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中国が世界一の経済大国になる日は来るのか

『グローバリズム後の世界では何が起こるのか』より 大転換後の世界と民主主義の将来 中国が世界一の経済大国になる日は来るのか

米中の力関係の将来を予測するにあたっての、ポイントは2つです。

第一のポイントは、中国はアメリカを抜いて世界一の経済大国になれるのか、なるとしたらそれはいつなのかという問題です。

かつては二〇二〇年あたりという予測もありましたが、今これを信じる人はいないでしょう。

リーマンショツクの後になっても、中国研究者の間では、「保八」などという表現で八%成長という数字が、固く信じられていました。新規の労働市場参入者の若者に十分な職を与え、社会不安を惹起しないためには最低八%成長が必要であり、政権はあらゆる手段を使ってこれを達成するだろうなどという専門家のまことしやかな解説を、筆者も聞きました。

しかしこの解説は、その後の展開により覆されます。習主席が七%成長を「新常態」と呼んだことで、保八のスローガンは消えてなくなりました。そして、八%成長が達成できなければ社会不安が必然と言っていた識者は、口を閉ざしてしまいました。

最近は中国政府は、6・5%成長を目標に経済運営を行っています。世銀の統計によれば、二〇一七年時点で中国の名目GDPは、アメリカの63・1%相当ですので、中国経済がこのまま十二年間6・5%の成長を続け、アメリカの成長率が例えば2・5%にとどまり、為替レートが一定であれば、二〇三〇年に中国のGDPがアメリカを抜くという計算も成り立ちます。

しかし、そのような計算通りにいくのでしょうか。アメリカのGDPが直近で四%台の伸びを示していることを捨象しても、中国経済は今後も6・5%成長を続けられるのでしょうか。

それには三つの問題点があります。第一の問題点は、中国の場合、統計資料の信憑性の問題もあり、現在のトレンドがそのまま続くという類の未来予測が当たらないことがよくあるということです。それは、「保八」のケースで見たとおりです。

はからずも二〇一七年あたりから習主席は、「成長の量から質への転換」を掲げるようになり、これまでのように地方政府幹部の人事評価で成長率が重視されなくなったと報じられています。

すると、地方のGDP統計の水増しが、次々と明らかになってきました。遼寧省は二十%、内モンゴル自治区に至っては四十%水増ししていたという報道もあります。これから隠されていた水増しを是正するため、成長率は、さらに下がるのかもしれません。

第二と第三の疑問は、中国にとって、より本質的な課題を示しています。

第二の問題点は、開発経済でよく議論される「中所得国の罠」という概念です。

これは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが一万ドル程度の水準に達した後、成長率が鈍化し、なかなか高所得国の仲間入りをできない状況を指します。世銀の研究によると、戦後これまで中所得国の罠に陥ることなく高所得国になれたのは、シンガポール、香港といった都市型の小規模な経済を除けば、日本、韓国、台湾、スペイン、アイルランド等世界全体でも12か国しかありませが。

中国が中所得国の罠に陥らないためには、これまでの先進国から技術と資本を導入し、それによって作った製品を海外市場に輸出して稼ぐモデルから、卒業しなければなりません。産業の高付加価値化が不可欠です。

そのためには、過剰債務の解消、国営企業の改革、労働市場の改革に加え、教育、社会保障の充実、法の支配の徹底といった、社会全般の改革が必要になります。中国の場合、これらの広汎な課題を、社会主義に基づく市場経済の枠内で解決しなければなりません。

第三の問題点は、人口動態がこれから中国に不利に働くことです。

中国の生産年齢人口はすでに二〇一一年から減少期に入り、もはやこれまでの人口ボーナス効果は期待できません。二〇一六年には一人っ子政策を廃止し、その年の出生数は増加しましたが、二〇一七年には再び減少に転じています。

中所得国の罠を抜け出すのに成功した日本と韓国でも、その後成長率は年を追うに従って鈍化しました。成長率低下の理由は複合的ですが、生産年齢人口の減少が日本は一九九五年から、韓国は二〇一七年から始まったことが、大きな要因であることは明らかです。そして両国とも、10%レベルの高成長から、安定成長と言われる3~4%近辺に減速し、さらに日本の場合は、過去二十年以上1%近辺で停滞しています。

それにもかかわらず中国だけが今後も6%台の成長率を保ち続けることが可能だとしたら、日本、韓国にはない相当強力なプラスの要因が、中国経済にはあることになります。しかし中国の場合は、日本、韓国と違って、まだ中所得国の罠を抜け出ていないという、マイナス要因が加わることも考えると、そのような可能性には疑問符がつきます。

次に、将来の米中の力関係を予測するにあたり、重要な第二のポイントに移ります。それは、仮に中国経済がアメリカ経済に名目GDPで追いついたとしても、それが直ちに両国の国力が並んだことを意味するものではないということです。

ちなみに、すでに二〇一四年には、中国のGDPが購買力平価(PPP)換算で、アメリカを抜いて世界一になっています。当時、これをG2時代の到来を告げるものだなどと、はやし立てる識者もいました。しかし、それから四年たったところで、この統計上の出来事が、実際に米中の力関係のバランスを動かしたという主張は、寡聞にして知りません。

そもそもPPPとは、各国国内において同等の価値の商品を購入する場合、それに支払う金額が等価となるような為替レートです。各国の実質的生活水準を比較するのに適しており、開発途上国に対する経済援助の必要性を検討するときなど、参考になります。

人口がアメリカの4倍以上ある中国の、経済のサイズがPPP換算でアメリカに並んだということは、平均的中国人の実質的生活水準が、アメリカ人の四分の一になったことを意味するに過ぎません。それは国全体としての経済的パワーを表すものではありません。

国力を比較するのであれば、実際の取引に適用される名目のレートのGDPを参照すべきです。これは先ほど述べたように、最新の数字で、中国はアメリカの63・1%です。
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