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交通のリローカル化--コンパクトタウンとタウンモビリティ

『新市民革命入門』より リローカリゼーションの時代へ 地域循環型経済と暮らしへの道 経済のリローカリゼーションは何をもたらすか

相互扶助のあるコミュニティの再生へ向けて、交通はどのような役割を果たしうるのでしょうか。自動車過剰社会となって、道路は車に乗っ取られ、コミュニティは分断され、中心市街地は空洞化してしまいました。交通のリローカル化とは、道路をコミュニティの人々に取り戻すことです。中心市街地への自動車乗り入れを規制し、周辺農漁業者との連携を取り戻し、自然との関係を取り戻し、人々が集まってコミュニケーションできる「コンパクトなまちづくり」を考える構想が世界で議論、実現されています。

それは、自動車をできる限り規制し、徒歩、電動車椅子、自転車、路面電車(LRT)、バスを中心とする新しいタウンモビリティを構築することにあります。とくに自転車とLRTは、新しいまちの公共交通機関として再評価され、新しいタウンモビリティの時代が起ころうとしています。

交通のリローカリゼーション(地域回帰)とは、「タウンモビリティ」(コミュニティ交通)を考えることです。タウンモビリティとは、新しいまちづくり(都市計画)の構想として、誰もが自由かつ安全に外に出かけられ、人々が出会い、コミュニケーションし、助け合い、周辺の農漁村や自然をも大切にできる、そうしたコミュニティの回復を目指せる交通のあり方を考えることです。

現在の日本は、一方では地方都市の中心市街地が深刻な空洞化に直面しており、「シャッター商店街」は地方都市を語る共通語になっています。車過剰社会は限界にきており、環境汚染のみならず、まち中の道路建設・補修工事や駐車場建設への投資コストも高くなっています。そうして建設された幅広い道路がまちを分断し、人々の出会いを遮り、コミュニティを破壊しています。

他方で、今後の地域社会(コミュニティ)を見渡すと、地方都市でこれから人口が増える見込みはきわめて低く、都心へ通勤するための郊外のニュータウンでも、巣立っていった子どもたちはどの程度戻ってくるか分かりません。人口減少、高齢化、ライフスタイルや価値観の変化、それによる世帯構成の変化などに対して、どのようなまちをつくればいいのか。

明確なのは、人口減少と高齢化の急進展です。日本の人口は五〇年足らずの間に四〇〇〇万人も減少します。高齢化率は二〇二五年には三三%に達します。三人に一人が高齢者となる「まち」のあり方とは、地域の企業や公共施設などの建物が高齢者対応型であるだけでは足りません。すべての住宅・施設が高齢者対応型であるだけでなく、まち全体が高齢者・障がい者対応型のバリアフリーのまちになっていなければならないことを意味します。それには道路・歩道をはじめ公共交通機関のあり方が最も重要な課題です。

新しいまちづくり計画構想として、国際的に「コンパクトシティ(タウン)」の考え方があります。ヒューマンスケールで個性のあるまちを目指し、「コミュニティ再生」と結びつけた「コンパクトなまちづくり」を追求するものです。その中核的テーマはタウンモビリティ(コミュニティ交通)です。自動車交通をできるだけ規制し、徒歩や自転車や路面電車を促進して地域の自然や景観を大切にしつつ、人々の出会いの場をつくり上げ、市街地の活性化をももたらすまちづくりです。

車過剰社会からの脱出

 「コンパクトシティ(タウン)」は、きわめて包括的な概念ですが、国際的にすでに長きにわたり議論され、具体化してきています。欧米では「コンパクトシティ」「サステイナブル・コミュニティ」「アーバンビレッジ」「スマートシティ」などと呼ばれているもので、これらは各々強調点に若干の違いはあるものの、ほぼ同じ系譜の考え方です。

 コンパクトシティとは、地球環境の改善(二酸化炭素等地球温暖化ガスの排出抑制など)に取り組みながら、同時に都市の再生にもつなげられる都市構想を目指すものです。具体的には市街地の範囲を限定し、高密度化させ、自然をできるだけ浸食しないようなまちづくりを行う、低成長時代への対応型都市構想でもあります。

 欧州では、コンパクトシティヘの取り組みは、まず地球環境問題への対応から、自動車が排出する二酸化炭素削減から始まりました。次いで田園や自然環境保全などへと結びつき、人々の生活のあり方を問いかけるものとなり、それが都市間の国際的ネットワークの形成へとつながり、地域の持続可能性を高めるものとしてとらえられてきました。

