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巨大施設を、どうしてコロンビア高原なんかにつくったんだろう?

『インターネットを探して』より データが眠る場所

インターネットはトラフィックをきわめて効率的に移動させられるため--それに相互接続点がトラフィックのハブとして成功したため--データをどこで眠らせるべきかという疑問には決定的な答えが出せないでいた。ぼくたちがインターネットを介して情報をリクエストすると、どこからか情報がやってくる。ほかの人からか、それがたくわえられていた場所から。しかし、インターネットが日常的に起こしている奇跡のおかげで、そうしたデータは、理論上、どこにたくわえられていてもかまわないiそれでも、情報はぼくたちの元までやってくるのだ。そのため、小川模なデータセンターでは利便性で場所が決まる。設立者や顧客、つまり機械を調整しにくる必要のある人々のそばにあることが多い。ところがあいにく、データセンターは、規模が大きくなればなるほど、立地の問題が面倒になる。そのような巨大工場じみたデータセンターは、皮肉にも土地としっかりつながっていなくてもかまわないように思える。ところが、それなのに固まって建っている。

データセンターの場所を決めるにあたっては考えるべきことが何十もあるが、ほとんどすべてが、できるだけ安くハードディスクを--それも一五万台ものハードディスクを--作動させつづけ、冷やしつづけることに帰着した。建物自体のつくりが、とりわけ温度管理の仕方が効率に大きな影響をおよぼす。データセンターのエンジニアは、車の燃費にあたる〝電力使用効率〟(PUE)がすこしでも小さくなる建物を設計しようと懸命になっている。しかし、PUEを改善するための重要な外部変数のひとつに、建物の立地がある。車が平らでなにもない場所のほうが坂の多い街より燃費がよくなるように、データセンターは、作動しているハードディスクと強力なコンピュータを、外気をとりいれて冷やせる場所のほうが効率がよくなる。だが、データセンターはどこにでも立地できるため、どうやら、小さな差異が拡大されるらしい。

なにかしらの特徴を活用するためにピンポイントで慎重に決定するデータセンターの場所選びは、いうなれば物理的なインターネットの鍼治療だ。競争心旺盛な企業が優位に立とうと丁丁発止のやりあいを続けているうちに、いくつかの場所がほかの場所より望ましいことが明らかになって、その結果、データセンターは地理的に群れをなしている。大規模なデータセンターは、雪の吹きだまりのように、地球のおなじ隅にたまりはじめたのだ。

マイケル・マノスはたぶんだれよりも多くのデータセンターを建造した--マノスによれば一〇○前後にのぼり、最初はマイクロソフト、のちには大手ホールセール事業者のデジタル・リアルティー・トラストのデータセンターもつくったという。マノスは大柄で色白で気さくな男性で、コメディアンのジョン・キャンディ演じるところの不動産屋のように早口でまくしたてる。そんな性格は、ものになりそうだったらすばやく杭を打たなければならないデータセンター業界にはうってつけだ。マノスが二〇〇五年にマイクロソフトに入社したとき、同社は世界のあちこちにある三つの施設におよそ一万台のサーバーを設置して、HotmailやMSNやxboxゲームなどのオンラインサービスを運営していた。四年後に退社するまでに、マノスはマイクロソフトがデータセンターを世界各地に、サーバーを拡大するにあたって尽力した--「だけど、正確な数はまだいえないんだ」とマノスはぼくにいった。正確な数はまだ秘密だった。これはマイクロソフトの歴史でも例を見ないスケールの拡大で、いまにいたるまで、ここまでの急拡大をした企業はほんのひと握りしかない。「この星で、ここまでスケールの大きなことをした人は多くないだろうね」とマノスはいった。マノスほど世界を駆けまわった人は、もっとすくないはずだった。

マノスはマイクロソフトで、五六もの基準を参照し、緑(最適)から赤(最悪)に色分けしてデータセンターに適した場所をあらわすマッピング・ツールを開発した。しかし、コツはスケールを見誤らないことだった。州レべルで見たら、オレゴン州は不適格に思える--もっぱら、地震のような環境リスクのせいで。ところが、ズームインすると話は違ってくる。地震帯があるのは州西部だし、オレゴン中部には寒冷で乾燥しているという--外気を使ってハードディスクを冷却するのに最適な--利点がある。意外にも、土地代金は、それどころか建物の建造費も、方程式にはほとんど影響をおよぼさない。「数字をいうと、コストの八五パーセントくらいは、建物のなかの機械システムと電気システムが占めてるんだ」とマノスは説明してくれた。

「土地とコンクリートと鋼鉄にかかるコストは、平均で約七パーセントなんだよ。ほんのちょっぴりなのさ! だから、縦に長い建物と横に広い建物のどっちがいいんですか? よく訊かれるけど、どっちだって大差ないんだ。つまるところ、この手の施設には、不動産代金も多額の建設費用も、たいした問題じゃないのさ。箱にどれだけ機械を詰めこむかで費用が変わってくるんだ」それに、もちろん、電気代も重要だ。「データセンター関係者はいつだってふたつのことに注目してる」とマノスはいった。「妻は以前、わたしは景色ばっかり見てると思ってたそうだ。だけど実際には、電線と、電線から下がってるファイバーを見てたんだよ」つまり、マノスはザーダルズでぼくが泊まった部屋からの眺めを探していたのだ。
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