崩れる予報はなかったはずだが、尾根筋はガスに巻かれている。
季節風のハシリとでも言うような強い北西風に乗って雨粒がパラパラと吹き飛んでくる。
裏岩手連峰を南北に横断する奥産道が自然破壊に繋がるとして工事中止になって久しい。
その舗装道路はほぼ尾根筋にまで達する完成度のはずだが、現在登山者はそのかなり手前に設けられたクルマ止めからスタートする。
梢を渡る風の轟音、折からの雨と共にパラパラ降ってくるブナの実。
オラはその森の生き物の食料を踏まぬよう45分のアプローチを辿る。
やっと辿りつく登山口にはクマに注意の立て看板。
雨の登山道はかなりの悪路で、途中から戻って来たと言うご夫婦とすれ違う。
ここから10分ほどブナ林の中を行くと、滝ノ上温泉から登ってくる登山道に合流。
一瞬展望が開けて風当たりは強いが、葛根田地熱発電所施設の一部が遠望できた。
ダケカンバとアオモリトドマツの混交林の中の厳しい直登。
火山性の岩ゴロゴロの急傾斜はでただでさえ歩き難いのに、強まる雨に泥濘化した地面には再三足をとられる。
オラの弱った体力で果たして頂上まで行けるのか。
雨がどんどん強まってきたことだしここで戻るべきかと思案しながらも、足だけは思いのほか軽快に動いてくれた。
コースタイムを上回る1時間20分で三ツ石避難小屋に着いた。
70を過ぎた爺つぁまの山登り、意外にも脚力はまだ衰えてはいなかったらしい。
しかし問題は下りな訳で・・・。
強風を伴って強さを増す雨、避難小屋には登山者が10名ほどが晴れ間待ち。
ガスの流れは速く、時折ちらりと青空も覗くが窓から眺める東側の大松倉山の頂は殆ど見えない。
空を見上げて行くか戻るか悩んだ45分。
一瞬大きく広がった青空、オラは急かされるように小屋を飛び出した。
三ツ石の登りに掛かって10分ほどで森林限界である。
相変わらずの泥と水溜りとゴロ石に苦しめられながら、直登すること30分。
立ち込めたガスが強風に吹き飛ばされると、山頂を形成する大岩が日差しを浴びて輝いた。
11:45、オラはクルマ止めからの標高差500mを登り切り、25年ぶりに三ツ石山頂に立った。
次々に登山者が登ってきた。
ここまで飲まず食わずのオラ、岩陰で風を避けながら飯を食った。
既に盛りを過ぎているかもしれない紅葉の尾根筋、その向こうに山頂部が雪雲に覆われた秀峰岩手山。
若かりし頃の山仲間の顔を想い浮かべながら、暫し瞑想にふけるオラ。
天候は回復基調、西側小畚岳から大深岳を経て八幡平に伸びる雲上の散歩道、その奥にさらに重々する奥羽の山並みも見え隠れする。
小休止の後、オラはそのまま一気に奥産道まで下りた。
膝が笑い泥や草に滑りながら何度も尻餅をつき、簡易な雨具はあってもゲーターをしないズボンの裾は泥だらけ。
クルマ止めゲートの何と遠いことかを恨んだりしながら、味気ない舗装路を疲れた足取りでヨタヨタと歩く。
着替えを持ってこなかったオラ、泥汚れのままでは温泉入浴も遠慮せざるを得なくそのまま帰宅。
かくして爺つぁまの山登りはなんとか無事に目標達成。
風呂を浴びてくつろいだオラだったが、今度は何処に登ろうかなんて考え始めた訳で・・・。
その前に最低限の山の装備揃えなくちゃ・・・。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます