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未唯への手紙

未唯への手紙

コミュニティ心理学の社会変革

2012年11月04日 | 3.社会
『よくわかるコミュニティ心理学』より

①なぜ社会変革が求められるのか

 コミュニティ心理学の理念の一つにあげられているように、社会変革はコミュニティ心理学にとって大きな意味をもっています。なぜなら、コミュニティ心理学は、広い意味での「社会問題」を、人と環境(物理的・社会的・文化的・人的)との間の乏しい適合性に起因していると考えており、人と同等もしくはそれ以上に、環境への介入によってこれを改善しようとするところに特徴をもっているからにほかなりません。

 ダッフィとウォンは「コミュニティ心理学の目標の一つは、研究で武装して社会変革を引き起こすことである」と言い、社会変革は今日世界に広く行き渡った必要条件であり、コミュニティの質を高める方向に向けた変革のためにコミュニティ心理学は何ができるか、を絶えず問う必要性があることを強調しています。

 では、なぜ社会変革が求められるのでしょうか。ダッフィとウォンは、その理由として7つの要因を挙げています。すなわち、①多様な住民の存在、②縮小する財源、③説明責任の要求、④知識や技術の急速な進歩、⑤コミュニティ・コンフリクト、⑥伝統的サーピスヘの不満、⑦社会問題の解決法の多様性に対するニーズ、というものです。これに基づいて筆者が作成した変革の例を挙げたものが表5です。

 ①多様な住民の存在:社会が多様性の価値を尊重するようになるとともに、彼らのもつ特有のニーズを受け入れることになります。高齢者や障害者、失業者など、彼らは皆社会変革を求めるニーズをもつ特別な状況にある人々です。

 ②縮小する財源:世界的に経済が冷え込む中、国や地方公共団体の財源も乏しく、新しいコミュニティ・サービスを展開するには、ボランティアやNPOの活動を通したプログラムが求められます。

 ③説明責任(アカウンタビリティ):患者へのインフォームド・コンセントから食材の生産地の表示に至るまで、さまざまな説明責任が求められていますが、納得のいく回答が得られないとき、当事者は変革を要求するかもしれません。

 ④知識や技術の急速な進歩:IT革命に象徴されるように、技術革新は生活のあらゆる部分に大きな社会変革をもたらしていますし(例:携帯電話)、またそれがもたらすマイナスの面(例:原子力事故)は、別の社会変革への要因となっています。

 ⑤コミュニティ・コンフリクト:新興住宅地での地付き住民と外来住民の間の、地域慣習や運営を巡るトラブルなどがその典型例といえるでしょう。

 ⑥伝統的サービズヘの不満:旧来の地域の商店街のスタイルやサービスヘの不満がスーパーや量販店の進出を生み出したように、既存のコミュニティ・サービスに対する消費者の不満ほど社会変革を促進する原因はありません。同じことは、医療や教育などの領域についてもいえることでしょう。

 ⑦解決法の多様性への要求:多様な住民の存在を受け入れるならば、彼らがもちだす問題に対する解決法にも多様性のニーズが伴うのは必然で、解決のための選択肢が少なく、しかもそれがニーズに合致しないものであれば不満をもたらし、変革を要求し、創り出す原因となるでしょう。

②社会変革とは何か

 社会変革とは、文字通り「社会を変えること」ですが、コミュニティ心理学が“social change” を「社会変化」と訳さず、「社会変革」としたのには、そこに積極的に変えようとする意図を含ませている「変革」の訳語を当てることで、コミュニティ心理学の「価値」を表そうとしたことにほかなりません。

 先のダッフィとウォンは、自然発生的または非計画的変革と、誘導的あるいは計画的変革、つまり、災害(例:阪神大震災や新潟地震)や人口変動(ホームレスの増加や少子高齢化)による生活基盤の変動のように予想できなかったり意図しない変革と、意図的に変化を生み出すことを望んだり狙ったりする変革に分けています。そして、この両者は4つの点で区別され、計画的変革は、第1に範囲が限られていること、第2に変革によってコミュニティ・メンバーの生活の質(QOL)を高めることを志向していること、第3に変革によって影響を受ける人々に役割を与えていること、最後に変革エイジェソトとして行動する人間によって導かれることが多いこと、をあげています。

③計画的変革はどのようにして行われるか

 すでに見たように、社会変革を求める理由にはさまざまなものがあります。それでは、どのようにして社会変革は行われるのでしょうか。ここではその代表的な5つを紹介することとします。

 ①市民参加:最も素朴な社会変革の形態であり、自らに直接関わる社会問題に、改善を求めて協力し、関与し、参加するもので、「共通の目標を達成するために、個人が報酬なしで参加している、あらゆる組織化された活動への関与」とか、「個人が、自らに影響を及ぼす制度やプログラムや環境への意志決定に参加するプロセス」と定義されています。この中には、草の根運動やボランティア活動、自助グループも含まれます。

 ②ネットワーキング:ネットワーキソダに関して初めての書物を書いたリップナックとスタソプスは、「ネットヮークとは、われわれを結びつけ、活動・希望・理想の分かち合いを可能にするリンクである。ネットワーキングとは、他人とのつながりを形成するプロセスである」と言っています。同じ関心や価値を共有する自立した人間同士が、自発的に新しい創造的協力関係・社会連帯を作り、生活の質(QOL)を向上させることで社会変革を達成しようとする運動です。

 ③コンサルタント:専門的な変革エイジェソトとしてのコンサルタントが、コミュニティにあるうまく機能していないさまざまな社会組織(例:子供会やボランティア団体)を変革するべく、プログラムやニーズを評価するために関与するものです。中立の立場を保ちながら、経験に基づく豊富なアイディアや技術を提供することが求められます。

 ④教育と情報普及の利用:革新的なプログラムの有効性が明らかになった場合、

 多様なメディアを通じた情報の普及があれば、多くの時間や資金や労力を節約することができます。最近では、インターネットを介しての情報の公開が盛んに行われるようになり、これまでとは異なる新たな展開が期待されています。⑤公共政策:新しい法案や政策を通過させることや、既存の法律や政策を修正することは、社会変革を作り出す有力な手段の一つです。コミュニティ・メンバーの生活の質の向上を求める公共政策は、一般的には国や地方自治体の議員や政策立案者によってなされますが、市民として、また専門家として、審議会や公聴会などさまざまな機会や公の場での発言を通して、あるいは投書などを通して提案することは、大いになされる必要があります。

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