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未唯への手紙

未唯への手紙

シャープの今後と日本企業のものづくり

2017年07月28日 | 5.その他
『21世紀 ICT企業の経営戦略』より 鴻海とシャープの経営の相違および買収後の展望

シャープの今後

 本節では、シャープの今後について、堺ディスプレイプロダクトからの示唆、そして、鴻海の傘下に入ることのメリットと懸念を追っていく。

 1.堺ディスプレイプロダクトからの復活からの示唆

  シャープが2009年に4200億円をかけて新設した堺の液晶パネルの巨大工場は、2012年3月期にシャープが計上した大赤字の主犯とされた。そこで、その直後に鴻海が経営に参画しシャープ本体から切り離され、「堺ディスプレイプロダクト」という企業となった。

  この堺ディスプレイプロダクトは、鴻海の経営参画後わずか半年で、早くも黒字に転じるという、驚くべき復活劇を見せた。堺ディスプレイプロダクトに対し、鴻海が行ったてこ入れは、以下の通りである。

  技術陣はパネルの原価構造を根本から見直し、歩留まりを100%近くに引き上げた。そして、鴻海からの営業の精鋭部隊約50人が、アメリカの新興テレビメーカーのビジオなど、新たな販路を開拓した。この結果、鴻海の出資前は3害りだった生産ラインの稼働率が9害ljを超え、またたく間の黒字転換を果たしたという(『日本経済新聞』2012.11.22 ;『聯合晩報』2012.11.13)。

  このように、鴻海には、これまでのシャープになかった、「販路の開拓」を行う能力と機動力がある。これらは、シャープにもプラスとなるものと思われる。

 2.鴻海の傘下に入ることのメリットと懸念

  シャープにとって、鴻海の傘下で、鴻海の経営手法や交渉力、高度な生産技術、充実した生産設備による効率的な大量生産を利用できることは、大きなメリットであろう。

  また、赤字からまたたく間に再生した堺ディスプレイプロダクトのように、販路の開拓等の具体的な黒字転換の道筋が示されることも、メリットであろう。これまでのシャープは、技術をいかに利益に結びっけるかという点が弱かった。つまり、開発した技術がいったん量産可能になった後は、次の技術の開発に関心が移り、その技術を生かした製品の販路の拡大には注力してこなかったようであった。赤羽によれば、結局のところ技術は市場に従属しなければならない。シャープは今後、鴻海の傘下で「はじめに技術ありき」ではなく、「はじめに市場ありき」という姿勢で、技術を利益に結びつける、という観点からの製品開発や販路の開拓を行っていくことを促されるのであれば、それはシャープにとってプラスとなるだろう。

  一方で、懸念材料も数多くある。

  第一に、鴻海の企業風土に、シャープの社員が馴染めるかということである。シャープは典型的な日本の伝統的電機メーカーで、個人の能力や達成度が大きく昇給に影響することもなく、皆ほどほどに昇給してきた。しかし鴻海は、先述の通り、徹底した実力主義を貫く企業である。また、新卒で入社後、定年退職するまで長く勤めるのが一般的な企業風土のシャープと異なり、鴻海では社員の入れ替わりも非常に盛んである。これらの差異は、今後大きな問題となるだろう。

  第二に長期的視野に立った経営や、研究開発の芽が失われる可能性があることである。先述の通り、台湾企業は多かれ少なかれ、長期的視野に立った研究開発を行わない傾向にある。一方でシャープは、1969年に千里万博への出展を取りやめて天理に研究所を設けて以来、長くコツコツと液晶の研究開発を行い、1990年代にその蓄積を開花させた。また、シャープの強みは、さまざまなアイディアを発案して、消費者を驚かせるような日本初・世界初の製品を企画・開発することであるが、豊富なアイディアを試せる環境でなければ、そのような企画・開発力は発揮できないと思われる(『日経エレクトロニクス』2016.4、27頁)。このシャープの企業風土が失われれば、これまでのような目本初・世界初のイノベーションを生むことは難しくなるかもしれない。

日台連携の今後、日本企業のものづくりの今後への示唆

 最後に、本章での分析を踏まえ、日台連携の今後、さらには日本企業のものづくりの今後への示唆を見ていく。

 1.日台連携の今後への示唆

  これまでの日台連携は、1980年代の、日本企業が台湾に直接投資を行っての生産や、1990年代の、日本企業から台湾企業へのODM委託など、日本から一方的に技術を与えるものであった。

  しかしこれからの日台連携は、日本と台湾双方の強みを生かし、世界市場を攻略する、というものになっていくだろう。鴻海によるシャープ買収は、そのベンチマークとなるかもしれない。

  そうだとすれば、鴻海によるシャープ買収に関し、「日本の電機産業の老舗が、台湾企業に乗っ取られた」などと悲観するのではなく、むしろ「日本の斜陽企業が、台湾のリソースを利用して、もう一度発展のチャンスを与えられた」と歓迎する姿勢で捉えねばならないであろう。

 2.日本企業のものづくりの今後への示唆

  以上に見てきたように、今後シャープは、技術をいかに利益に結びつけるかという、これまで弱かった点を克服せねばならないが、これは現在の日本企業のものづくりに多かれ少なかれ共通する問題であろう。今後の日本企業は、「はじめに技術ありき」ではなく「はじめに市場ありき」という姿勢で、技術を利益に結びつけるという観点からの製品開発や販路の開拓を行っていかねばならないと思われる。

  一方で、経済産業省が2010年に全国4532社を対象に実施した研究開発に関する調査によれば、「10年前と比べ、短期的な研究開発が増えている」と回答したのは、日本企業全体で44%、電気機器メーカーに限っては56%であった。つまり、日本企業、とりわけ電機メーカーは、近年、短期的なビジョンでの研究開発をするようになってきている(経済産業省2010)。

  しかし、このような姿勢では、今後の技術のシーズが欠乏する恐れもある。

  今後の日本企業は、中長期的視野にも立った、優れた技術を生み出してきた土壌は保ちつつも、その技術で少しでも多くの利益を生み出すための販路の開拓や、効率的な生産を追求する方向に、変わっていかねばならないであろう。それに加え、どんどん速まっている産業界のスピードに対応する迅速な意思決定システムや、貢献した社員に報いる給与体系に変えることも、考えていかねばならないであろう。

  鴻海によるシャープ買収は、日本企業にとって、ものづくりのあり方や、技術に対する考え方、意思決定システム、給与体系等、多くの点で再考を迫るのかもしれない。

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