山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

莫山先生の死を悼む

2010-10-18 03:11:50 | 宵宵妄話

 

の10月3日に莫山(ばくざん)先生が亡くなられました。有名人の方が少しずつこの世から去ってゆかれるのを知る度に、それぞれの方々が作られた時代が、又一つ終ってゆくのだなという思いが強くなります。

 
莫山先生とは、書家の榊莫山先生のことです。書家というよりも詩人というのか、或いは現代の飄々たる革新的風流人というのか、とにかく一風変わった生き方をされたアーティストではなかったかと思っています。それは莫山先生の書に見事に表現されていますが、その真髄は先生の生き方そのもの(=人生)が一つのアートであったことにあるように思えるのです。

 
私事ですが、中学から高校に進学した時、芸術科目として絵画・音楽・書道の3教科があり、その中から1つを選択しなければならなかったのですが、字が下手で汚い自分は是非とも書道を学びたいと選んだのでした。ところが、どういうわけなのか(多分文系ではなく理系志望だったためなのかと思うのですが)強制的に音楽の教科に繰り入れられてしまい、授業で書を学ぶ機会が失われてしまったのでした。やむなく独学で書を学ぼうと少しばかり取り組み始めたのですが、生来のグータラは如何ともし難く、高校・大学と中途半端なままに時間を過ごして来たのでした。それは本質的に今も変わっていないのですが、書に対する関心だけは、今も忘れないで居られるのは、莫山先生の書と出会ったからだと思っています。

 
20代の中頃、私は莫山先生の書と出会いました。40年を越える昔の話です。就職して仕事に慣れ出した頃に、もう一度書を学び直してみようと思い、書店で手本となるようなものを探していました。千字文や王義之の拓本などの手本はそれなりに持っていて、とにかく忠実にそれを真似ることばかりに励んでいたのですが、そのようなことばかりで良いのかと時々嫌気が差して、何か面白いものはないのかと思っていた時に莫山先生の書に出会ったのです。イヤア、その時の感動は今でも忘れません。形にとらわれず、躍々として、しかもどこかに気品のある、まさに活きた線が作り上げた字なのでした。それは簡単に真似のできないものでした。しっかり基本をマスターすれば、このような自由な心境を表わす表現ができるのだという手本だったのです。

 
それから後は肩の力を抜いて字を書くように努めました。私にとって字はアートではなく、表現の手段の又手段というような存在です。ものを書くためのツールであり、それが判りやすいツールであることが大切というような考え方なのです。もし字をアートと考えるならば、やはり莫山先生のように本物の詩を作る力が必要のように思います。心の吐露としての詩情の表現が、文字となり書となってそこに現れたとき、本物のアートとなるのだと思います。


 「花アルトキハ花に酔ヒ、風アルトキハ風ニ酔フ」という自然と人とのふれあいの微細なる感覚から「花アルトキは花ニ酔ヒ、酒アルトキハ酒ニ酔フ」というコマーシャル含みの表現への自在の変転は、書の力と相俟って、その心境の無限の広がりを感じさせてくれます。莫山先生の作品に触れると、単に字を巧みに書くだけの書家は、人間としては本物ではないように思えるのです。


ところで、最近は滅多に字を書かなくなりました。ペンを握って字を書くのは日記ぐらいで、その他は(手紙でさえも)殆どパソコンのワープロ機能に依存しています。ましてや筆を持って字を書くというのは、年に一度もない状況です。本当にこれでいいのかと不安を抱くことがあります。確かにパソコンは加筆も修正も自在であり真に便利なツールです。時に辞書を引くことさえも省略してしまうこともあるほどです。その利便さに馴れるに連れて、自分の頭の中が次第に軽く薄っぺらになってゆくような気がして、これじゃあ不味いんじゃないのと、一しきり反省の黒雲が広がるのを覚えるのです。


間もなく古希を越えようとしていますが、これを機に、そして改めて莫山先生の書と出会った時の感動の原点に戻って、物書きの世界とは別に書というものの世界にも足を踏み入れてみようかなと思っているところです。


莫山先生には一度もお会いしたことがなく、書籍やTVの映像などでお目に掛かっただけなのですが、とにかく心惹かれるお方でした。お亡くなりになられたことは本当に残念です。頂戴した感動の大きさに感謝しつつ、心からご冥福をお祈りいたします。

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