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カントの『地理学』

『コスモポリタニズム』より カントの人間学と地理学

カントの『地理学』を検討すると、『人間学』の場合以上に深刻な問題が浮上してくる。カント研究者のあいだで『地理学』に対する無関心が見られるのも無理はない。というのも、その内容は知的・政治的に困惑させる記述に事欠かないからである。ロジエ‥ポルードロワが言うように、それを読むと「強いシヨツクを受ける」。なぜなら、そこに見られるのは「雑多な所見、体系なき知識、とりとめのない好奇心といったものの、信じがたい寄せ集め」だからである。このようなものが形而上学的考察にとって確かな土台を提供してくれると考えるのは、まったくばかげている。たしかに、カントは、愚劣で明らかに誤ったお話と、事実にもとづいた一定の信憑性のある事柄とを区別しようと努力している。しかし、それでも、カントが残しているのは、科学的信憑性よりも苦笑を生み出すようなたぐいの諸材料の寄せ集めでしかない。だが、そこにはもっと不吉な側面がある。テキストの大部分が、「自然地理学」(実際、これが彼の講義のタイトルだった)に関するしばしば奇抜な諸事実に費やされている一方で、自然の体系の内部における「人間」についても彼はあれこれ評しており、それらがまた実に困惑させるものなのである。カントは、さまざまな住民の習慣や慣習に関するあらゆる偏見に満ちた所見をまったく無批判に繰り返している。たとえばこんな風にである。

熱帯の国々では、人間はあらゆる点でより急速に成熟するが、温帯の人間におけるような完成の域に達することはない。人類がその最大の完全性に達するのは白色人種においてである。すでに黄色のインド人であっても白色人種よりも能力が低い。ニグロはもっと劣っていて、アメリカ原住民の一部はニグロよりも劣っている。

〔……〕

熱帯地方のすべての住民はずば抜けて怠惰である。〔……〕彼らはまた臆病でもあり、この二つの特徴「鸚号」は極北に住む諸民族と同じである。〔……〕’」の臆病さが迷信を生み〔……〕、王によって統治されている国々では、臆病さから奴隷のようになる。〔……〕オスチャック人、サモエード人、〔……〕ラップ人、グリーンランド人〔……〕等々は、臆病さ、怠惰さ、迷信、強い酒を飲みたがるという点で熱帯地方の人々と似ているが、後者に特徴的な嫉妬心だけは欠いている。なぜなら、彼らの住む気候は情熱をあまり喚起しないからである。

汗をかく量が多すぎたり、少なすぎたりすると、血液は濃くどろどろになる。〔……〕山岳地帯の人々は粘り強く、陽気で、勇敢で、自由と祖国を愛している。〔……〕動物や人間が別の地域に移動すると、環境の違いによってしだいに変化していく。〔……〕スペインに移住した北方の諸民族は体つきが以前より大柄でも強靭でもない子孫を残すようになり、その気質の点でもノルウェー人やデンマーク人とは似ても似つかないものになった。

ビルマ人の女性ははだけた服を着ていて、ヨーロッパ人の子どもを妊娠するとそのことを自慢するとか、ホッテントット人は不潔で遠くからでも匂ってくるとか、ジャワ人は盗癖があり、悪事を見て見ぬ振りをし、卑屈であり、われを忘れて激怒するかと思いきや、別の時には臆病にも恐怖におののいている、等々。このような住民に合理性や成熟といった観念をあてはめるのは困難だろう。

明らかに、このような地理学は、ヌスバウムが念頭に置いているものではありえない。民主的で共和制的な各主権国家によって構成される世界を構想しようとしても、体を洗わないホッテントット人、酔っ払いのサモエード人、盗癖のあるジャワ人、そしてヨーロッパ人の子どもを妊娠したがっているビルマ女性の大群といった恐るべきイメージにつきまとわれることになる。彼らはみな国境を越える権利、敵意を持って扱われない権利を要求している。まさにこうした地理的「状況」を踏まえることで、われわれは、どうしてカントがそのコスモポリタン的倫理のうちに、そしてその正義論のうちに、入国を拒否する権利(それが他者の破滅をもたらさないかぎりで)を含めたのか、なぜ歓待の権利が一時的なものなのか(入国が何らかのトラブルを引き起こさないかぎりで)、そしてどうして永住権が主権国家の側による恩恵ある法令に完全に依拠するものなのか(いずれにせよ、主権国家は厄介な連中に市民としての諸権利を与えない権利を常に保持している)、これらのことをよりよく理解することができるのである。おそらくは、成熟を示しうる者たちだけが永住する権利を認められるのだろう。またしてもベン(ビブのように、移民の諸権利と関連してカント的な世界市民法の制約を緩和するために激しく闘っている者たちは、世界市民法のカントによる定式化につきまとうこれらの地理学的偏見の、目に見えない残滓を一掃しなければならない。
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