 これに対して、日本のコンパクトシティ構想は、中心市街地の空洞化、郊外へのスプロール化、人口減少・高齢化への対応が発端となっています。具体的には中小規模の地方都市の中心市街地再生を目指すという考え方が中心となっています。

 EU(欧州連合)は一九九四年に欧州サステイナブルシティ&タウン・キャンペーンを行い、その一環として「オールボー憲章」を採択し、自治体の都市計画の柱として、以下のような具体的な提案を提示しました。これがその後コンパクトシティの構想の基本となってきました。

  ①より高い密度による、効果的な公共交通とエネルギーの供給

  ②ヒューマンスケールの開発

  ③複合機能の促進による、インナーエリアや計画的な新市街地開発における移動の必要性(交通需要)の減少

  ④自動車交通の必要性の減少

  ⑤徒歩・自転車や公共交通の促進

 日本では、一九九九年策定の阪神・淡路大震災後の神戸の復興計㈲書の中にコンパクトシティの概念が組み入れられていました。しかし、日本全国の自治体がコンパクトシティをキーワードに位置付けていくのは、二〇〇六年のいわゆる「まちづくり三法」の全面的見直し・改正後です。改正によって、これまで立地が原則自由に認められていた白地地域への大型ショッピングセンターや公共施設の誘致なども他の開発や立地と同様許認可の手続きを必要とすることとなりました。施設の郊外立地や市街地の拡大を基本的に抑制し、中心市街地への立地誘導を図ることを目指す方向への改正でした。この時の議論に使われた言葉がコンパクトシティでした。この概念は、青森市、金沢市、福井市、神戸市などの都市づくりのマスタープランとして導入されていきました。

自転車優先のまちづくり

 日本の交通政策は、大量の車をいかに効率よく捌くかに焦点があてられてきました。そのため道路は地域生活の中心としての役割を奪われ、単なる車の通路として認識されるようになってしまいました。車対策として、全国の自治体がとったことは、バイパスの建設と広い道路横断のための歩道橋の設置でした。

  自動車利用を前提とした道路政策によって、道幅はできるだけ広げられ、それがまちを分断してきました。空き地は駐車場となり、自動車を収容するための無機的な建造物に都市の貴重な空間を浪費する結果となり、隣人との触れ合いは阻害されてきました。

  自動車は、道路と駐車場のために巨大な空間を消費する空間浪費型の交通手段です。その空間処理のために莫大な財政が投資され、今や不効率となっています。さらに、自動車利用を前提とした都市では、自動車を利用しない人、利用できない人には住みにくいまちとなり、「社会的な格差(交通格差社会)」を生じさせることになりました。

  日本では、車の混雑・渋滞への取り組みとして、地方都市では市街地を貫通していた幹線道路のバイパスを建設していきました。このバイパス沿線や周辺に商業施設が開発されていき、さまざまな店舗がひしめき合うようになりました。一時はバイパス建設があたかも市街地拡大による地方都市発展の起爆剤と考えられるようになり、各地で続々とつくられていきました。

  しかし、バイパス周辺への大型商業施設の進出によって、中心市街地の商店街は急速に空洞化していき、シャッター街となっていきました。と同時に少子・高齢化に加え低成長、さらに若者は相変わらず都市へ流出することによって、購買力は拡大せず、外縁の農地を開発したスーパーなどのショッピングセンターも閉鎖されるところが目立つようになりました。大型空き店舗などが発生し、失業問題、後継店舗対策、取り壊し予算の発生などの問題が起こってきました。

  郊外への大型店進出によって、小売業の店舗面積は増大しましたが、これに比例して雇用数や販売額が増えてきたわけではありません。雇用数の伸び悩みは効率化と説明できるかもしれませんが、販売額の伸び悩みは所得の伸び悩みと人口減少という本質的問題によるものです。こうして市街地の空洞化と近隣のスーパーマーケットの閉鎖によって、障がい者・高齢者にとっては買物をする場が失われる「買物難民」の登場という事態さえ発生することにもなりました。

  買物難民をもたらしている理由には、郊外への大型店の進出のみならず、交通の利便性の衰退によります。これを回復するには、商店街の回復と活性化が必要ですが、同時に誰もが利用できるバリアフリーの公共交通の構築が必要なのです。
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