goo

各国企業の会議

『会議の9割はムダ』より 世界のトップ企業の実情

インド企業の会議

 インド企業といっても、筆者がアクセスできたのは、バンガロールのホワイト・シティやエレクトリックーフィールズといったITクラスター地域に拠点をおく限られた企業であり、そこに存在するのはことごとくグローバルIT企業である。

 つまりこれらは上記の〝グローバルIT企業〟とまったく同じであると考えていい。しかもインド人の場合は言語や環境にまったく障害がないため、欧米とインドを頻繁に行き来しており、カルチャーもきわめて似通っている。

 インドのITクラスターは、厳格なセキュリティのゲートを通らないと入れず、完全に周囲とは隔離されている。したがって、現地の企業群はこれら企業と大きく異なっている可能性も否定できない。しかしインドのIT企業は現地の下請けを多用しており、それら下請けに対して自社内と同様の管理を要求する。筆者が会議観察できた現地下請け企業も、会議は十分に的確かつ厳格に行われていた。

 グローバル化、あるいは英米化の傾向は、インドと同様に植民地統治の影響を受けたシンガポール、香港、マレーシアなどにも共通してみられる。インドネシアはイスラム教の民族系が政治・軍事的な影響力を確立したが、経済においてはキリスト教の華人財閥ネットワークが支配しており、そこではリーダー主導型のグローバル企業と同様の会議運営形態が一般的である。

中国企業の会議

 中国の経済もインドと同様にグローバリゼーションにおいて発展した。インドがIT系であるのに対して、中国は製造系という違いはあるが、そこでもグローバル企業のプレゼンスは非常に大きい。そしてインドの現地下請けと同様に、製造の下請け企業もグローバル企業の管理基準に準拠している傾向が強い。

 日本企業が、現地企業の管理には自社と同等に近いレペルを要求し、管理がいい加減な企業とは取引をしないのと同じである。したがって、現地の各企業の会議においても、厳格な管理志向の傾向がみられる。グローバリゼーションの会議基準が、中国の地方都市にまで浸透しているという印象である。

 それではグローバル企業と取引のない、沿岸都市以外の、内陸のドメスティックな企業ではどうであろうか。中国の企業は、外資系やベンチャー系企業と旧来の国営企業の二つに大きく分類される。筆者らは四川省成都市の経済局(日本の経産省に相当)の協力を得て、2004年に国内国営企業の会議を調査したことがある。

 結論としては、会議の準備、計画、その管理はかなり厳格に行われていたことに非常に驚かされた。優良企業のみが当局に紹介された可能性を差し引いても、しつこく質問を重ねた結果、的確な管理体制は全般的に定着しているという印象を得た。

 それは共産党の時代から、各企業、各個人の責任を明確に設定し管理するという経営手法が一般化しているからということであった。各個の責任と役割が明確であるため、それらをすりあわせるインターフェース(規定や決まりなど)も明示されることになる。責任が明確になっていると、緊張感が増し、必要なことを確実に行うという観点からは好ましい影響が生まれるのである。

 そのような見える化の努力が、会議を含めて歴史的に追求されてきており、それがグローバル企業の管理基準を受け入れるのに十分な土壌として備わっていたと考えられる。

北欧企業の会議

 北欧企業の違いを際立たせるために、その紹介の前にまず、世界的な一般動向について確認しておく。ヨーロッパは元来、旧ソ連からの影響に対抗するために労働者の権利を尊重する社会民主主義的な文化が強い。筆者が客員研究員として駐在していたベルギーも社会民主主義的な政治体制をとっているが、それでもビジネス・スクールや企業のガバナンスは米国型のリーダーシップ重視である。

 米国型がグローバル型として世界を席巻するようになる中で、反米という感情も根強かったように思われるが、それでも米国型マネジメントが徐々に広まってきている。

 グローバル企業では、相互の人材移動が日本からは想像できないほど活発に行われている。欧米で生まれて教育を受けたインド人や中国人が母国に帰って活躍し、インドや中国の企業が欧米的な運営を取り入れるようになっているが、アフリカや中東、東南アジアも多かれ少なかれ、これに近い。

 グローバル型の会議とは、米国MBA型であるということができる。米国ビジネス・スクールは世界中に拡散しており、多くの非米国人の卒業生を生んでいる。フランスやスイスのビジネス・スクールがブランドを確立したのは、非英語圏で英語でのビジネス・スクールを展開したことが大きい。今やイタリアやスペインでさえも英語のみで講義を行うビジネス・スクールやデザイン・スクールが増えており、それらは米国MBA型の教育方針を採用している。

 ハーバード・ビジネス・スクールは誰にでも教育ができるようにできているケース教材と講義マニュアルをセットで世界中に輸出している。それは一言でいえば「リーダーシップ教育」である。

 つまり1人で全社の戦略に準拠した意思決定が現場で行え、それを部下に徹底する力をもったリーダーの育成である。そこで目指すものは個人の意思決定と執行管理であるため、原則、会議は重視されない。しかし、現場からの情報収集や全メンバーによる確認、実際に顔を合わせたうえでの指示・通達、そして特に全員の前で各メンバーがコミットメントを宣言するという管理では、会議が重要な役割を担う。

 前置きが長くなったが、世界で唯一、米国MBA型が一般化していないのが、日本を除けば北欧企業なのである。そこでは合意形成と参加意欲が重視された管理スタイルが追求されている。筆者らは北欧諸国に近いといわれるオランダを選択して、同国で取締役会の研究者と会議形態について6か月間にわたり調査分析を行った。どのようにして「合意形成と参画意欲」を形成しているのかを研究テーマとして約10社の取締役会などを分析した。

 そこから得られた結論は、合意形成というのは建前にすぎず、実態は権力、権限、権威によって力ずくで「合意」が形成されているという姿であった。全員参加の議論は形式的にのみ重視され踏襲されるが、議論が混乱すると必ずといっていいほどパワーをもつ者、声の大きい者が支配するという傾向が強いというのがわれわれの結論である。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 二一世紀の富... 社会主義の性... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。