1992年に、将棋の故・米長邦雄氏は、尊敬する唐招提寺の鑑真和上座像の前に座りました。(鑑真は、日本に渡航を試みて5回失敗、6度目に成功を果たした「不屈の人」です)。その日の夕食の席で、米長氏は「和上像の前で突然、鳥の声が響いた。すごかったね」と漏らしました。「何も聞こえなかった」と不思議がった同行者は「迦陵頻伽(かりょうびんが)の声かも」と言いました。迦陵頻伽とは、仏教で極楽にいるという想像上の鳥で、妙なる鳴き声を持つとされています。米長氏はこれを吉兆と受け止めました。翌1993年春、米長氏は7度目の名人挑戦権を勝ち取りました。中原誠名人には5度名人戦で敗れていましたが、6度目に中原氏を倒して名人位につきました。49歳11か月での名人奪取は史上最年長記録でした。その後、米長氏は、寺に「お礼をしたいと」と申し出ましたが、寺の長老は「お金は結構です」と辞退したそうです。そこで米長氏はお気に入りの長野県の店から毎月1回、豆腐を贈りました。修行僧や職員が昼食時の楽しみにしたという豆腐の贈り物は十数年続いたそうです。
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