稼働中の原発を止める法的権限はないものの立地自治体の要請を一蹴することは困難とみられ、政府や九電は苦しい判断を迫られそうだ。【杣谷健太、遠山和宏、門田陽介】
「熊本地震があり、原発は本当に大丈夫かという不安が県民の間にある。九電に強く(一時停止を)申し入れる」。停止を選挙公約に掲げていた三反園知事は就任記者会見で明言した。九電の3号機増設計画についても「今の状況では難しい」とし、「原発に頼らない社会に一歩でも二歩でも近づける」と述べた。
原子炉等規制法では、自然災害で事故が起こる恐れがあるなどの場合、原子力規制委員会が運転停止を命じることができるが知事に権限はなく、三反園知事の要請は極めて異例。一方、首相レベルでは「政治判断」で停止させた例はある。
東日本大震災から2カ月後の2011年5月、南海トラフ巨大地震の震源域にある中部電力浜岡原発(静岡県)に対し、菅直人首相(当時)が運転停止を要請し、中部電が受け入れた。浜岡原発はこれ以降、再稼働できないままだ。米スリーマイル島原発事故(1979年)後に、当時の大平正芳首相が、同じ形式の関西電力大飯原発1号機(福井県)の停止を求め、2カ月停止したこともあった。
三反園知事は会見で「権限のあるなしに関係なく、県民の不安に応えるのが知事の責任だ」と主張。九電は「熊本地震後にも安全性を確認している」(幹部)と、運転停止にすぐに応じる考えはないが、法的な定期検査のため1号機は10月6日、2号機は12月16日に停止する予定。九電はそれぞれ約2カ月後には再び稼働させたい考えだが、計画通り運転再開できるのかが焦点となる。
九電内には「知事が運転再開に強硬に反対すれば、ためらわざるを得ない」との声がある一方、「知事の意向で原発が止まる前例を作れば、全国の電力会社に影響する」との懸念もある。政府は30年度の電源構成比で、原発の割合を「20〜22%」とする目標を掲げているが、達成には全国42原発のうち30基程度の稼働が不可欠だ。経済産業省も鹿児島県の動きが全国に広がることを警戒する。
首藤重幸・早稲田大法学学術院教授(原子力行政法)は「法的には、自治体が原発を止めるのは無理かもしれないが、政治レベルでは可能。(住民の安全を守ることを自治体に求める)地方自治法の精神を再認識することが大事だ」と指摘する。
避難計画、県が独自調査
三反園知事は川内原発の安全性や避難計画について県独自で調査する第三者組織「原子力問題検討委員会」(仮称)を設置する方針だ。
三反園知事が問題視しているのが、川内原発が事故を起こした際の住民の避難計画の実効性だ。政府の指針は、原発から半径5キロ圏の住民は事故の兆候があったらすぐに避難し、5〜30キロ圏の住民は原則屋内退避して線量が上がれば30キロ圏外に避難する仕組みで、周辺自治体はこの指針に沿って計画を作成している。
しかし、震度7を2度記録した熊本地震では余震への不安から多くの人が屋外に避難し、高速道路や国道などの避難経路も寸断された。地震と原発事故が同時に起こる複合災害下で、避難計画が有効に機能するのかといった論点が検討委のポイントになりそうだ。
鹿児島県だけでなく、立地自治体は避難計画に不安を抱える。福岡市で28日開かれた全国知事会議でも、福井県に隣接する滋賀県の三日月大造知事は「大規模地震が発生した時に、多くの住民が屋内にとどまることに懸念を抱くと思われる」と指摘。島根県の溝口善兵衛知事も「屋内避難といった防護対策の見直しが必要。政府全体で考えるべきだ」と提案した。
避難計画は国の指針に従って自治体が作る一方、国がその実効性を審査する仕組みはなく、再稼働の要件に含まれていない。避難計画を独自検証する動きが全国に広がれば、今後の再稼働のハードルが上がる可能性もある。
九州電力川内原発を巡る経過と今後の流れ
2014年9月 1、2号機が原子力規制委員会の審査に合格
11月 鹿児島県の伊藤祐一郎前知事が再稼働に同意
15年8月 1号機が再稼働
10月 2号機が再稼働
16年7月10日 鹿児島県知事選で、三反園訓氏が伊藤前知事を破り初当選
28日 三反園氏が知事就任
8月下旬 三反園氏が九電に1、2号機の停止要請
〜9月上旬?
10月 6日 1号機が定期検査のため運転停止の予定
12月16日 2号機が定期検査のため運転停止の予定